第14話 池田屋事件 その1

幕末の四大人斬りと称される4人が居る。

田中新兵衛、河上彦斎、岡田以蔵、中村半次郎。

天誅と称して彼らが起こした要人暗殺テロ事件は、都の人々を震撼させている真っ最中で、その中でも河上彦斎は居合の名手として「人斬り彦斎」と呼ばれるほどに強い女だった。

容姿は、身の丈5尺前後(150cmほど)と小柄で色白。

抜刀は鋭く片手抜刀の達人(片膝が地面に着くほど低い姿勢からの逆袈裟斬り)でもあった。


「おい」

京都の西園寺の縁側で暗闇のなかから、傘を被った彦斎が声をかけた。

「ひっ!」

八子は不意をつかれた為、予測出来ておらず一瞬だが声を上げた。

「あたしだよ。彦斎だ」

そう言い彼女は笠をとって見せた。

名乗られて見て、初めて八子は安心ができた。

「脅かすな。心の臓に悪い」

(小心者め)

そうは思ったが、彦斎は言わないでおいた。

「佐久間象山というやつを知っているか?」

「いや」

名に聞き覚えはないが。

「なんでも今この街にいるらしいのよ。ちなみに彼は、開国論者だって」

開国論者。その一言で彼女の心は決まった。

「開国論者ね。その一言で何万の理由にまさるわね」

「受けてくれる?」

「無論。開国論者はダイっきらいなの」

この翌年、1864年。

西洋の馬の鞍を使って神聖な京都の街を闊歩していたという理由で、公武合体派で開国論者の重鎮、佐久間象山を衝動的に斬ったという事件が起こることになる。

象山としてはチョットしたオシャレのつもりだったに違いないが、時制が悪すぎた。


八子と彦斎が悪だくみをしていたころ。鉄之助は、お珠、美星を引き連れて京都に居た。

パーカー氏からの販路確保のために手紙でやり取りをしていた人物と会う為である。

「おう。でえじょうぶだったか?」

「ああ、なんとか」

み星がお珠に水を差し出しながら聞いた。

回答を返しながら、お珠は着換えを始めた。

「だいぶ危ねえ。下手したら壬生狼に切られちまう」

「そしたら、短筒があるだろうが。早打ちなら相手が抜く前に勝てるだろ?」

「まあな。でもよ。早打ちでも間に合わねえかもしれねえ奴がいるらしい」

「へえ。誰だい」

美星は手ぬぐいをほおってお珠に渡しながら聞く。

「永倉新八、沖田総司、斉藤一の3匹がヤバいらしい」

と語りながら、新しい襦袢に袖を通した。

「中でも永倉の飛竜剣、沖田の突き、斉藤の平突きは相当早えって噂さ」

「突きが二人か。飛龍剣ってのは分からねえが…」

そこまで言って、下の階から鉄之助の声がした。

「お、なんだろうね」

読んでいるような鉄之助の声を聴いてみ星が

階下へ声をかけた

「出かけたいんですけど、チョットいいですか?」

「構わねえよ。もちろんさ」

男からの誘いに女が乗らないはずがない。

もちろんみ星は快諾した。

「おおい。お珠ぁ、鉄さんが出かけたいってさぁ。行けるかい?」

「もちろん。だがどこ行くんだい」

「チョットまってろぃ」

美星は確認をしに階下に降りて行き、すぐに戻ってきた。

「晩飯だってさ、もう下で待ってる」

「イイねえ。でも少しまっとくれよ。汗が引いてねえんだ。鉄さんが我慢できねぇんならすぐいくが…」

あまり不潔な姿は男には見せたくない。

「分かった下で話しながら待ってるぜ」

「頼まあ」

男の前では常にベストを尽くすのが、この世界の女。美星はそれが分かるために、すぐ時間稼ぎを買って出た。

しかし、み星は鉄と二人で話せるし、二人ともに利があった。


「鉄さん。お珠がチョット待って欲しいってさ。退屈だろうからさ、アタシと話そうぜぇ」

「いいですよ」

階下では宿の入口に腰掛けたみ星が鉄之助の横に座った。腰が触れるほどに近くだ。

「最近暑いだろ?はぁはぁ…夕涼みなんかいいかなと思うんだあたしはさ」

「そうですねぇ。花火でも見れたらいいですよね?」

「だろう!そろそろ祭りも近いはずさ。浴衣で行こう。出来ればふた…りで」

ニコニコしながら、み星は腕を鉄之助の腰に回そうとした所で、

「そこまでだよ、美星」

上からお珠が姿を表した。

(チっ)

