第12話 お茶を飲みながら

「ここが海軍奉行の屋敷か」

「おうよ」

「いいとこ住んでんなぁ。クソったれ」

「役人なんざかまうこたあないわよね。頭に一発撃ち込んで終わりよ」

お珠は、袂に忍ばせた銃をいじり、ロザリーはホルスターを隠そうともしない。

「お茶をごちそうになるだけでなんでこんな殺気なんですか…」

「あいてもただで返してくれる訳がナイワ」

「うちらは今、虎口にたっているのさ」 

「If the man Enter the room,we-mans might be going to attack. It's same from old era.

we should stop the Attack from them.(男が足を踏み入れたら、女が遅いかかる。昔も今も変わらん)」

「the order is only one that protect to him.(オーダーは一つのみ。彼を守れ) 」

「Are you ready?(準備はいいか?)」

「yeah!」

「応よ!」

鉄以外は全員乗り気であった。


「開門!」

ギイイ…と軋む音とともに扉が開く。

「よく来てくれたねぇ。さぁ!入ってへぇっておくれよ」

しかし開門をしたのは小間使いではなく、なんと勝本人だった。


「こちらがパーカーさんです」

「おお、男だったのかい?」

 ジュルリ…

勝の後ろにいた千葉シゲと佐那が同時に涎を啜った。

「男を前に涎を垂らすとは、しつけが成ってナイワ」

ロザリーが嫌味を投げ、

「ひぇ…」

うしろで鉄がおののく。

「いやぁすまねぇ。あんた方のような色男はあまり見たことねぇ。勘弁してくれ」

「well Let's enter(まぁ良い。入るぞ)」

「yes」

鉄はびく付きながらも勝の家の門をくぐる。



中は典型的な武家屋敷だった。

「広いですね」

「そうかい?いやぁここはあたしも気に入っているんだ。また遊びに来てくれても…」

「おっとそこまでだ」

「それ以上続けたら、分かってるよなぁ?」

「ちッ…ちょっとした冗談だぜ」

お珠のどすの効いた忠告に勝は冷や汗を垂らした。


「姉さん。あれが異人ですよね」

「そうよ」

千葉重と佐奈はあとをついて行きながら、小声で話し合った。

夷狄。追い払うべき敵。という意味である。

まだこの時代には異人は攘夷の対象で、そこに区別などない。当然、ロザリーもパーカー氏もふたりにとっては敵意の対象であった。

が、ロザリーもパーカーもここに来た時点で想定はしている。過去にも同じようなケースはあった。そのたび、二人はどうにか切り抜けてきたのだ。

「気づいておるな?」

「sure. i will shot them if there they will attack to here(もちろん。 彼らが攻撃するなら、反撃するわ)」

「Nice(ナイスじゃ)」

「美星、後ろの奴は任したよ。あたいは前の2人をヤル」

「合点」

横並びで話すお珠と美星、お珠は事が起これば海舟と龍女を、美星は千葉重と佐那を相手にするつもりでいた。


「さぁここだ。入ってくんな」

通された広間は10畳ほどの広さであった。

奥には襖で閉じられた部屋、片方は廊下と庭に続いていた。

障子を閉めると、日が遮られ、しかし眩しくない良い感じの室内になった。

「隣と後ろに何人かいるのは分かってるよ。姿を表したらどうだい?」

お珠が正座のまま、腕を組むフリをして袂でハンドガンを握った。

「そうおっかねえ顔しなさんなよ。ただ話そうってダケだぜ?」

勝はそういうが、この世界のおんなが下心をなしに男を家に呼ぶはずがない。美星とお珠は気を抜かなかった。

「茶になんか混ぜてやがったら、分かってるね?」

「馬鹿だなあ、そんなことをするはずない。それにしても、いい男ダァ。あたしの好みたぜ」

冷や汗が鉄の背中を流れる。

(この感じは、前に覚えがあるぞ。それに、目がマジだ)

前に付き合っていた元彼女が、光のない瞳孔を開いた表情をしていたのを思い出した。

(確かあのときは、婚約を迫られたな。怖かった)

3回目のデートで夜ご飯に二人きりでいった。熟成肉を二人して食べて、酒も飲んだ。

そして、酔って彼女の目が座りだしたのだ。いまの勝の目はその時の彼女の目と同じだった。

(でもね。僕はあなたに興味がないんだ。分かってくれ)

鉄は急に顔を勝から背け出す。

女がデートで退屈するとよくやる手だ。現代なら、間違いなくスマホをいじる流れである。

しかし勝は、

「横顔もキレイだねぇ。撫でてみてぇ」

気にせずそういったのだ。

しかし、その勝の発言に、お珠は敏感に反応した。

「おい。お役人。初対面で口説くたあ、いい度胸だ」

「口説くのは男に対する礼儀さ。女なら常識だろう?」

「クッ」

確かに相手の言う通りで、男にたいして女ならナンパは当たり前、口説かなければ損をするそんな世の中なのだ。世間の常識なのである。

「我慢しな、お珠。手ぇ出したほうが負ける。こいつはそういう喧嘩さ」

美星をを見ると顔が能面の様に感情がなくなっていた。



「先ず、今日は来てくれて助かったよ。龍女や重、佐那も呼んじまった手前来なかったら大恥になるとこだった」

かっか、と笑い声をあげて笑う。まるで男の様だと鉄は感じていた。

「それと、俺の隣に右に座ってるのが龍女。左に居るのが千葉重と千葉佐那だ」

龍女はひらひらと手を振るが、重と佐那は名前をお互いに名乗っただけだった。

「茶も用意させてるが、そちらの御仁は紅茶がいいかな?」

勝はパーカーに質問した。

「Tetsu. what did he said ?(何と言っとる?)」

「he said that question which would you like tea?(彼は紅茶で良いかを質問しています)」

「yes, but does he has fortnum & mason?(いい。が相手はフォートナム&メイソンをもっているのか?」

「I will question to him(聞き返しましょう)」

「勝様。こちらの御仁はパーカー様。イギリス人です。以後お見知りおきください。また、彼は紅茶の銘柄でフォートナムメイソンはありますか?と問われています」

「フォートナムメイソン。初めて聞く名だな。すまねぇ。うちに紅茶はあるが銘柄までは分からねぇんだ」

「Sorry sir. he said that there is Tea in here But he doesn't know made by.(紅茶の銘柄までは不明だそうです)」

