第28話 間章八

 床に倒れた彼女は、もう動かなくなっていた。

 何故こんなことになったのか。お互いの立場のせいなのか。お互いの立場を弁えず恋仲になったことが原因なのか。私が頑固だったからなのか。

 今となっては遅すぎる後悔だ。彼女は死んでしまった。

 扉の向こうから、女の声が響いた。

「閣下、入ってもよろしいですか。本日の魔法使い育成の報告に参りました」

 返事はできなかった。眼が、冷たくなった彼女から離れない。

「閣下? 閣下、ご無事ですか。入りますがよろしいですか」

 女の切迫した声。扉の開く音。短い悲鳴が聞こえ、ようやく私は振り返った。

 女は呆然として、私と彼女を交互に見ていた。

「閣下、これは、その、何があったのですか」

「……片付けろ。彼女は事故死した。グルピアリスにそう報告する。公にはするな」

「え? それは、どういう」

「急げ!」

 飛び上がるように、女は敬礼した。

「了解しました。最小限の応援を呼んで参ります」

 女が執務室を走り出ていく。私は椅子に腰を下ろし、死体になった彼女を眺めた。

 もう、後戻りは出来ない。

 過程は重要ではない。結果として、彼女は死んだ。

 私が殺したのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る