砦の魔王

 砦街少年団は数々の困難を乗り越えて、遂には邪悪な魔王のもとまで辿りついた。

 エミルは振り返る。

 ここに至るまでの冒険と起きた出来事を。


 冒険の始まり、砦の正面門を抜けるための激しい戦い。


 そこで尊敬するミレーとの悲しい別れがあり、そして新たな出会いがあった。

 チンピラ風のボマーと、幸薄そうな美人のファントムの二人組である。

 

『うーん、二人は付き合ってるのかなぁ? お店に来る、お年寄り夫婦に雰囲気が近い』


 エミルの実家はお菓子を出す喫茶店を経営していた。

 隣がボブさんの家で、更に隣がレッドの伯父が経営するパン屋さんだ。


 道端で現れた貧相なネクロマンサーを倒した。

 道端で現れた太ましいダークエルフも倒した。

 二人ともエミルと手を繋いでいたカエデが倒してくれたのだ。

 エミルは驚いた。

 カエデの小さい手から炎や風が湧きだしたのだから。

 

『凄いカエデ強い! もしかしたらカエデは伝説の勇者の子孫ではないだろうか!? 勇者カエデ、うん、しっくりくる、なんか凄い強そう!!』


 偉い偉いとナデナデしてあげたら、うふーとカエデは喜んだ。

 

 ボマーとファントムの二人に案内されたのは立派なお屋敷。

 満面の笑みでみんなを迎えてくれたのは死んだはずのミレーだった。


『ミレー姉さんがいたのには驚いた。でも嬉しかった。実は生きていたらしい、凄い流石はミレー姉さんだ!! でも、レッドが微妙に変な顔してたけどなんでだろう?』


 とても美味しい食事をみんなでワイワイと取り、ターニャと女騎士達に見送らながらお屋敷を出る。

 しばらくしてから道端でばったり出会った暗黒騎士は強かった。

 

『カエデの攻撃に暗黒騎士は五発も耐えた。暗黒騎士を倒したら、何と呪いが解けて聖騎士になったのにも驚いた。聖騎士ライト、騙されやすそうな顔してるけど確かに聖騎士だ!!』


 聖騎士からは人数分の聖剣(紙製)を貰った。

 強くなった気がする!

 エミルと砦街少年団は魔王がいるという場所に向かった。


 四天王が三人しか出ていないことをエミルは疑問に思った。

 後ろの方で「あー出迎えの用事が出来たから騎士団長はキャンセルだって」「ミレー姉さん、それ何で僕に言うんですか?」などと二人が話していたが、エミルには何のことかは分からない。

 ただ、ミレーに乱暴に髪の毛をかきまわされているレッドの、嫌がっているが満更でもない様子にエミルは少しむっとしてしまう。


 とにかく彼らは邪悪で悪い魔王のもとまで辿りついたのだ。


 ――――


 砦の訓練や運動会で使われる場所……野外修練場。


 広大な修練所の中央には、並べられた安物の椅子が二つ。

 色々と演出するのを諦めたというか、存分に暴れてくださいという前夜祭スタッフのささやかな配慮と、さり気ない心使いと、もうどうにでもなれという自棄が見え隠れしていた。


 もちろん純粋な砦街っ子達がそれに気づくことはない。


 ――――


 雲一つなく澄み渡った空の下、魔王とお姫様が仲良く椅子に座っている。

 変な格好の魔王が、とても悪そうな感じで椅子に魔王座りをしていた。

 しかし悪い魔王という割には貫禄がない。

 化粧水を飲んで酔っ払ったり、猫の群に尻尾を噛みつかれ追いかけ回されたりしていそうな魔王である。


 それでも魔王なんだっ!!


 ひどく不自然な光景だったけど、砦街少年団の少年少女達は気にしなかった。

 何故なら隣の椅子には、囚われのお姫様が困り顔で座っていたから。

 こちらは物語から抜け出てきたような本当に美しいお姫様だった。

 わぁ……本物のお姫様だ、あとで握手してもらおう。

 そんなことを考える少年少女達。


 砦街少年団のテンションはいやがうえにもあがっていく。


 ヘンテコな魔王は椅子から悪そうな感じで立ち上がる。

 そして悪そうな声で、悪そうに話そうとして喉に負担がかかったのか、ゲホゲホと咳き込んだ。


 ヘンテコで威厳なくて頭も弱そうだ。

 

「ゲフっゴフっ……フ、ハハハ、よくここまで来たな、勇敢なる砦街少年団の良い子の諸君!! 早速だが取引、世界の半分、魔王の配下。ついでに言うならアタシの戦闘力は五十三万です」


 これは有名な魔王の取引、悪魔の誘惑だ!!