(それ以上ヤラセるわけねぇだろが。考えなんて分かるんだぜ)

少しだけ、お珠が笑った気がした。


外に出て見るとまだ日は高く、熱さが充満していた。

「ふぅー。アッついねぇ」

「本当だ。あちぃなぁ。扇いでほしいなぁ」

「またですか?この前、やったげたじゃないですかぁ」

この前全く同じ状況で、おんなじ申し出を飲んだばかりだった。

男が女に扇子で扇いでやるだけの事なのだが、女が憧れる夏のシュチュエーションの一つなのだ。

「涼しくしてほしいなぁ」

そう言われてしまうと、鉄之助も無下にもできない。仕方なく、袂に入れていた扇子を取り出し二人を扇いでやる。

「イキカエルぅ」

「キモチイィ」

両者の肩が一瞬弛緩して、そのすぐ後には肩に二人の肩が自分肩にくっつきそうになった。

「でもこの間みたいに、ヨダレは垂らさないでくださいよ?」

「わ…分かったよ」

この前は両脇からヨダレを肩に付けられてしまったのだが、実はお珠も美星もヨダレだけでなく、着物の下は大洪水になっていたのだ。

お珠とみ星はよく平静な態度を保ったと称賛せねばならない。

本来は、その場で動けなくなるか、男性が襲われてもおかしくないのだから。

(極楽だぁ。ふわふわするぅ)

二人は半分意識を、飛ばしながら必死に踏ん張ってあるき続けた。


2


「吐けっつってんでしょ」

男が、蔵の二階から逆さ吊りにされている。男の名は枡屋喜右衛門。

池田屋事件をゲロることになる人物だ。


5月下旬ごろ、新選組諸士調役兼監察の山崎丞、島田魁らが、四条小橋上ル真町で炭薪商を経営する枡屋喜右衛門の存在を突き止め、会津藩に報告したのが事の発端だった。

捜索によって、武器や長州藩との書簡などが発見。

古高を捕らえた新選組は、土方歳三とはじめとした中核メンバーのみで古高の拷問の真っ最中だった。

ばしいぃ!

竹刀の先が割れた棒で男の体を叩く。

「あがぁ!」

2階から逆さ吊りにされ、足の甲から五寸釘を打たれ、貫通した足の裏の釘に百目蝋燭を立てられ、火をつけられる等の過酷な拷問を受けてもなお、枡屋喜右衛門は悲鳴しか吐き出さなかった。

「ねぇ。そろそろ吐いたら?」

近藤も少しげんなりした顔で、枡屋喜右衛門に聞いた。

「男だからって逃げおおせるとでもおもった?甘い、甘いなぁ」

土蔵の隅には試し切りを待ちどうしそうにしながら沖田がにやついている。

(生きてここから出られんか)

枡屋喜右衛門は朦朧とした頭の中、悟る。

吐いて楽になってしまいたい。

しかし、吐いたところで、壬生狼のど真中ででは女男女なぶられ、廻されるのがオチだとも分かってはいた。


3


「合うのは、明後日の昼間。相手の店でです」

「名前は、雪城屋の店主。雪城屋万兵衛。多くの販路をもつ京都の萬屋の一つで中堅どころとして台頭し始めた店舗です」

万兵衛はそこの店主であったが、がめつい性格で、儲けが出そうなものならなんでも飛びつく性格であった。

「さぐりを入れて見たんだが、どうもあんまりよく考えるヒトじゃなさそうなんですよ。フロント企業としてはうってつけですね」

「フロント企業ってのは分からねえが、要は尻尾切りだろう?」 

「まぁ悪く言えば」

(せっかく丸く言ったのにい)

