第10話 ユーナス評議員の悔恨

 金星のユーナス評議員は36歳。もし、アリスの両親が生きていれば、アリスの父より14才若い。祖父、勇次郎が起こしたバークマン家の分家は、要人の警備を生業とする本家と違い、冒険で身を立てていく家だ。長女のアリスも、遺跡発掘で、身を立てている。

 アランは、もうすぐ19になる18歳。17年前に両親を2年前に祖父母を亡くし、家は、姉のアリスと二人きりになった。アリスは27歳。5年前にパートナーの騎士だったシンを亡くし、今はアランを一人前の跡取りにすることに、精力を傾けている。アリスは、両親の最後を詳しく知らない。アランも、両親の最期を詳しく知りたいと、会談に望んだ。


「ジョーと涼子は、ぼくの命の恩人だよ。本当は、ぼくが死んでいたはずなんだ。この話は、勇次郎さんにしか、したことがない」

 うつむいて話すユーナス評議員に、声をかけられない二人だ。ユーナスは、気を取り直して話し出した。

「先に、君たちのお爺様の話しをさせてほしい。勇次郎さんは、旧姓を宮本勇次郎という。今度、キャンサーコロニーで、自立移動型コロニーギャラクシーを作る宮本財団の総帥、宮本哲也さんの弟だよ三矢グループは、宮本財団傘下だ」

 アランもアリスも祖父が、日本人なのは知っているが、日本の親戚のことは良く知らない。今でこそ、宇宙を飛び回っているが、金星と地球は気の遠くなる距離だ。祖父は、日本の実家のことをあまり話したことが無い。

「わたし達、日本の親戚のことは、よく知らないんです」

「勇次郎さんの実家は、財閥で政治家を多く輩出している家系だよ。冒険家になった勇次郎さんは、父親に破門されたと聞いた。だけど、お兄さんの、哲也さんとは、仲が良かったみたいだ。今度会ってみるといい。自分は会った事があるが、なかなかの人物だった」

 祖父の話もそうだが、父の話しを聞きたい二人だ。


「勇次郎さんは、ケレスの土の遺跡を何回か探査されている。ネグロを発掘したのは勇次郎さんだよ。このアイテムを使おうとした魔力のある人が、みんな死んでいるから、ケレスの人達が、恐れてそう呼んでいた。涼子さんは、娘さんに持たせて遊ばせていたと聞いた」

「そうです、小さい頃から、ずっと持っています」

「ケレスのオース総督は、このアイテムを嫌って勇次郎さんにやると言い、持ち帰ることを許可したそうだ。そんな関係で、ジョー達と自分は、ケレスの、土の遺跡の発掘を依頼された」


 当時オース・ガバンは、ガバン家の当主。ケエル連邦の軍事(元帥)と政治(総督)の最高責任者だった。


「無理やり、父たちを土の遺跡に連れ込んだって、祖父から聞かされています」

「半分は、当たっている。ケレスと我々の契約は、地下30階までだったんだ。それを無理やり、その下の階まで探査させだ」

「どうして断らなかったの。未だに生還した人、いないじゃないですか」

「その当時は、ここまで難所だとは、誰も認識していなかったよ。それに、オース元帥は自分を牢屋に投獄して20年は出さないとジョーたちを脅していたんだ」

「最初、オース総督と言いませんでした」と、アラン

「勇次郎さんの時、オース・ガバンは、どちらも兼務してたんだが、ジョーの時は、息子のケエルが、総督になっていた。実は、ケエル総督に自分は助けられたんだ」

「ユーナスさんは、どうして投獄されたんですか」

 苦い思い出なのだろう、複雑な顔をして話し出した。

「自分は、親のコネを使ってジョーに頼み込んでの、随行だったんだが、まだ青くてね、オース元帥の第3皇女と、恋愛してしまったんだ。しかたなかったんだよ」

「ふう」と、ため息のアリス

「悪いことじゃあ、ないだろ」と、アラン。

「オース元帥の逆鱗に触れたのね」

「それもあるんだが、ジョーたちが地下30階を制覇した後、しばらくケレスに滞在してくれるよう頼んだのは、自分だ。どうしようもなかったんだよ。30階以後の探査者が誰も戻ってこないものだから、オース元帥が側近の言を聞いて、卑怯な手を使うことになったんだ。それに、当時は、これぐらいの危険、30階までの危険と大差ないと思われていた」

「ユーナスさんは、無事だったのね」

「牢屋にいたからね。ジョーたちの帰還期限を大幅に超えた頃、開放されたよ。ケエル総督は、自分がたいした冒険家ではないことを知っていたから、いや、永久追放かな」


「父と母は、どんな人でした?」

 アランは、両親の死に方もそうだが、人となりを知らない。

「ケレスの土の遺跡に行く前に、カオマニー浮遊都市の下にある光の遺跡探検にも同行させてくれた。いい人だよ、懐が深いんだ。涼子さんには、お尻に敷かれていたと言うか、逆らえない感じだったな」

 バークマン家は、女系家族だ。婿に来た勇次郎には、外面をよくさせていたが、家で、祖母に逆らったところを見たことがない。

「分かります」と、アラン。

「涼子さんは、勇次郎さんの実家から派遣されたメイドだったんだ。凄い人でね。勇次郎さんから、剣術の免許皆伝を貰っていたよ。アイキドウだったかな、光の遺跡に入る前に『投げ飛ばされるから逆らうなよ』と、ジョーに注意された」

