八話 宿泊先は馬小屋でした

無事に杖も手に入れて、冒険者ギルドに戻ってきた。

さて、次はいよいよクエストかな。

いやぁ楽しみだね。やっと本格的に異世界っぽいことが出来るよ。


「さあアリス、さっそくクエストへ行こう!」


楽しみすぎてちょっと声が大きくなっちゃったけどまあいいか。


俺は意気揚々とアリスに話しかけたが、当の本人は不思議そうな顔をしていた。


「何言ってんの? 今日はもう行かないわよ」


「え?」


衝撃的な一言だった。


なぜだ! 何故にそんないじわるをするんだアリス!

この流れからしたらクエストじゃないのか!

せっかく杖を手に入れたのに今日は使えないなんて生殺しにもほどがある。


「なんで今日はもう行かないんだ?」


一応理由を聞いてみる。


「だってもうすぐ暗くなるから。夜に外での行動は危険だし」


至極まっとうな答えが返ってきた。


確かに外を見れば陽が落ちかけている。

さっきまで気が付かなかったが、言われてみればダンジョンを出たあたりでもう既に陽が傾いていた気がする。


ならばしょうがない。アリスに従おう。


「そっか、そう言えばそうだったな」


「ええ、では本格的に暗くなる前に行きましょうか」


アリスはそう言うとギルドの出口に向かった。


俺はどこへ行くのか皆目見当がつかなかったため、慌ててアリスの後を追い、訪ねた。


「いったいどこへ行くんだ?」


するとアリスは振り向いて言った。


「どこって、宿屋よ」


なるほど、宿屋ね。


冒険者にとっては当たり前かもしれないが俺にとっては新鮮味のあるイベントだ。


しかもアリスと同じ屋根の下で寝泊まりするのは嬉しい。


未だかつて経験したことない体験に期待して、アリスと共に宿屋を目指した。


五分ばかり歩いただろうか。


アリスが立ち止まり、宿屋らしきものを指さしながら言った。


「これが今日私たちが泊まるところよ」


アリスが指していたのは馬小屋だった。


アリスさん? 指しているところが違うんじゃないかな?

馬小屋の隣にはちゃんとした宿屋があるよ?


「ねえアリス、俺達が泊まるところはどこ?」


「だからここよ」


確認のため聞いてみたが、指しているところは変わらない。


「念のため聞くけど、ここなんて言うか知ってる?」


アリスが本気で間違えているのではないかという一縷の望みにかけて、再度聞いてみる。


「馬小屋でしょ。知ってるわよ」



やはり知っていた。



ということはアリスは本気で馬小屋に泊まると言っているのか。


俺はどうしても馬小屋に泊まりたくなかったので、アリスを説得してみる。


「なあアリス、なんで馬小屋なんだよ。隣に立派な宿屋があるじゃないか」


「今夜の宿屋代にしようとしてたお金がカイトの杖を買ったから無くなっちゃったのよ」


反論のしようがなかった。


「なんか、すまん」


俺は謝ることしか出来なかった。


「苦楽をともにしてこそパーティーよ。それにお金がないから馬小屋とかに泊まるのは、珍しいことではないのよ」


アリスは俺を責めようとはせず、フォローまでしてくれた。


相変わらずうちのアリスさんは女神だった。



「宿代がただになったから少しお金が余ってるわね。夕食でも食べに行きましょうか」


アリスがそう提案してきた。


そう言えばこっちに来てから何も食べてない。

そろそろお腹も空いてきたし、異世界の料理にも興味がわく。


もちろん断る理由など一つもない。


「そうだな。食べに行こうか」


「ええ」


そうして俺達二人は夜の街へと繰り出した。


飯にありつけるという喜びもあってか、俺の足取りは心なしか軽く感じられた。

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