第42話 ミーシャ誘拐

 ガンゾの宇宙艇M78は、クララたちを乗せ、すぐ飛び立った。マーク達は、大包囲網完成10分前に、ミーシャの映像をライブで流すことにした。

 ツエッペリン提督の作戦本部司令室は、沸いていた。後10分でスバルを射程距離に捕らえる事が出来る。クリフは、自分とタイプが違うケビン中佐を尊敬のまなざしで見た。ケビン中佐は、相手が光通信ユニットを持っていると断定した。

「よく、ここまで、巧妙なハッキングを暴きましたねケビン中佐」

「こういう時の基本だからね。尻尾をつかめなかったんだ。相手もやる」

 ケビン中佐は、ハッカーが、宇宙艇スバルの関係者だと予想をたて、偽の戦艦座標を即座に構成してそこに流した。スバルを惑星プルコバに誘い込むよう仕向け10分前には惑星プルコバにいるスバルを捉える事が出来た。

 偽の情報を流しつつ、ケビン中佐は、大包囲網を完成させ、あらかじめファイターを出す老獪さでプルコバを目指させた。

 ケビン中佐は、ツエッペリン提督に進言した。

「投降するよう警告いたしますか。閣下」

「君の進言だ。そうしよう。超光速通信で映像を送れ。警告者の選任は任せる」

「クリフ、任せたぞ」

「はっ」


 スバルで、映像を流すタイミングを見ていたニナが、敵の警告を受信した。マーク達は、倉庫でこれを見た。

「私は、ケレス軍中尉クリフ・N・バルザーです。宇宙艇スバルの乗組員に警告します。君達は、良くがんばった。投降しなさい。しからずんば、当方は、貴艦を撃墜します。繰り返します。投降しなさい。しからずんば、当方は、貴艦を撃墜します」

 このタイミングで、ミーシャは、ニナにオープンチャンネルを開かせた。

「クリフ、ミーシャです。私は、スバルに乗っています。攻撃行動を中止し、スバルから100万キロまで後退しなさい。この距離を守らないと私の命は保障されません。私はミーシャ・ガバンです。攻撃を中止し、スバルから100万キロまで後退しなさい」

「ミーシャ姉ちゃん?」

 クリフは愕然とした。クリフの母親は、オース元帥の第一皇女。本当の叔母なので、子供のころ、おばちゃんと言っていて、お姉ちゃんでしょと、締め上げられた。以後、ミーシャ姉ちゃん。


 ツエッペリン提督の作戦本部司令室は、騒然とした。映像に映っていたのは、ミーシャ・ガバンだ。

 ツエッペリン提督は、親戚のクリフに確認した。

「クリフ中尉、あれは本物か」

「間違いありません、面差しも話し方もそのままです」

 提督は対応を迫られた。

「すぐ、元帥府に問い合わせろ。私もオース元帥と話しをする。私の指示を待て。全軍待機させろ」

 すぐさま元帥府に問い合わせると、そちらも騒然としていた。この映像は、ここにも流れていた。ツエッペリン提督は、オース元帥と話した。

「オース元帥、彼女は、ミーシャ・ガバンなのですか」

 オース元帥は自宅との連絡を終えたところだった。

「間違いない、朝見かけた時の格好をしとる。家にも問い合わせた。夕食にも出てきておらんし部屋にもおらん。わしが、夕食に帰らんかったばっかりに」

「どうなさいます。誘拐犯の要求は、逃げる事のみのようですが」

「映像は見た。犯人は誰だ。出てこんとは卑怯な」

「この宇宙艇の製作者は、田中頑三。アクエリアスコロニーの生き残りです。彼がやったとは断定できませんが」

「そいつを指名手配しろ、いずれにしても事情を聞け、賞金を掛けてもかまわん」

「はっ」

 オース元帥は、疲れた顔をした。

「ツエッペリン、すまんがミーシャの命を優先してくれ。安否が分かるように交渉もな」

 ツエッペリン提督は、軍をスバルから100万キロ後退させることにした。クリフをそのまま交渉人として交渉を継続させた。ミーシャの安否が分かるようにしなかったら、この100万キロ後退は意味がないと交渉した。

 スバルは、ミーシャを通し、島宇宙を脱出したら、超光速の映像通信でミーシャの映像を流すことを約束した。

 メインは、ミーシャが、サウロの車に同乗したところからメイムで聞いていた。アランが持っていたからだ。マーク達は、ミーシャを拒否すると思っていた。実際拒否していたが、アリスもナオミも、ここに居るスーと全く同じ反応をした。ケエル総督に報告するしかなかった。かわいそうなのは、オースお爺と、マーガレット様だ。機会あるごとに、ガバン家の夕食にスーと行こうと思った。