「お母さんは、優しい人よ。わたしに良く歌を聞かせてくれたわ」

「12才で金星に派遣されたんだ。並大抵な人ではないと思っていた。地下30階越の、土の遺跡探査に行く前に牢屋に会いに来てくれたよ。自分の彼女は、ミーシャと言うんだが『ミーシャのことは、私に任せるのよ』と、言ってくれた」

 ユーナス評議員は、辛そうな顔をして言葉を詰まらせた。当時のことを詳細に思い出したようだ。

「ジョーと涼子のことは、もう少し話せると思うんだが、今度話させてくれ」

 辛そうな顔をするユーナス評議員。


 しかし、アランとアリスは、更なる真実を話し出した。

「ユーナスさん、あまり自分を責めないでください。父も母も冒険家として死んだことが分かってオレ達は、喜んでいるんですから」

「両親がケレスにいたとき私は、もう、魔女の傾向が出ていました。ネグロを触って死なない魔女候補です。ケレスがほっとくわけありません。オースは、父と母を軟禁しているから、その娘もケレスに連れてくるよう祖父を脅していたんです」

「そんな」

「私はその時、もう、祖父の道場に通うシンと出会っていました。祖父は、弟子であるシンの両親に頼んで、私を保護してもらったんです」

「勇次郎さんは、一度もそんなこと言ってくれなかった」

「両親が死んだからです。話す必要がなかったんだと思います。ユーナスさんの話しを聞いて当時の状況がよくわかったわ。私がいなくなったのを知ったオースは、両親を遺跡探査の捨て駒に使ったんじゃあないでしょうか。父たちを本当に軟禁できる訳ないもの。普段は隠していましたが父は魔法が使えたんです」

 うなずくユーナス。

「当時私は、そのことを知らされずにシンの行くところについていきたいと思ってシンの腕を離しませんでしたから、隠れ家の浮島で農作業を手伝いながら幸せでした」


「ミーシャさんのことが気になるね」

「ミーシャは、親の勧めで結婚しているはずだ。もう17年経つ」

「いいえ、そんなことない」

「魔女の勘なのか」

「どうかしら、もし、結婚しないで今でもユーナスさんのことを思っていたら、どうします」

 バークマン姉弟が、自分を許してくれたことで気が緩んだユーナスが答える。

「さらう・・かな!」

「じゃあ、ゴウに頼みましょうよ。私も手伝うわ」

 ユーナスは、手を前に突き出して答えた。

「冗談だよ、自分も金星の要人になってしまっているし、国際紛争の火種になることはできない」

「もし、連れて来る事ができるとしたら、全てを捨てることができますか?」

「君は、やっぱり魔女だね。別の道もあるかもしれないが、自分は不器用だから・・・この話は、ここまでにしないか」


 話が済んだと思ったアランは、前から気になっていたことを思い出した。


「すいませんユーナスさん、クリスタルソードのことなんだけど」

と、腰から光剣を取り出した。

「このクリスタルソードには、光のクリスタルもついているんですが、起動しないんです」

「それは、柄の真ん中に実弾を装備しないと起動しないよ」

「実弾ですか?」

「実弾といっても、光鱗水のカプセル、エネルギーカプセルと思ってくれて構わない。映像アイテムでは、そう言っていた」

「見ることができるんですか」と、驚くアリス。

 映像アイテムは、半円形の黒い石に見える。使用するときこれを映像メガネのように装着する。映像アイテムの製作の大半は、二代目巫女ミネルバと、その予言者のサヨとされている。

「ないしょだ。このことを知っている人は、ミーシャと、光の遺跡省のスサだけになった。クリスタルソードの実弾は、特殊な形をしていたな。真ん中が凹んだ形をしていて、差し込む方向も決まっているようだった。光の遺跡にあると思う。君が望めば、探査を許可するよ」

「今度お願いします。それから火と、風のクリスタルが装着できるみたいですが、何か知っていますか?」

「風のクリスタルは、ケレスだろう。火は、まだ発掘されていない。多分、炎の遺跡に有るだろう。火のクリスタルの映像は見たことがないが、風は、ケレスの映像アイテムで見たよ」

「どんな感じでした」

「そうだね、剣というよりエアー発生器のような映像で、カマイタチを出して、木を切り裂いていた」

 アランは「ケレスに行くしかないか」と、呟く

「本気か?」

「いずれにしても、この後行くんです」

 アリスもうなずく

「誘拐された少女の救出だな。わかった、アランには、これを貸そう」

 ユーナスは左腕から、ブレスレットをはずしてアランに差し出した。

「これは、光の盾だ。我が家の家宝だよ。普通、剣と盾は一対だ。そのうちクリスタルソードの盾も出てくるだろう。そのとき返してくれ。自分には無用のものだ」

「いいんですか」

「貸すついでだ。光の剣は、10年前に失われている。それを探すのをお願いするかな。光の剣は、金星の至宝だったものだ」

「アクエリアスコロニーを消滅させた剣よ。宇宙空間を漂っている剣を探すのは無理です」

 ユーナスは、微笑むだけだった。アリスは、ユーナスが、光の盾をアランにくれたのだと思った。ユーナスとの会見が終わり、アリスは、モリス・カガヤ評議員との会見場に急いだ。

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