 でも何を言っているのか分からない!?

 ヘンテコな魔王は言葉も不自由で足りてなかった!!


「あの……魔王様、その、仰ることが難し過ぎて・・・・・、子供達には理解できませんので、もう少し分かりやすくはできませんか?」

「あ、そう? うーん、アタシの故郷だと普通に通じるんだけどなぁ」


 美しくて清楚なお姫様が苛ついた顔で「せめて人間の言葉で喋ってくださいよ」と吐き捨てるように言った気がするけど見まちがいだと思う。


「……え、ええっと、勇敢な砦街少年団の皆さん! どうか邪悪な魔王を倒してこの地に平和をもたらしてください!!」

 

 立ち上がったお姫様が腕を大きく広げて、まるで魔王のフォローでもするかのように懇願する。

 腕の動作に大きい胸がたゆゆんと揺れた。

 あ、こういう場面、勇者の紙芝居で見たことある!!

 単純な砦街っ子のやる気はうなぎのぼりだ。


 魔王は大の字に手足を伸ばし、魔王っぽい悪そうなポーズをとった。

 

「さあ、かかって来い! 砦街少年団の良い子の諸君!!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 魔王と砦街少年団との最後の戦いが、なし崩し的に始まった。



 魔王は強かった。


 エミルの腕の中にいるカエデがぷるぷると震えている。

 武者震いではない、恐怖で震えているのだ。


 変な格好で変な仮面を着けているのに魔王は本当に強かった。


 魔王はカエデの魔術をことごとく影さんぽいもので相殺する。

 そして大勢の影さんぽいものを作りだし、突然一糸乱れぬダンスをしてみせた。

 あまりにも見事すぎて、砦街少年団は思わず全員で拍手。


 でも中央で踊る魔王のリズムだけがワンテンポずれていた。


 力の差は歴然、それでもカエデは果敢に魔王に立ち向かっていた。

 エミルは彼女を抱きかかえたまま必死になって応援する。

 凄い魔力に酔いそうだけどエミルは強い子、我慢。

 砦街少年団も全員で応援、ミレーも一緒になって応援してくれる。

 レッドも一番声を張り上げて必死に応援している、流石は副団長だ。


 勇者の冒険物語のような幻想的かつ勇壮な光景。

 爆炎が上がり、風が巻き起こり、大地が隆起し、氷が砕けて雷が落ちる。

 砦街少年団も近寄って来る影さんぽいものを聖騎士に貰った聖剣(紙製)でペシペシと叩く。

 悲鳴(?)をあげて消えていく影さんぽいもの。


 あっ! 魔王に攻撃が当たった!?

 やったやった! みんな魔王を倒したぞ!!

 な、なにぃ、翼が生えた! 魔王が第二形態になっただとお!?

 もうだめだぁ、おしまいだっ!?

 

 ミレーの解説が熱かった。

 

