第7話 ブス脱毛してよかった。~脱毛編完結~

脱毛してすぐは、特に効果を感じられるようなことは起きなかった。


ただ、さっそく脱毛してよかったと思えた事は……、ケツ毛がないと、ケツを拭くのがめっちゃ楽!!!


これはもう、ケツ毛を剃った人はみんな思うことだと思うけど、ホントにめっちゃ楽だ。ウォシュレットを使うにしても最初と仕上げにはペーパーで拭く訳で、その時に毛が引っ掛からずにツルッと拭ける快感!!これだけでもう、脱毛してよかったと思える…!


ケツ毛のない快感と、Vゾーンに毛がないのに慣れなくてトイレや風呂の度に「うひゃ~」ってなる違和感を同時に感じつつ、2週間くらい経ったころだろうか。


施術後に伸びてきていた短い毛が、ポロポロ取れてきた!


私の場合、いちばん効果が分かりやすかったのはVゾーンで、とにかくパンツに抜けた毛がつく。風呂に入っている時にちょっと指で撫でてみるとポロッと抜ける。


抜けているとは言っても、まだまだいっぱい生えている。が、生え方に濃淡が出てきた。多めに抜けた部分とまだ生えている部分とのグラデーションができ、独特のまだらな毛並みになってきた。この感じがどれだけ分かって頂けるか分からない。お見せできなくて残念だ。


そんなふうにまだらになったVゾーンを眺めるのが面白くて、ついお風呂の湯船の中で「…ほほぅ~~」なんて思いながらしげしげ見たり指で撫でたりしてしまう。いつもは早風呂の私の入浴時間が毎日平均30分は伸びた。


他の部位の毛も、あきらかに以前より生え方がまだらになってきている。いつのまにか服とかに擦れて取れているようだ。ちょっと毛が減ってスベスベしてきた自分の脇を撫でてはほくそ笑む。毛がないと、肌の色も白くなって、しかもツルツルしてきている気がする。何となくにおいも前よりクサくない気がする。気のせいかもしれないが。



もちろん1回施術を受けただけでは全部がツルッツルにはならない。まだまだ生えている毛もあるし、これから生える予定の毛も皮膚の中にあるだろう。施術を何回も繰り返して、その毛を少しずつなくしていく訳だ。道のりはまだ長い。


でも、やってみて本当によかった。まばらになって手入れしやすくなった毛を二度目の施術に備えて剃りながら、しみじみそう思った。



最初にサロンに足を踏み入れたとき、ロビーにいる他のお客さんがみんな芸能人のような美人に見えた。寝起きで寝癖頭にどすっぴんでテレビ収録の女優控え室に放り込まれたようなアウェイ感しか感じられなかった。


が、施術が終わって帰る時、たまたまエレベーターホールでさっきまでサロンのロビーにいた他のお客さんとすれ違った。広瀬すずみたいな透明感のある物凄い美人に見えていたはずのその若い子は、落ち着いて見たらごくごく普通の容姿の普通の女の子だった。


脱毛なんて、美人でリア充の女子しかしないんだ、と、心身共におブスの私は思い込んでいた。でもそうじゃない。


最初から物凄い美人に生まれた人なんて、ごくごく僅かだ。普通の容姿に生まれた普通の女の子たちが、少しでもキレイになるためにせっせと努力して美しさを手にいれ、努力を続けてそれを維持しているのだ。


コンプレックスをなくすためだったり、恋人に喜んでもらうためだったり、あるいはもっと他のいろんな理由で、脱毛を決意するのだろう。少しでもキレイになるために。なりたい自分になるために。


ごくごく普通の女の子たちが、そんなふうに日々努力して、お金も費やして、頑張っている。サロンのお姉さんたちは、プロの仕事で普通の女の子たちを支える。そのお仕事ぶりは、まるで現代という混沌を生きる女の戦場で共に戦う戦友のようだ。


脱毛サロンは最前線の中にある基地のようなもので、幾多の戦士たちがここで武器を得て、再び戦場へと繰り出していくのだ。戦う女子たちよ天晴れなるかな。


そして基地はまた、前線から逃れて一時安らげるオアシスでもある。サロンのお姉さんの優しい接客と丁寧な施術は、戦士の心も体も和ませる。私のような始めから戦うことを放棄している女にも、オアシスの癒しは染み入るようだった。


私は女としてキレイになりたいなんて気持ちを諦めて長いこと過ごしてきてしまったけれど、プロに自分の身体をお手入れしてキレイにしてもらうと、自分が女として大事にされているように感じる。それはとても気持ちがいいことだった。


自分の体を大事にケアしてもらえると、それだけで自分の価値が高まったように思える。そのことに大きな安らぎを感じている自分がいたことに、すごく驚いた。


自分の見た目の価値を上げることに、これまで私は全く意味を見いだしてこなかった。最低限の身だしなみと思われることを仕方なくしているだけだった。見てくれが悪いなら手入れをするのは無駄で、どうせ容姿は変わらないなら高いお金をかけるのは無意味だと思っていた。そうじゃなかった。



少しでもキレイでいられるようにすると、誰よりもまず自分が気持ちいいのだ。自分で自分を肯定できるのだ。


誰かに見られるためじゃなくていい。自分が前よりキレイになれば、まず自分が自分にうっとりする。なんて言うとナルシストみたいだけど、自分をちょっとでも「あっ私、前よりいいかんじ!」と思えることは、想像していた以上に気持ちが上がることだった。


自分が気持ちいいように、自分を手入れすることは、全然無駄遣いではなく、大事なことなんだ。


それが分かったことは、私が脱毛して得た一番の収穫だった。





さて、後日、ローンの明細書が送られてきた。実家暮らしの私だが、クレジットカードの明細やら税金の通知やらの私宛の郵便物はちゃんと開けずに取って置いてもらえる……はずだった。


仕事から帰ってただいまを言うと、なんとなく両親がよそよそしかった。


ふと居間のテーブルの上を見ると、その日の日中に届いていただろうローンの明細のペリペリハガキが、キレイに開かれて金額と某脱毛サロンの店名がよく見える状態で置かれていた。



ケツ毛を剃られた話は平気で書ける私でも、さすがにその後の話はちょっと今ここでは書きたくない……。




さあて、低賃金で貯金もロクにないのに全身脱毛なんてエロい香りのする目的でちょぼいローンを組んだことが親にバレて微妙に気まずいワタクシちょわ子、次はどこに行こうかしら。

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