パラレルセイバーメトリクス！！

プロローグ

　古代ギリシャの哲学者・ピタゴラスは、「世界のすべては数で表せる」と説いた。

　これは机上の空論でも、荒唐無稽な絵空事でもない。

　棋譜を見ただけで伝説の激戦が目に浮かぶように。スコアを手に取った指揮者の脳内に、オーケストラの重厚な旋律が響くように。この世に満ちる数値（データ）は決して、ただの無機質な記号の羅列などではない。

　ひとりの人間が歩んだ、必死で刻みつけてきた人生の証なのだ。

「死んでもタマ獲ったるわ！」八重歯を光らせて猛る不動（ふどう）冥子（めいこ）。

「あらメーコ、そんなの当然じゃない」マスクをかぶったジョーが首を傾げる。美しい金髪が揺れ、初夏の日差しにきらめく。

「冥子の言う“タマ”ってのは球（たま）じゃなくて“命（タマ）”のことだから」急造ショート・剛力（ごうりき）さららが冷たい声で指摘した。

　マウンド上、握りしめた白球を見つめる渚（なぎさ）。

「おーしみんな、締まっていこう！」

　俺はベンチからありったけの大声を出した。初夏の晴天に吸い込まれていく。

　今から俺たちは、たったの9人――しかも、全員女子――でアメリカ合衆国に戦いを挑む。

「プレーボール！」

　空は晴れ渡っている。絶好の野球日和だ。