万華鏡散歩2 /夢のおく

羽風草

第1話 荷物

 その大きくてやわらかい塊はもったりしてつかみ所がない。まだ巨大円形ビーズクッションのほうが持てる。

 これは自分のニモツ。誰もが自分で持っている。そもそも自分自身のニモツなんだから、誰かに持つことを手伝ってもらうものじゃない。そういうものだとわかっている。わかっているんだけど。

 トイレに行きたくなって、ちょっと置いて用をたして、戻ってまた持とうとしたら、ふしぎなことにうまく持てなくなっていたのだ。これは困る。ついさっきまで片手でひょいと持っていたのに。

 もう一度持ってみよう。


 くにょんてれんとろんむにゅんぬろりん


 まるでつかみどころがない。

 握っても指の間から抜けるし、両手で抱えても腕から抜けてしまう。困る。

 家族に手伝ってもらうわけにもいかないし(子どもじゃあるまいし。はずかしすぎる)持てないんじゃ鞄に入れることも出来ない。

 どうしよう。これから一家でお出かけなのに。家族が玄関で待っているのに。

「はやくしなさい、遅れるよ!」

「はあい!」

 お母さんがイライラしてるのがわかる。早く行かなきゃいけないのに。

 こうなったら、もういいや。

 自分のニモツを部屋の床に置いたまま玄関に向かった。

 靴を履きながら、ふと身軽になっていることに驚いた。すごい軽い。感動する。

 先に車に乗車していた家族には目を丸くされた。それぞれ膝に肩に置いているニモツを指しつつ、ニモツについて聞かれる。

「あれ、お前のニモツは?」

「いいの! はやく行こう、遅れちゃうよ」

 でも、と言われても、取りに戻る気はなかった。

 たまにニモツを持たない人が歩いているけれどこういうわけだったのか、と納得した。私のニモツはこれからずっと部屋保管に決定だ。



 ここで目が覚めた。

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