第27話 長州五傑 その2

6月10日頃、井上と伊藤の2人は横浜に到着した。

伊藤と共にガウワーに会い急遽帰国した説明をしたところ、ガウワーは4カ国が下関を襲撃する計画があることを告げた。


両名は故国の安危に関する大事件と受け取り、イギリス公使館の通訳アーネスト・サトウを介して公使ラザフォード・オールコックと会見し、自分たちが長州藩に帰って藩論を一変したいと説明し、停戦講和を願った。


駐日公使は「フランス、アメリカ、オランダの公使と協議して確答するから数日間居留地のホテルに宿泊して待つように、その際、長州人と分からないように日本語を使ってはならない」と申し渡された。


勿論、この頃、井上馨、遠藤謹子、山尾庸三、伊藤俊美(博美)、野村の5人は鉄達が自分らを最重要人物としてマークしていることなど知るはずもなかった。


井上馨、遠藤謹子の2人は横浜で、数日間居留地のホテルに宿泊して待つ間、妙な噂を聴いていた。

なんでも、ここ横浜にパーカーという商人に仕える鉄之助という男がいるということ。

そして彼は英語が堪能だったという情報を二人は手に入れていた。

「あたし達の他に英語がしゃべれるなんてね」

「異人とのあいの子かもしれんが」

井上馨、遠藤謹子の2人はその噂に興味をもった。いまは部屋に二人きり。ふたりは日本語で話をしていた。

「そうねぇ。英語が堪能ならすぐに見つかる可能性はあるわねぇ。男っていうのも興味をそそられるけれど…やっぱり、交渉ができるってのはそれなりに頭が切れる証拠だわ」

「まぁ。馬鹿じゃないでしょうね。でも、屋敷は残ってるみたい。いづれここに戻ってくるつもりかしら?」

「どうかしら。随分、儲けてはいたみたいね。屋敷はバカでかかったわ」


井上馨は言う。


「頭のきれる男なんて、どこかの金持ちのムコよ。それかどこかの隠し子だわ」


「だがなぁ。男で頭が切れるなんてぇのは、一ツ橋卿くらいしかあたしはしらん」

遠藤謹子は寝台に座りながら天井をみあげた。

「あとは土佐の容堂候」

「あれは女じゃないの?」

「短髪なんで、男なんじゃないかって騒いでる奴らもいるのさ」

井上馨は自嘲気味に笑う。

「とまれ、女は男が欲しくてしかたがないのよね」

「絶対数がすくないんだ。仕方ない。入り婿なら、なおいいが」

「どこにそんなのがいるってのよ。あんたまさか、鉄之助ってのを狙ってるわけ?」

「実物を見て決めようと思ってるだけさ。良い男なら父親になってもらおうかとおもってさ」

遠藤謹子の考えは「おまえがパパになるんだよ!」というやつで、「逆レイプ」という概念だった。この世界では珍しい事ではない。

女ならだれでもが考えていることだった。

ちなみにこの世界での逆レイプ率は9割を超す。

近年は特に逆レイプされて犯されて死亡する男性の割合は増加傾向にある。


さてその頃、鉄之助はと言うと、京都の大橋の上にいた。

隣にはロザリーがいる。

「It's about 「20 ken」 from here to the stepping stones of the dick. (ここからアソコの飛び石まで20軒(36メートル)ですかねえ」

単眼鏡を覗きながら橋の上から距離を測る。

「Then I wonder if it will arrive with a new model (なら、新型で届くかしらね)」

「Is it SAA? (SAAですか?)」

「Yep. I changed the life ring (ええ。ライフリングを変えてみたのよ)」

「Did the distance increase? (距離が伸びたんですか?)」

「Somewhat (多少ね)」

傍目には、男と女が橋の上で話しているだけだが、声は風に紛れて聞こえない。

しかし、その光景は周りの女たちの目尻を釣り上げる結果になった。

「Would you like to be glared at we? (睨まれてやしませんか?)」

「The more holes you have, the more you should stare. Good feeling. But maybe it's time to move. Before the Miburo.(穴が空くほど睨めばいいわ。気分が良い。でも、そろそろ移動した方が良いかもね。壬生狼が来ないうちに)」

「is not it(ですね)」

壬生狼とは新撰組の事だ。

そろそろ新撰組が巡回で通る。その前に彼らはこの場から離れる必要があった。

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