 お姫様が「ああ、もう、二人ともほどほどにぃ……」と口に手を当てておろおろとしていた。

 大人の人達は全員が首を横に振っていた。


 カエデは闘志に満ち溢れていた。

 幼女の体からあふれる熱い魔力の滾りを、抱きしめていたエミルはつぶさに感じていた。

 しかしカエデがエミルの腕の中で震えだしたのはこのすぐ後。


 そう、真の恐怖はひょっこりとさり気無く、いつの間にかやって来ていた。


「……お二人ともこのような場所で、いったい何をなさっているのですか?」



 ◇



 モーリィは目を見張った。


 魔王ちゃんが年上の少女の腕の中で突然ぷるぷると震えだしたのだ。

 抱きしめている子は、確か砦街少年団団長のエミル。

 カエデは闇の竜並みの高い戦闘力を持っているが、同時にひどく怖がりな性質も持ち合わせている。

 ぷるぷる震えることは実はそれほど珍しくはない。

 つい先日も治療部屋の裏庭を掃除中にヘビを発見して驚き、モーリの頭に飛びついて危うく二人して池に転落しそうになった。

 その際、カエデの魔力が暴発し、運悪く何人かの砦の騎士に被弾したが、運が悪かっただけなので聖女的にも砦的にも問題は別になかった。


 そんなことよりも今は魔王役をやっている魔王様だ。


 彼女も震えている。

 そりゃもう、ぷるぷると派手に震えていた。

 モーリィは『カエデちゃんと震え方がそっくり』と妙な感心してしまう。

 あるいは彼女のリアクションこそが、カエデのオリジナルなのかもしれない。


 かくかくぷるぷると震えている新旧魔王の視線の先に人がいた。

 二人、魔族の女性だ。

 一人はモーリィも知っている人物。


「ふむ、派手にやったものですね……お母様、それにカエデ?」


 魔術攻撃によって凸凹の地表となった野外修練場を見渡し、腕を組んで呆れたように呟くのは黒衣のドレスをまとうひとであった。

 魔王様とよく似た美しい顔立ちに、魔王ちゃんと同じ炎色の髪と瞳を持つ女性。

 ただし、ぷるぷる威厳のない新旧魔王コンビとは違い、凛とした貫禄のある雰囲気を持っていた。

 そんな彼女とモーリィの視線が合った。


「お久しぶりですホムラさん」

「久しいなモーリィ……ほう、それが姫の格好か? ふふ、竜花草のような可憐さだ。素晴らしく似合っているぞ」

「あ、ありがとうございます?」


 モーリィは魔の国のホムラ女王陛下直々のお褒めの言葉を頂いた。

 竜花草がいかなる花かは不明だが、褒められているのだろう、たぶん。


 そしてもう一人の女性は……。


 魔族特有の尖った耳と切れ長の目、豊かな胸部装甲を持った小柄な体。

 地味だが仕立ての良い侍女服を身に着けており、全体的に柔和そうな顔立ちだが、しかしその表情は鋭い氷を思わせた。

 彼女はさらりと周辺を見渡し、ため息をつき、それから魔王様に近づいていく。


 魔王様は、カクカクぷるぷると震えて逃げ腰で後ずさる。

 

「……魔王陛下、どういうことか、ご説明して頂けますか?」


「う、あ、あのね……こ、これは……」

「人族に対し、理由なく力振るうことを禁じたのは陛下にございます。それを何ですか、この破壊し尽くされた酷い有様は?」

「あ、あ、これはお祭り、そうお祭りだから頑張って、ア、アレよお祭りなのがいけなかったのよ!?」

「しっかりと人間様の言葉で意味が分かるように喋ってください!! 陛下がそのようなだらしないことでは、カエデ様にも悪い影響が出るのですよ!!」

「ひぇ、ひぇ、ごめんなさいっ、ひぇ!!」


 小柄な侍女服の魔族女性にとっちめられている魔王様が、流れるように正座をしたのは余程繰り返された動作だからだろうか?

 その動きは何らかの武術です、と言い切れるほどに無駄がなく洗練されていた。

 万歳しながら必死に言い訳を試みる変な仮面をつけた魔王に、砦街少年団の少年少女達は何が起きているのは理解できず、ぽけーとしてしまう。

 エミルに抱かれているカエデは泣きだし、少女の薄い胸に顔を押し付けている。

 どうやら恐怖のあまり抱きつき防御姿勢に入ったようだ。


 モーリィとホムラはその様子を眺める。


 小柄な魔族女性は怯える魔王様の仮面を無理やり剥ぎ取ると、現れた美しき顔を指でわしづかみにしてギリギリギリ。

 凄まじく痛そうな悲鳴が上がった。

 その光景に二人は、体を震わせて何ともなく顔を見合わせる。

 モーリィの何とも言えない表情に、ホムラも何とも言えない表情で答えた。


「侍女長だ……」


 侍女長だ……その一言には不思議な説得力があった。

 モーリィの父ステファンが言う「アイラだからね」と同等の重さを感じた。

 

「や、やめて、角はやめてぇ!?」


 侍女長が魔王様のをつかんだ……しかし抵抗された。

 あ、でも凄い、片手で引きずり回している。


「やれやれ、派手にやっているようですな……」


 疲れたような声色とともに音もたてず現れたのは、用事があると席を外していた吸血鬼姿の騎士団長だった。

 いきなり声をかけられてモーリィは驚くがホムラは動じない。


「困りますよホムラ様、せめて案内するまで待っていただかないと」

「すまんなアル。私はそうしようと思ったのだが侍女長がな……」


 その言葉に、魔王様と侍女長の場外乱闘をちらりと見る騎士団長。

 魔王様がタップしている。

 侍女長の裸絞が彼女の細い首に深く決まっていた。


「ふむ、母娘三代そろって侍女長殿には弱いようですね?」

「否定は出来んな。だがなアル、誰だってお袋・・さんには弱いものだろう?」


 まったくですねと笑いながら応じる騎士団長。

 モーリィは二人は知り合いだったのかと少しだけ驚く。

 唯の知人よりも深そうな感じに、従姉の白銀髪女性を思い出した。


「た、助けて、アルちゃん助けてぇぇー!!」

 