「yep. i understood. I would like it(わかった。それでよい) 」

「勝様、ここにある紅茶で大丈夫ですので、いただけますか?」

「ああ。わかった。アンタらはどうするね?」

「 ワタシも紅茶がイイわ」

「アタイ達もだ」

「へえ。あんたたちもか」

勝は面白そうに笑った。


手始めは、勝、龍女がいろいろ聞いてくるのを、鉄が答えていった。むろん答えられる範囲での話で、なおかつ、あまり情報は与えない様にして。

 それでも、勝は興味があるらしく、身を前に傾けて聞いてくるし、龍女も何かメモを書き始めていたが、佐那と重は途中で席を起った。

 合わせて美星が厠に行きたいと言って中座し、そのまま、美星は重と佐那を監視しながら厠へと向かった。

「鉄さん。あんたはあたしの目立てじゃ、日本人だ。どこで、そんなに喋れる様になったんだい?」

勝から出て来たのは、疑問だった。

しかし、鉄は、返答に困ることになる。

『パーカーさんの家に同居人として住んでいるうちに…』

これでは、理由にはならない。

違う世界から来たなどとは信じて貰えないだろうし、こればかりは秘さねばならない。

なので、鉄はよくある理由を言うことにした。

「外国人に拾われたのです。そして私は、その親に連れられ育った。しかしその親は死んでしまいました」

親なしの孤児。この時代ならよくある話だった。

「拾われた国はどこだい?」

「イギリスです。私の発音を聞いて分かりませんか?」

「…いや、すまねえ。あたしにはあんたの英語の違いが分からねえ」

勝は、髪をかき揚げた。そして鼻をいじる。

(よく見られたい。こっちの言うことはまだ疑っているな)

髪をかき揚げた仕草は、女性が自分を落ち着け、よく見せるための行動で、鼻をいじるのは、相手を信じていないという現れの仕草だった。

「なあ鉄さん。メリケンをしっちゅうがか?」

「ええ。知っていますよ」 

なにせ5年間海外勤務だったのだ。

大体の事は分かる。それも、だいぶ詳しく。

「おお。教えとうせ。アメリカはホントに身分の違いが無いがか?」 

「法的には平等です。しかし、実際は白人、黒人、ユダヤ。ほかにも色々なコミュニティが有りますよ」

「ほう!それで」

「鉄。それ以上、喋るべきじゃナイワ」

鉄の右に座っていたロザリーが止める。

「あんたも、自分の仲間から聞けばいいのよ」

ついでに、ヘン、と小馬鹿にしながら龍女を攻め立てた。

「教えてほしいと頼むのことの何が悪いがじや」

「金ももらってナイノよ?対価はあるのかしら?」

「金は…ない。じゃが!」

「could you speak little Quieter?」

「?!」

「少し静かにはなしていただけますか?と仰っておられます」

その言葉に龍女は一度閉口せざるをえない。

しかしそれも、すぐに元に戻り、又、龍女のトークが飛び交うようになった。

「いやぁ。下手したらジョン万さぁと話が合うかもしれんの」

ジョン・万次郎。アメリカへと自力で渡り、覚えた翻訳業の先駆け的な存在であり

ひそかに鉄が尊敬している人物でもあった。

彼は文久2年(1862年)、幕府の軍艦操練所教授となり、帆船「一番丸」の船長に任命されている。

流石に、これには、鉄も興味がわいた。

ジョン万次郎がもしいるのならあってみたかった。

そしてうかつにも聞いてしまった。

「知っていらっしゃるんですか?ジョン万次郎さん」

と。

「おう。同じ土佐の有名人じゃぁ。興味あるがか?」

龍女は嬉しそうに聞いてくる。

「ありますよ。あってみたいですね」

鉄も其れに乗ってしまったところで。

「鉄さん。いけねぇよ」

同意をうっかりしてしまったところで、お珠が止めた。

「あ…すいません」

謝るがもう遅い。龍女の目は輝いていて、正座のまま前ににじり寄ろうとしたところで、たまらずロザリーがホルスターから銃を抜いた。が、龍女の動きの方が数瞬速く、小太刀に指を掛けたところで、お珠も同時に袂からクイックドローをするべくs&wを抜こうとした所で。

「やめねぇか。龍女。それにお二人さんもだ」

しかし、乱闘になる前に勝海舟が一喝し、その場は収まった。


鉄達が帰った後、海舟は龍女をよんで言った。

「良くこらえた。あの状況で男のいい匂いにやられる寸前だったのは、あたしも同じだった。すまねぇな」

そして、勝はこうも付け加えた。

「彼らから目を離すな」


そして、その日以降、鉄達の周りに監視の目が増え始め、やがて、鉄達は居心地の悪さを感じるまでになるのだが、それは又、別の話である。

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