 ケエル総督は、そんなに驚いてはいなかった。あらかじめ、ミホを通してアリスから事情を聞いていたからだ。メインが、結果報告にしようと思ったのも分からないではないが、情報隠蔽体質のメインに釘を挿そうとケエル総督は思った。メインは、ケエルにこっぴどく叱られることになる。


 アリスを乗せた宇宙艇サイカは、ガンゾのM78宇宙艇と並走しだした。ガンゾは、ミーシャのことをアリスから聞かされた。それで、アリスの話しをモリス・カガヤ評議員にも話した。「そういうことでしたら、協力を惜しみません」と、ユーナス評議員とミーシャとの話の受け渡しを買って出てくれた。

 クララは、まだ8才だ。しかし、母親とは又、別れると分かっている。ナオミの為に島宇宙のレオコロニーに行くのだ。しばらくは、時間があるので、月に帰ってから、母親に話そうと思っている。


 スバルの中では、別の問題が起きていた。コモドール一味がこちらに向かっていると、グリーンが言ってきたからだ。アランは、襲撃されるタイミングを予想する。

「島宇宙を出るまでは、何もしないさ。ケレス軍に、にらまれるからな」


 グリーンは、データーではなく映像通信で危険を知らせてきた。それほど危ない相手だ。

「ぼくのせいだ。スバルが、プルコバに停泊しているうちに、どうやったのか軍から情報を貰って先回りしてる。島宇宙を出たら危ないぞ」

 アランはグリーンを慰める。


「グリーンは良くやってるよ。クララちゃんは、無事脱出できたから」

 ミーシャも憤慨していた。

「私がいるのに攻撃しようなんて、もう一回クリフに言ってやろうかしら」

 マークは、ミーシャが艦橋にいることに驚いていた。スバルは、8Gで航行している。艦橋は、マークの重力調整でダンパーのように軽減しているものの6Gもあるのだ。ココロの通信士ニーナが、この重力に慣れるのに、並大抵ではない努力をしているのを横で見ていたからよくわかる。

「ミーシャさん、苦しくないですが」

「何がです」

「ここ、いま6Gの重力が掛かっています」

「重いですものね、遺伝かしら、これぐらいなら平気です。わたくし、アカデミーは、植物学専攻だったのですが、宇宙船操縦のシュミュレーションもいたずらしてたのです」

 ミリア2号だ と、失礼なことを思う。ミーシャの体重が40キロだとしても今240キロあることになる。ココロのパイロット兼秘書のミリアは、8Gまで耐える。

「通信席が空いていますから座ってください」

 アランもミーシャを認めた。

 ミーシャが通信席に座ると、ニナがニーナの声で挨拶した。

「ミーシャ様、コンニチワ、ニナです」

「まあ、かわいいAIね」

「ココロの通信士ニーナさんのAIなんです。もう少しすると、もっと似てきますよ。こっちが、ニーナさんの家族の、ガンゾのAIです。不思議な言葉遣いします」

 マークが、MG2を紹介する。

「MG2です。よろしゅう、たのんます」

「ほんと、ユニークな話し方ね」

 さっきまで、ずっと緊張していたミーシャに笑顔が戻った。

 グリーンが、残念そうな声でコモドール一味の戦力を知らせてきた。

「コモドールは、宇宙艇を3隻持ってる。ファイターも3機向かっているよ。戦力の詳細は、不明、相当改造してるようなんだ」

「長距離タイプのファイターだな。エンジンの位置を改造されてると、焦点系の集積レーザー砲じゃあ効果が出ないんだが・・。MG2、アクエリアスの出撃準備を頼む」

「了解や」

 MG2が立ち上がると椅子が収納され、足元が開いた。MG2は、そこにスコンと落ちて行った。

「また、いつの間に、そんな改造を」

 グリーンが「MG2最高だよ」と騒いでいる。

「グリーンしばらく切るぞ。戦闘になりそうだからな」

「了解、気をつけて」

「アラン、ミーシャさんを頼む」

「OKだ」

 マークは船首のアクエリアスに走った。

「マークさんも気をつけるのよ」

 アランは、スバルをミーシャが大丈夫であろう8Gに上げ戦闘体制をとった。。

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