第24話 合宿10

 折れたフラグを立て直すぞ!! とは意気込んで見たものの、


「……どうしたもんか」


 現在俺は、みんながいるであろう別荘の裏側でしゃがみこんでいた。


 実際の俺はリア充でもなんでも無いのだ、フラグの立て直し方など分かるはずもない、別荘の中から聞こえてくるみんなの楽しげな声をBGMに俺はやるせない気持ちに苛まれていた。


「ったく、楽しそうで何よりだぜ……」


 人がこんなに悩んでいるのに何でお前らは、何てお門違いの愚痴なんか吐き出し始めた俺は路頭に迷いつつある。

 と言うか、アカリ以外のみんなは俺が何処にいるのか気にならないのだろうか? 仮にも俺は、具合が悪いと言って抜け出してきた身、これは余りにも酷すぎる気がする。


 そんな事を考えていたら、悲しみよりも怒りが湧いてきた俺は、そのままの勢いで立ち上がり、表側の玄関へとドスドスと歩いて行った。

 そして強めに、尚且つ丁寧に、と言う達人級のドア開きを決め込んだ俺を待っていたのは、


「お、ナンパに失敗した風音様ではございませんか!」

「こ、こら誠、それは可哀想だって……」


 まずイラっとする誠の言葉、そしてそれを咎めるアカリの声と、


「「ジーーー」」


 真顔で見つめる南部と早瀬だった。


 え、なのこの状況。


「ちょっと風音君、こっち!!」

「おわ! なんだアカリ、引っ張らないで……」


 そんな状況を見かねたのか、アカリは俺を引っ張って外へと連れ出した。



 *******



「いや、何事?」


 まず俺が言いたいことはそれだった。

 そんな俺の問いにアカリは呆れ顔で指摘する。


「いや、何事? じゃないわよ、アンタのために適当な理由つけてあげたんでしょうが!!」

「いやいや! それにしてもナンパ失敗してショゲて萎えてたってあんまりだろ!!」


 その理由だと俺の株が急落してバブル崩壊まで行くぞ!?


「そ、それはそのぉ……」

「なんだアカリ、言いたいことがあるなら聞くぞ?」


 俺は腕を組んでアカリを問い詰める、するとアカリはプルプルと震え始め、


「……うっさいバーカ! 私を泣かせたんだから自業自得よ!」

「んグッ!」


 ……それを言われると今の俺には何も言えなくなる。


「と、とにかく! 話合わせなさいよ? それが一番丸く収まるんだから」

「せめてナンパ以外とかにはなりませんかね……」

「なりません、異論は聞かないわ」


 なんて理不尽なんだ、ただ真面目に生きているだけで俺はナンパ男扱い、一体俺が何をしたって言うんだ。


「てか、美月は何処行ったんだ?」


 先程から見当たらない美月、アイツと一番に仲直りしなくてはいけないのに、肝心の美月が見当たらなくては話にならない。

 するとアカリも何やら微妙な顔をして、


「やっぱり……。さっきアンタを探しに行くとか言ってでてったんだけど、その様子ならそっちには行ってないみたいね」

「いや、待て、美月は一人で俺を探しに行ったのか?」


 もしそれが本当なのであれば、割と大問題である。

 何せ美月は方向音痴なのだから、それに今は猫ナビ何て便利なものは無い、そしてここは始めてきた場所。


「え、そ、そうだけど? 何かまずかったの?」

「……非常にまずい」


 そう言えばそうだ、みんなは美月が方向音痴である事を知らない、だったら止める理由も無いだろう。


「アイツ、方向音痴なんだ……」

「な、何ですって!?」


 驚愕するアカリを置いといて、俺は辺りを見回す。海沿い近くに位置するこの別荘の後ろ側には軽い森が広がっている、住宅街から離れた場所に位置するこの場所は、方向音痴の美月には危険である。


「悪い、俺ちょっと探してくるよ」

「待ちなさい、私も行くから」

「いやでも……」

「この場所をアンタより知っている私の手は必要ないと?」


 アカリはドヤ顔でそう言った、少しイラっときたが、確かに探すのにはこの場所を知っている奴がいた方が探しやすいのも確かである。


「……頼む」

「最初からそう言いなさいっての」


 胸を張ってそう言うアカリは少し頼もしかった。



 そのあと、別荘に残るみんなには真相を濁しながらアカリと共に家を出て、俺たちはまず別荘周囲を探し回ってみることにした。

 灯台下暗しと言う言葉を教訓にしている俺からの提案だ。


 しかし、


「いないか」

「いないわね」


 お互い顔を見合わせてそう呟く俺たち、と、そこで。


「と言うか、美月に電話すればいい話なんじゃないの?」


「……天才か」


 確かに、その発想はなかった。ここは住宅街から離れてはいるものの、電波が届かないわけではない。ならばここは携帯電話、と言う文明の力を使った方が効率がいい。


「こいつはこんな時でも役に立つのか……」


 取り出した携帯、(正式に言えば俺の持っているのはスマホと言うものらしいが、そんなこと俺の知る由もない)を、見つめていると。


「アンタは何処の時代生まれなのよ……」

「は? 何言ってるんだアカリ。平成生まれに決まってるだろう」


 アカリの意味不明なツッコミに俺は真顔で返す、すると、


「……」


 アカリは無言で近くの木に蹴りを連打していた。

 その姿はとてつもなくシュールで少しドン引きしてしまったが、俺は気を取直して電話帳から『クイーン』と、登録されている画面をタップして耳に当てた。


『……もしもし』


 ワンコールで出た事に少し驚きながらも、電話に出た美月の声を聞いて少しホッとする。


 しかし、


『風音なんか知らない』

「お、おい!」


 それだけ言い残すと、プツ、と電話が切れてしまった。


「切れたの?」


 いつのまにか隣にいたアカリは、通話終了と表示されたディスプレイを見てそう言う、それから、


「まあいいわ、場所はわかったから」


 と言って、自分の画面を俺に向ける、そこには、


「……俺の、……寝顔?」

「は? 何言ってんの……って、み、見るなぁぁぁぁ!!」

「あぶね!? お、思い切りハイキック打ってくるんじゃねぇ!」


 あと一秒でも頭を下げるのが遅かったら、俺の意識はアカリのハイキックによって刈り取られていただろう。


「い、いい? 今のは幻覚よ!」

「いやそんなこと言われても俺の寝顔……

 わかった、だから蹴りの構えを中止してくれ」


 どうやら今見たものは幻覚だったらしい。


「そ、それで、アカリの場所は?」

「そ、そうね、……あの森の中よ」


 そう言ってアカリが指差したのは、言うまでもなく裏手の森だった。













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