赤鬼娘

一葉(いちよう)

第1話 プロローグ 私が婚約?嘘でしょう

「はい?こ、こ、


私は思わず叫んでしまった。

(小学生なんですけどー)



「な、な、なんとおっさるお母さん、私たち出会ってまだ一週間なんですけど」

「そう、嫌なら辞めなさい」

「えっ嫌じゃない、嫌じゃない、嫌じゃないけど、まださんの事何も知らないし、私は歳すら言ってない、それに赤鬼の事だって、、、」

 

 婚約を言い出したのは私の母、先日小学生の私がすぐ真横に居るこの人のバイクに当てられ大けがをした、にも関わらず、なんと私は加害者の大学生の人に一目ぼれ、昨日は何百人と居る公衆の前で「私の傍にずっと居てください」なんて言ってしまった、その結果。


 「あらあら、なんて無鉄砲な娘、ずっと傍に居てくださいなんてプロポーズした様なものよ、まあ私は中三の時だったけど」

「えっ、っちょ、ちょっとなんで知ってるの」

「母は偉大なり、何でもお見通しよ、ユーチューブ御覧なさい、トップに出ているわ」

「へっユーチューブ」


 さんがスマホを取り出しタップする。

「おう、すごい閲覧数ですね、おっとアップされてる数もかなりあります、はい」

 私に見せてくれる。


「えっ、撮られてたの、うわっどうしよう」

 さんは困った様子もなく、

「この姿はお母さんくらいしか分からないんじゃないかな」


 確かに真っ白なマネキンと同じ位の顔色はお化粧でほんのり桜色、しかも無色透明で一見眉無しヤンキー顔はくっきり眉(ゲジゲジってくらい)でお嬢様かもって感じがしないでもない?


 それに私の私の素顔を一番知っているのはこのあおきさん、次に私、お母さんは長らく素顔を見ていない筈。


さん?撮られているの知ってたんですか」

「大勢がカメラを向けていたからね」

「あっ、私全然見てなかった、それどころじゃなかった」

「まったく、さん以外目に入ってない様ね、その歳でフォーリンラブとわね」

「お、お母さんだって中学の時でしょ、大して変わらないじゃない」

「私は十五よ、あなたなんてまだ十、、、」


 そこでさんが割り込んだ。


 「すいません歳は聞かない事にしたんです、もしかしたらまだ結婚できない年齢かも知れないと思いましたから。何年でも待ちます、いま歳を聞いてしまうと踏みとどまってしまうかも知れません、あっ申し遅れました青鬼と書いてあおきと言います、青鬼あおきこう、青空大学の三回生です」


 お母さんが一瞬固まる。


「まあ青鬼のさん、なんだか息子みたいね」

「そうなの、お兄ちゃんだよ」

「えっ?何故アキブなのに?」

「えーとねお母さんは、いやお父さんが青鬼のさん、お母さんは元赤鬼で赤鬼舞あきぶ勇子ゆうこ、がお嫁に入って青鬼勇子、産まれた私は借金のかた赤鬼舞あきぶ家に取られて赤鬼舞杏あきぶあんていう事」


「これ借金のかたって時代劇じゃないんだから、相続の事情よ、あんたが道場を選んだから」

「あんなの幼稚園児に電気屋か道場かを選ばすからよ、見た事もない工場より目の前の道場選ぶわよ」


 実際はお父さんが倒産寸前の電気会社の懇願された社長就任を断らず、借金まみれの会社の社長になった、手形の支払いができず株式発行と言う形で資金をおじいちゃんに出してもらったのだ、だから私は借金のかた