 魔王様は騎士団長がいることに気がついたのだろう、最後の望みとばかりに涙目でぷるぷると助けを求めた。

 しかしそんな魔王様に対し、騎士団長は冷ややかな顔で返した。

 まるで屠殺場に運ばれる家畜ぶたを見る目だ。

 

 彼の態度に、腕挫十字固を掛けられていた魔王様はハッと何かに気づいた。


「ま、まさかアル……わ、を売ったのか!?」

「時期が悪かったのですよ、祭りに魔王は二人・・もいりませんからね」

「き、貴様ぁ!! は、謀ったな! 謀ったなぁアルっっっ!!」

「魔王様……貴女は少々やり過ぎた」

「ち、ちくしょおおおおおおおおおおお!!」


 ククッと邪悪に笑う騎士団長は魔王様よりもよっぽど魔王みたいだった。

 聖女モーリィどころか、女王ホムラまで「うわぁ」と声に出して引いていた。


「アルフレッド様、協力に感謝を。皆様、大変お騒がせしました。ではごきげんよう」


 侍女長は満足したのか、後はさっさと撤収とばかりに、一同に対して微笑み見事な淑女の挨拶をする。

 その場にいた全員が無意識の内におじぎをしていた。

 礼とは、心より相手に敬意を感じた時に自然と出るものである。


 侍女長の手に握られている太い尻尾は全員見ていない。


 魔王様は魂を削るような悲鳴を上げて、ずるずると引きずられていく。

 足掻く彼女が突き立てた闇の爪が凸凹とした地面に深く長い傷跡を残した。

 それを見送った騎士団長は、何事も無かったかのようにトーマス達の元に歩いて行った。

 どうやらイベントの修正をするようだ。


「まあ、失礼した。私もカエデを連れて帰るとしよう」

「は、はい……その、お疲れ様です?」

「ああ、本当にな……」


 ホムラは艶やかな赤髪を軽くかき上げるとため息交じりに呟き、娘を見た。

 そして彼女は砦街少年団の少年少女達に囲まれるカエデの姿に目を見開いた。

 視線を離せない、そう言い表すのが一番近い状態だろうか。

 感情表現が豊かな女性であるが、いつにない様子をモーリィは不思議に思った。

 

 ぐずっているカエデはエミルに抱かれ、周りの少年少女達に慰められている。


「モーリィ、一つ聞きたいことがある」

「はい、何ですか?」

「その……あの子達は、そのだな……カエデの、と、友達なのか?」


 ホムラの聞くことをためらっているようなその態度。

 彼らは友達……だろうとモーリィは思った。

 物怖じしない気質の砦っ子はともかく、はにかみ屋のカエデがあれほど溶け込んでいるのだから。


「ええ、あの子達はカエデちゃんの友達ですよ」

「そ、そうか……そうかそうか」


 ホムラは安堵したようだ。

 モーリィには彼女の声は喜びを含んでいるように思えた。


「あー、モーリィ。このお祭りの、この後の予定はどうなっている?」

「はい、魔王討伐のイベントが終わった後は、みんなで夕飯を食べて入浴してから特別宿舎でお泊り会ですね」

「ふむ……」


 顎に指を当て思案するホムラ。


「すまないがモーリィ……カエデも一緒にお願いしていいだろうか?」

「え、ええ、構いませんが、その、よろしいのですか?」


 以前カエデを部屋に一泊させた後に、魔王様からホムラと侍女長にダブルで一晩中説教されちゃて云々という話をモーリィは聞き及んでいた。

 その時は、一晩って大変ですね……くらいの軽い気持ちで答えていたが、先程のを知ってしまうと洒落にならない気がする。


 モーリィの不安に気づいたのかホムラは苦笑した。


「大丈夫だ。侍女長は理由があり、説明するなら怒りはしないさ」

「あ、そうなのですか、それなら問題はないですね」

「ああ、それにお母様も、あれはあれで楽しんでいる部分があるからな」

「へ? 楽しんで?」


 世の中には痛めつけられることに喜びを見出す人がいるという。

 あの魔王様もそんな性質なのだろうか?

