第20話 立ち合い

 先ほど謁見した光鱗水が満たされた黄金色の空気をした神殿に戻ると、ケエル総督は、紫衣を脱ぎ、黒い布だけで作られた、動きやすい着衣になった。対してアランは、サジタリウス社製のパイロットスーツの上に、白のシャツ白のパンツといういでたちだ。総督が、右手を出すと、侍従がテンペストを持ってきた。

「まずは、クリスタルソードを発動してください」

 アランがクリスタルソードを持つと、柄の部分から青い光刃が出てきた。光鱗水が、もうもうと流動する。そして、青い光刃の外観が際立つほどはっきりとした形になっていった。長さは、60センチほどしかないが、クリスタルのような透明感に水が流れるようなレリーフが浮かんでいる。

 次にケエル総督が、テンペストを発動した。柄の部分から、白い光刃が発動し、やはり光鱗水がもうもうと流動し出した。テンペストは、青白い真剣の白刃になった。中で、風が流動しているのが分かる。長さは、1メートル近くもある大太刀だ。

 二振りの刀が、実体化すると、光鱗水は、流動するのをやめ、収まっていった。


「師範、このまま立会いをお願いします」

 アランはうなずき一歩前に出た。ケエル総督も間合いの外に立ち。宮本流の作法に乗って、一度しゃがみ、立ちあがった。二人とも動かない。

 アランは、達人と真剣を交えるのは、亡くなった祖父以来だと実感した。ケエル総督の気の振れについていくのがやっとだからだ。

 アラン

 姉の声で、ケエル総督の気の流れが変わったのを感じたアランは、右から振り下ろしている剣を無視して、左下をガードした。

 ケエルが仕掛けた。ケエルの剣は、いきなり方向を変えて左下からアランを襲う。ガシュイーンと、風系の剣と水系の剣がぶつかった。これを境に、スピードを上げた攻防になる。重くはないが、目で追うのは、難しい剣だ。

 パパパパンと、上段をケエルが攻撃すると、アランは、その太刀筋全部に受けを入れ、あいた懐に入って、同じく早い剣で返す。ケエルは、これを剣の軸を使って全部受け、テンペストの長い刀の切っ先で、突きを入れる。その突きに対してアランは、引くどころかさらに懐に入っていく。二人とも、全くその場を動かない。攻撃が切れたときが隙になる。今度は、アランが仕掛けた。


 アランは、居合も入った重い剣で胴を抜こうとした。二人の間合いは、一歩間合いだ。重くて速い剣を入れることで、体勢を立て直させない気でいた。しかし、ケエルは、刀を、鞘から少し出したばかりのような受けをし、居合返しの態勢に入った。

 ギチッと、二人は、剣の根元で合いまみえる形になる。ケエル総督が、アランを蹴った。アランは、床を廻るようにして立ち、そこまで追ってきたテンペストを下から受け止めた。

 フェイクではない実像の小手返しだ。ケエル総督は、そこで小手を取り、勝敗を決めるつもりでいたが、テンペストは、アランの発動した光の盾にはじかれてしまった。ただの盾ではない、光の盾は、テンペストを押し返した。不意をつかれた総督は剣を飛ばしてしまった。総督は、次の攻撃を受けないために、テンペストのほうに飛ぶように移動した。


「師範、不意打ちはないですよ」

「すいません」

 慌てて、盾と光刃を納めケエル総督のところに駆け寄った。

「大丈夫です。それにしても、これは、光の盾ですね」

「はい、これほどの手合いを最近は、した事がなかったので、体が勝手に動いてしまいました」

「しばらくは、ここに滞在するのでしょう。またお願いします。私も、風の盾を持っていますから、楽しみにしていますよ、師範」

 今の立会いは、ケエル総督の勝ちだ。教えてもらうのはこちらだと、アランは思った。

 ナオミとマークには、本当の斬り合いをしているとしか見えない二人の立会いが終わったので、フーと息を吐いた。

「私の居城に、宮本流の道場が有ります。今度は、そこで手合わせしてください。他の者にも見せたいですから」

 アランは、さっきまでのドキドキが収まった。ケエル総督の人となりを 剣を交えたことで分かったからだ。


「ケエル総督は、師範代ですか?」

「私は、基礎を教えてもらっただけです。後は、勇次郎の残した手記を見ながらの我流ですから」

「その手記を見せてください。学ぶのは、自分の方です」

 アランは、積極的にケエル総督と話すようになった。総督は、嬉しそうだ。


 衝撃的な謁見を終え、3人は、ケエル総督の居城に案内されることになった。言いたい事が山ほどあるのに、ゴウは「オレはやることがある、明日ミレニアムホースに行くぞ、迎えに行くからな」と言って、また、町の方に戻ってしまった。3人は、逃げられたと思った。

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