File2 Can't see you and goodbye

 ピピピピ!

 時計のアラームが無慈悲に鳴り響く。

 寝ぼけながらスイッチを切りアラームを止めた。

 一階にあるキッチンに行きパンを袋から出してトースターに入れ、パンが焼き上がるまで時間があるのでテレビの電源を入れて毎日の日課であるニュースを見た。

「次は天気予報です。関東地方は全体的に晴れです。しかし低気圧の影響で今日の午後は雲が多くにわか雨が降る可能性があり明日、明後日も雨が降るかもしれません。折り畳み傘があると安心です。」

 天気予報に指示されるかの様にバッグに傘を入れて持ち物を一通り準備した。少しするとパンが焼ける匂いがしてきたのでパンをトースターから出しバターを塗り、牛乳をコップに注ぎ、二つをテーブルに持って行った。

 パンを食べながらテレビを見ていると...

「続いてのニュースです。さらなる犠牲者です。...今日未明、遺体で発見されたのは、都内在住の男子高校生、山田将人さん17歳です。...」

「えっ!嘘だろ...」

 そのニュースが流れた瞬間、悟は何が起こったか分からず立ち上がり、頭が真っ白になった。突然、友人将人が死んだ悲しさで涙が溢れ落ちた。

 悟は何かの間違いであろうと信じリモコンを握り、テレビのチャンネルを変える、しかしどこの番組でもそのニュースが大々的に報道されており、友人が死んだという事が、信じ難いが信じざるを得ない状況になってしまった。

「なんで!なんでなんだよ!なんであいつが事件に巻き込まれなきゃならないんだよぉ!」

 あまりのショックに悟は床に崩れ落ち、涙を流しながら床をドンドンと叩いた。

 ピンポーンピンポーン

 インターホンが鳴ったが悟は体を動かす事が出来ずにインターホンが鳴り続けた。

 ガチャ、キィーン

 扉が開く音がした。

「どうしたの!サトくんなんで泣いてるの?」

紅音あかね、テレビ見てないのか?将人が死んだんだよ」

 悟は泣きながらテレビで放送された内容を紅音に話した。話すと紅音も相当なショックだったらしく少しの間涙を流した。

「私学校行くね」

「えっ」

 悟は、はっきりとしない声を出した。

「なんで?わたし達がここにいても仕方ないでしょう。今日のお弁当ここに置いとくね。サトくんも準備して学校行くよ」

 紅音は目を潤ませながら悟に言った。

「ガチャン」

 扉の閉まる音がした。紅音は学校へ行ってしまったのだ。悟は動こうとした、しかし唐突過ぎるの友人の死が心に響き身体が学校に行く事を拒絶した。そしてベッドに突っ伏してしまった。

 悟は、このまま学校を休んでも良いのではないか。という気持ちも出てきたが紅音の言葉が悟には突き刺さっていたまま。さっき言われた言葉を思い出した。何故か行きたくないという気持ちがなくなり、学校に行かなくてはならないという気持ちになっていたのだ。なぜだ?そんな事を考える余地も無く、悟は無意識にベットから起き上がり制服に着替え紅音が置いていった弁当を持ち扉を開けた。すると扉の横には紅音が壁に寄りかかっていた。

「来てくれた。サトくんを信じてたよ」

 にっこりと笑顔を向けた。まさに天使の様な顔であった。いつも通りの道、二人は何の言葉も交わさず、学校へ向かった。それに打って変わって、教室が騒がしくなっていた。言うまでも無いが、あの吸血事件の被害者である高校生は自分達が通う高校の生徒、そして自分のクラスメイトであったからである。朝のホームルームの時間になり、先生が入ってきた。

「席につけぇ、ホームルーム始めるぞ」

 クラスは、ガヤガヤしていたが先生は構わず進めた。

「先生、朝のニュースって本当何ですか?」

 クラスのどこからか声が聞こえた。もちろん将人の事である。

「あぁ、そうだ。今朝先生の方にも電話があった。そして山田君の両親も警察の方で山田君である事を確認しました」

 先生は躊躇無く答えた。そして付け足しの様にまた話始めた。

「もしかしたらテレビの取材が来るかもしれません取材を受けた人は、くれぐれも発言には注意しろ。てか受なくていい。人の不幸をだしにする奴らなんかの相手なんかしなくていい。後お通夜は今日だから行きたい人は後で先生の所に来るように」