「幼稚園の前よ、爺さんの力を借りるしか無かったの」

「やっぱり借金の形じゃない、でもこれで良かったと思うけど、私はやっぱり道場の方が合ってる」

「あんなのただの道楽よ、会計やってて分からないの、人件費さえまともに払えないってのに」


 青鬼さんのカップが空いているのに気付いてハーブティーを注ぐ。

「どうぞ」

 青鬼さんに進めてから。


「アオキ電機だって大差ないけど、給料と税金払ったら幾らも残らない」

「ちゃんと配当払ってるわよほとんどくそじじいに、お金回りが良いのは爺さんだけなんだから」


 今度はお菓子を進める。


「まあそうでしょうけど、と言う事はほとんどの株はおじいちゃん名義なの」

「そうよ、だから爺さんがくたばったら第一権利者はあなたよ」

「お母さんは?」

「あなたが一番目の娘、私は二番目、もっともどうせあなたに相続させるからあなたのものよ」


 青鬼さんの顔をのぞいてニッコリ。


「うちは相続争いって無いんだね、姉妹も居ないし、お母さんもう、、いやなんでもない、なんでもございません」

「もう一人下の子が欲しいの、お父さんが帰ってくれば考えてもいいけど」

(無理な話、もう五年も帰ってこない)

 

「それにしてもお熱いこと、見ちゃいられないわ」

「あの、差し出がましい事ですがお父さんはどうされたんですか」

「私が小学校に上がる前、あっ歳ばれちゃう、まっいいか、海外に出張へ行って誘拐されちゃいました、犯人からの要求も連絡も一切なし、だったよね」


 そう言ってからキッチンカウンターに置いている写真入れに入った家族写真を取って青鬼さんに渡す。


「そう、いっさい消息不明、だから誘拐事件なのかもハッキリしないまま」

「それでねそれまで専業主婦だったお母さんが社長に祭り上げられたの」

「誰も引き受けてくれる人が居なかったんです、随分持ち直していたけど、数年前まで倒産寸前だったから、そんな事分かっていながらお父さんたら社長なんか引き受けちゃって、元の会社勤めの方が景気が良かったのに、断れない人だから」

「お母さんだって」


 私は青鬼さんが持っている写真のお父さんと青鬼さんの顔を見比べる、全く違う。


「夫の留守を守るのが妻なのよ、私が逃げてどうするの」

「はいはい、おかげで私はいつでもお嫁に行けるほど鍛えられたよ、ねえお父さんと青鬼さんて何となく似てなくもない、、、かな」

「そりゃ親戚よ、遠いか近いか分からないけど、青鬼は同じ血族に決まっているわ」

「赤鬼は?」

「元は一つ」


 わたしが、

 「あー」

と声を漏らす。


青鬼さんが「どうしたの?」と、

「なんか夢みたい」

「まったく」


 お母さんが突然、

「と言うことで私が引退した折には青鬼さん社長をよろしく」

と宣言した。

 (図られた!)


「結局跡取りが欲しかっただけじゃない」

「だけじゃないわよ、いつまでも売れ残りそうな娘の婿を今から確保しなければならなかったの」

「なるほど」

「そんな簡単に納得しなさんな、私が考えていたのは、杏、あらなんか変だと思ったら樹莉杏じゅりあんよあなたは、この子は樹莉杏じゅりあんなのよ青鬼さん、樹莉杏の未来の旦那かまだ先だけど、生まれた子供に継がせようと考えていたの」

「鋼さんの前で樹莉杏はやめてよ、樹李杏は赤鬼なの嫌われちゃうわ」

「いつも樹莉杏でしょうに」

「学校は良いのよ、私の天下だから、学校以外は杏なの」

「樹莉杏、ほんとの名前?」鋼さんが聞いてくる。


「ほんとって言うか、役所に届けるときにお母さんが勝手に杏から樹莉杏に変えたの、そうなんでしょ」

「そう、海外でも通用する名前にしておかないと、ちゃんと呼んで貰えないのよ、英語でアンはNOと同じ意味よ、だめとかイヤなんて名前有り得ないわ」

「アン王女はどうなの、ローマの休日、映画の主人公よ、本物の女王も居たんじゃなかったかな」

「グレートブリティン最初の女王、1707年だったかな」

「わお、さすが現役大学生、どうお母様」

「そうね、顔良し、頭脳明晰、後は決断力、、も有りそうね、合格」

「ちょっとー、そっちじゃなくてアンの名前、グレートブリテンだよブリテン」

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