カラフル✖️カラフル

雪純初

紅色 ~傷~

紅色 ~傷~ プロローグ

 君を───────

 誰よりも好きだ。

 誰よりも想ってる。

 誰よりも見ている。

 誰よりも考えてる。

 誰よりも誰よりも…………。

 だから────────────死んで。


 その日、僕は死んだ。

 好きだった人に殺された。

 後悔はある。未練もある。憎んでもいる。

 しかし、溢れかえる感情は全てが彼女にいくものだった

 彼女の宣言通り、死んだ後も僕は彼女のことを考えている。

 これが彼女の望んだこと。

 生きてる間に沢山愛し、飽く前に殺す。

 生きてる間も自分のことをおもう。

 死んだ後も自分のことを想う。

 形が何にしろ、僕は彼女を想っている。


 ──ぶっ殺してやる、と


 僕は思う。おもう。おもう。おもう。おもう。おもう。

 彼女がしたことは間違いなのか?、と。

 もちろん、人を殺すことは法律上で禁止されている。

 金目的。体目的。快楽目的。復讐目的。生存目的。知識目的。などetc……。

 世間で「悪い」と多数の人間が思えば、それは悪い事になる。

 上記で上げた目的はどれも世間で「悪い」と思われるものばかりだ。


 ──なら、彼女は?


 彼女はどうだ。

 何の目的で僕を殺した。

 思い、想い返す。好きだった彼女の事を。

 彼女は僕に言った。

 笑顔でさも当然のように、


『私は君を想って貴方を殺すの』


 と。

 意味不明。

 理解不能。その言葉しかでない。

 僕には納得出来ない。

 そんなにも僕を想ってくれているのにどうして僕を殺すの、と。

 彼女は言った。


『だからこそ。私は君を殺す。死んだ後も私を想えるように。好き。想っている。君を想う言葉は溢れかえるばかり』


 と。

 僕はそんなアブノーマル望んじゃいない。

 ごく普通に君と過ごしたかった。

 彼氏彼女として。

 付き合って、結婚して、子供をさずかって、孫ができて、病気か寿命で死ぬ。

 それで良いじゃないか。

 ノーマルで良いじゃないか。

 何がダメなのか。

 人より『不運 ふうん』なだけのごく普通の高校生の僕にはそれ以上はわからなかった。

 いや……わかりたくもなかった。

 そして、彼女は言った。


『わからないのも無理ないね。世間では私は異常者として見られる。けどね、私は本当に君のことを想っているんだよ。それは、君もでしょ?』


 ああ。

 僕も想っていた。初めて会った時からずっとずっとずっと想っていた。

 彼女も同じ気持ちならどれほど嬉しいかと。


 ──今日、この日までは……


 僕の想いを壊したのは……他でもない彼女なのだから。

 僕の想いをドブに捨てさせたのも彼女なのだから。


『でも、君は想ってくれている。死の寸前でも君は私を想ってくれている。あぁ、なんて幸福なのかしら。私を想ってくれている人が、死んでも私を想ってくれるなんて。大丈夫よ、私も死んだ君を想ってあげる。ずっと、ずっと…………ね』


 じゃあ、僕を殺して彼女は想っているのだから当然彼女の方も死んで僕のことを想ってくれるのだろう。

 ……そうじゃなければ筋が通らない。


『私は死なない』


 と。

 彼女は息を吐くのと同じように告げた。

 単純だ。当然だ。

 彼女はそう…………言った。


「ふ、ぶざけるな!」と声なき怒号は静寂の空間を埋めることなく、自分の胸の内で霧散して呆気なく消え失せた。

 ……その言葉にはもう気力は無かったのだ。

 僕は死ぬ気で重いまぶたを開ける。

 目の前で優雅にたたずむ彼女は、


『そろそろお別れかな。でも大丈夫。死んでも君を想っているよ。確かに私は死なないけど、君が私を想い続ける限り私は君と一緒にいるよ。……では、さようなら。そして、おやすみ。来世でまた、逢いましょ♡』


 彼女は軽い口どりで言い、扉をガラガラと僕も彼女しかいなかった教室に音はよく響き渡った。

 最後ならもっと愛情ある言葉が良かった。

 そんな、小さな願望が浮かび上がる。

 .....僕は気付いた。

 彼女の想うは、「好き」「愛する」ではなく、文字上の意味通りの「想う」じゃないか、と。

 そこで……僕は沈み始める

 徐々に身体は重く、瞼は閉じ、黒い黒い夜空が段々と拡張し、僕を覆う。

 死ぬ……のか僕は。

 もう今更、生きようとは思わなかった。

 好きだった彼女に殺された。

 単純明快な事実が僕を本当の意味で殺す。

 物理より精神攻撃の方が痛いのは常識だ。

 僕は生を諦め、みえない流れに身を任せる。

 川に流されるように、ユラユラと波に身体を捧げた。


 ──でも、叶うなら、どうか神様。彼女が1発″想いっきり″ぶん殴られますように。


 僕はポチャンと沈んだ。

 深い深い、暗い川の底に引っ張られるように僕の身体を『死』へと誘う。


 結局、彼女はただの一度も「愛してる」と言ってくれなかった。

 結局、彼女は僕の名前を最後まで「君」と呼んだ。


 この日を境に少年の人生は大きく狂うことになる。

 色色いろいろな人が色色 いろいろな物語が

 ──″カラフル″に。




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