今夜は一緒に ―another story― passive side


 鍵を開け、誰もいない部屋の明かりをつける。



  ――あれ……?なんか……



 就職してから一人暮らしを始めた。実家から会社まで片道二時間ほどだから、通えない距離ではないけれど、家を出る生活に漠然と憧れを抱いていた。

 母親は今でも心配らしく、毎週のように電話してくるし、俺の好物を送ってくる。ちょっと鬱陶うっとうしいけれど、気にかけてもらっているのが少しうれしくもある。

 まぁ、一番うれしいのは、こうして飲んで遅く帰ってきても文句を言われないことだけれど。明日は休みだし、寝坊しないように心配する必要もない。



  ――なんか……違う気がする……



 今夜の合コン、あの子、可愛かったな。

 Lineも交換できたし、イケルかも。

 この時間にLineするのもチャラく思われそうだし、明日起きたらしてみるか。

 そう言えば、この前の会社の飲み会、あの先輩はどうにかして欲しいな。

 隣に座ったらベタベタしてくるし。

 俺、年上の女性ひと、苦手なんだよなぁ。


 シャワーを浴びようかと思ったけれど、かなり酔っているし面倒になって止めた。

 何か飲みたくてコップを探しに、綺麗に片付いたキッチンへ行く。

「あれ?」

 こんなところに置いたっけ?と思いながら、冷蔵庫を開け、牛乳の隣にあったアイスコーヒーのパックを取り出す。透明に輝くガラスのコップに、冷えたコーヒーを注ぎ一気に飲み干す。



  ――なんだ?この違和感は……



 一息ついたし、もう寝るか。

 掃除や片付け、洗い物なんかは苦手で放っておいても気にならないが、寝る前の歯磨きだけは欠かさない。どんなに疲れていても、酔っていても、歯を磨かないと気分が悪いのだ。

 洗面所に行き、二本並んでいるうちの緑色の歯ブラシを取り、歯を磨く。磨き終わって口をゆすぎ、鏡に映った自分の顔を見る。



  ――何かおかしい……はずなんだけど……



 帰ってきてから、ずっと違和感が続いている。

 何かがおかしいのは分かっている。

 分かっているはずなのに、気付くことが出来ない。


 だめだ、酔っ払ってて頭が働かないや。

 もう、睡魔に勝てない。

 寝よう。






 夢を見ていた。

 どこか草原なのかな。

 暖かい陽だまりの中で寝ていた。

 隣には、俺の腕枕で彼女が……

 温かいぬくもりが肌に伝わって……

 しっとりとした肌の感触が……

 ――感触?



 そこで目が覚めた。

 まだ暗いから、夜も明けていないのだろう。

 そして……

 左へ顔を向けると――


「うあぁっ!?」




                             active side へ続く





※塚宮はつよさんの企画「曲を聴いて想像を広げる会」参加作品。

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