「あたしらは捕まる訳に行かない。ヤバくなったらそいつ等を囮にして逃げるわけだ」

「まぁ仕事ですからしょうがないですよね」

「ああ」

「仕事なら仕方あるめえよ」

「ええ、ですが」

「?」

「もうちょっと離れてくれません」

「嫌だ」

「あっついんですって」

いくら横並びに3人が座る席だからと言ってもお珠とみ星はくっつき過ぎであった。

「それに体臭がうつるかもですし」

「ぜんぜん構わねえよ、むしろ、もっと嗅ぎたい」

「ええ…」

み星の意見に鉄はドン引きであった。

「なんでだぃ。お珠あんたも思ってんだろうが」

「まぁ少しは…」

「ほれ見ろい。それに後ろからの鉄さんを見る店子の視線。ありゃ相当溜まってんな」

「そりゃあ、浴衣一枚で男が来たらなあ」

「興奮するのも分かるってもんよ」

現代で言えば、Tシャツの下はブラ無しの状態でコンビニに女性が来店したようなもの。

店員は目のやり場に困るが、しかしチラッと見たりはするそんな状態。

「しかし、店子が襲いかかるかもしれねえな。そろそろ出るか」

「だな」

3人は襲われる前に、店を出ることにした。


4


「よくおいで下さいましたな」

雪城屋万兵衛は、御辞儀をしながら3人を出迎えた。

「そちらもお出迎えありがとうございます」

鉄も営業スマイルで返す

「奥にお上がりを。そこで話しましょう」

「ありがとうございます」

鉄は自分からは切り出さず、相手の話して来るのを待つ。相手からの話を持ちかけられたと言う状態を作っておきたいからだ。無論話が進まなそうと思えば、聞き返したり、促したりはする。

「先だって送って頂いた銃の件ですが、製造元はどこですかな?」

「申し訳ない。知りあいからは製造元まではあかされておりません」

「ほう」

「ですが、それはどうでも良い話かと。私どもは製造元からは確実に仕入れますし、そちらにも一定数の卸はさせて頂きます。それも格安で。そちらの儲けは確実に出ますよ」

儲けがでる。この言葉は万兵衛にとって最大のキーワードだ。そしてそれは鉄も知っていてわざと強調したのだ。

「今日は顔合せです。そうすぐに答えを出さなくて構いません。でもいい結果が得られることを期待していますよ」

こうして、一度解散となった。


5


「やっとか」

「長かったわね」

桝屋が吐いたのは夜が明ける直前だった。

風の強い日を狙い火をかけ、帝を攫う。と言う。

「チッ。なんてことを考えやがるのよ。全く」

歳三は毒づいた。

「みんなもよく耐えたな。」

ギイと蔵の扉が開かれるとそこには、薄笑いを浮かべた平隊士の群れが、いた。

「近藤さん。あとは好きにしていいんですよね!」

「ああ、たっぷり楽しんでいいぞ」

近藤が静かに号令をかけると、

「いゃっほーい」

「ヒャッハー」

一斉に枡屋喜右衛門めがけて平隊士が襲いかかった。

「ひっ!」

前に勢揃いした隊士達に悲鳴をあげる。

(犯され、最後は試し切りでもされるのだろうな)

喜右衛門は諦めた。

そしてーーーー地獄は始まった。


「もう…もうやめ…」

「何言ってんだ!さっさ起てろ!つぎはあたしなんだ!」

「もう無理…」

「なら…強制的にたたせてやる」

「な、何を…」

縛られたままの喜右衛門は後ろの穴に指が無理やりツッコまれ、動かされるのを感じ取った。現代でいう前立腺マッサージだった。

「気持ち悪い!触るなぁ!」

「へっへ!そう言いながら、アソコは起ってきたヨ!」

事実だった。喜右衛門の意識とは逆にアソコは起っていた。

「へへへ!処女ともおさらばだ!」

くぱあ…ズン。

「入ったぁ!」

平隊士は喜右衛門などもはや見えていない。

ただ感じる高揚感と処女とおさらばできた嬉しさで一杯だった。

「やめてくれ!もう出ないんだ!」

「うるさい!」

べシイ!

頬を叩かれる。

「下腹にチカラ入れな!まだまだだからなぁ!」

喜右衛門の地獄はまだまだ終わりそうになかった。

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