 言い終わると手を委員長の方に向け、ホームルームを終わらせる合図をした。

 起立、礼を委員長が言いホームルームは終わった。そして悟と紅音は先生の所へ行きお通夜の場所を聞きに職員室まで聞きに行った。

「悟!おい!聞いてるのか?」

「はっ!すいません。ぼーっとしてました」

 悟は先生に謝った。やはり将人が死んだという事が酷く心に傷をつけたらしい。

「あんまり考えこむな。私もびっくりはした。だけどな大の親友がここまで暗くなるのは山田も望んでないだろうし、まぁそこまで悲しんでくれる友がいて山田も本望だろう」

「はい。ありがとうございます」

 悟の心は先生の言葉もあり少しは軽くなった。そうは思っていてもやはり現実は厳しく。事実、今日の昼食もあまり喉を通さず紅音に心配されるほどであった。そして午後も集中出来ず流れるかの様に授業が終わった。そして今夜、山田将人のお通夜が執り行われた。

「ここだな」

「ありがとね、悟君」

「いいえ。友達として当然の事です」

 将人の母が喪服姿で葬儀屋から出てきた。

「将人に会っても?」

「はい、こちらへ」

 部屋に連れてってもらい、将人の顔を見て、手を合わせた。すぐに涙が溜まって、頬をゆっくりとつたい、床にポタポタと溜まった。紅音がそれを見て背中をさすった。それはあまりにも痩せ細り、悟の記憶の中の将人ではなかった。しかし肩を揺さぶり、声をかけたら起き上がりそうなぐらい優しい顔をしていた。だがそこには冷たくなった将人が横たわっていた。友を失った悲しみ、友を殺した犯人への憎しみ。時間が経つにつれて、一層涙が溢れてきた。

「将人……こんなでさよならするとは……ありがとう……」

 静かに将人に語り掛けた

「今日はありがとうね悟君、将人も嬉しいと思ってるわ」

 悟は軽く会釈した。今、口を開けるとまた涙が出てきそうな気がして喋れなかった。

 夕食を食べるために、紅音の家に直接向かった。帰り道にはさっきまで降っていない雨が悟の心を代弁するかの様に雨が降り始めた。

「お帰り。二人とも雨大丈夫?」

「ただいま、大丈夫だよ。サトくんが折り畳み傘持ってたから」

「こんばんは」

 二人ともうつむき、暗い声で帰ってきた事を知らせた。すぐにリビングへ行き椅子に座った。そこにはすでにおじさんが座っており新聞を読んでいた。

「悟君、大丈夫か?」

「大丈夫です...すみません。男がこんなに泣いてちゃ、だめですよね」

「紅音にも小さい頃同じ様な事を言ったんだがな。今は泣いていいんだ。そんなに泣けるのは君がしっかりと友達と過ごして来た思い出があるからだ。忘れるな。だけどいつまでも泣いているなよ。時間が経った後、友を思い出し、空を見上げて笑えるくらいになれ」

「は、はいありがとうございます」

 涙を拭いながら悟はおじさんに励まされた。

「はい!食欲無いかもしれないけど少しでもいいから夜ご飯食べようね」

 おばさんがお盆でシチューを人数分持ってきた。食欲が無い分、食べやすいようにおばさんは優しいから気を使っているのだろう。

「いただきます」

 具沢山のシチューをちびちびと食べた。しかし、あまり昼食を食べれなかった為かどんどん胃袋に入っていった。シチューの温かさ、そして将人の死の悲しさで涙が溢れてきた。それを見て堪えられなかったのか、あまり泣いていなかった、いや、多分我慢していたのだろう紅音もポロポロ涙を流し、終いには声を出して泣いていた。


「今日はご迷惑をおかけいたしました。色々ありがとうございした」

 紅音の家を出る時おばさんが見送ってくれるなので今日は特にお世話になったのでお礼を言った

「もう、何言ってるのあれぐらいで。そんなんで迷惑なんて思ってないよ。私達もう家族見たいな物でしょう。明日学校あるんだからしっかりと寝なさいね」

「おやすみなさい」

 そう言いながら隣の自分の家に帰った。


 その夜

 カタカタカタ

 悟は暗い部屋であるものをパソコンで探していた。

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