 高貴な御方の聞いてはいけない特殊性癖を聞いてしまい頬を染めるモーリィに、察したホムラが慌てて手を左右に振る。


「ああ、違う、違うぞ? 誤解をさせるような言い方をしたな」

「そ、そうですよね? すいません早とちりしました」


 モーリィとホムラは二人して頬を染めた。

 女王は真面目な顔を作ると咳払いを一つ。

 そしてエミルの胸の中でうつらうつら眠りだしたカエデを遠目で眺めながら語る。


「他者より遥かに強い力を持つということは、恐れられ、媚びられ、利用され、最後には孤独になるということだ。本人が何とかできる問題ではなく、そこに例外はない。我々魔族ですらその傾向はある」

「魔王様が、孤独……」

「ああ、お母様は誰よりも実感して知っているのだろう。だから侍女長のように人として接してくれる者が何よりも嬉しいのだ」

「……………」

「私も、そしてあの子も、お母様ほどではないが似たようなものだ」


 彼女の言葉には経験者としての重みがあった。


 モーリィは自分に置き換える。

 力……聖女の常識外れといえる治癒の能力。

 考えて怯える。

 自分もいずれそう感じる日がくるのだろうかと。

 しかしホムラ見て、その不安は水を流すように消えていった。

 カエデを見守る彼女の顔は優しく、誰よりも強い母の顔だったからだ。

 

「ホムラさん、カエデちゃんを一晩お預かりしますね」

「そうか、感謝するぞ聖女モーリィ」


 聖女と女王は、お互いに微笑みあった。



 さて、『砦街少年団の魔王討伐前夜祭』も後片付けかなとモーリィが思った瞬間、いきなり背後から腰に手を回され抱きかかえられた。

 突然のことにモーリィは驚く。

 目の前のホムラも今度は驚いた表情をしていた。

 モーリィの体を片手で軽々と持ちあげ、逞しい胸に抱きよせている者は騎士団長だった。


「ふえぇ!?」


「フハハハハハッ、砦街少年団の諸君!! 邪魔な魔王は我が策略により消え失せた!! だが戦いは終わりではない、真なる魔王の私を倒し、美しき姫を救い出してみせるがよい!!」


 ばさりとマントを翻す、古式貴族の衣装を身に纏ったヴァンパイヤロードにモーリィ姫はウィンクをされた。

 つまり、そういう演出になったらしい。

 呆気にとられながらも周りを見るモーリィ。


 しかし次の瞬間には声に出して小さく笑ってしまう。


 強引すぎる修正なのに、砦の騎士達は本当に得意げな顔をしている。

 仕方のない大人達だと感じつつも、それが愉快に思えたからだ。


 突然の追加イベントに目をぱちくりとさせている砦街少年団の少年少女達。

 だが騎士団長の言った言葉の意味が伝わると、不完全燃焼だった彼らのボルテージがじわじわと上がっていく。


「み、みんなー! 何とヴァンパイヤロードがこの事件の黒幕だったのよ! やつを倒して、お姫様を救い出し、砦街の平和を勝ち取るのよ!!」


 申し合わせたタイミングで、ミレーが発破をかけるように煽った。


「よーし、みんな頑張るよ!!」

『おぉ――――――――!!』


 瞬時にテンションを上げた砦街少年団団長エミルの掛け声に、砦街少年団全員・・が一斉に呼応し、再び魔王討伐戦が開始されたのである。



 ヴァンパイヤロードこと騎士団長アルフレッド・バードリーは、六発・・ほど耐えたことを記しておく。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 おまけ、エミルの冒険、脳内早見表



 カエデが仲間になった


 ミレーがログアウトしました

 レッドに助けてもらった

 ボマーとファントムのカップルが仲間になった


 ネクロマンサーを撃破

 ダークエルフを撃破


 ミレーがログインしました

 レッドが微妙な顔をした

 美味しいご飯を食べたよ!


 ダークナイトを撃破

 パラディンが仲間になった

 聖剣を貰ったよ!


 騎士団長はキャンセルになった

 ミレーとレッドの仲がよさそう


 魔王が現れた!?

 お姫様を発見した!


 影さん達がダンスをしたよ凄い!!


 謎の美人なお姉さんが二人現れた


 カエデが泣きだした!


 魔王が謎の侍女さんに討伐された!?


 ヴァンパイヤロード?真の魔王が現れた!?


 目を覚ましたカエデが真の魔王に魔法をぶち込んだ!!



 to be continued……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る