第34話


「ミーナ、父ちゃんと、母ちゃんは?」


 興味深そうに、ノークはミーナにそう尋ねのに対して、ミーナはただ首を横に振るだけだった。


「じゃ、友達は?」


 やはり、ミーナは首を横に振る。


「ノーク君、ミーナちゃんをいじめちゃだめよ」


「ちがわい」


 ノークは、友達に関しては立場は違えど、自分と同じかもしれない、とそう感じるのだった。

 そんなみんなの姿を見て、隼人に少しずつ心境の変化が出始める。

 自分はまだ幸せなほうだと、ノークや、カルダや、ミーナのほうがよほど苦労しているように見えた。


 そして、隼人は自分の心に問いかける、自分を表に出そうと。


 ドクン――――


 その時、自分を表に出そうとした隼人に、なんとも言われない感覚が走るのだった。


 ノークはすっかりミーナが気に入り、ミーナの手を引いて歩くのだった。

 それには、深い意味はなく、ノークはミーナのお兄ちゃんになりたかったのかもしれない。

 相沢はそんな二人の姿を見て微笑ましく思うのだった。


 森を抜けると、視界が開け、青空が目に飛び込んでくる。

 そして、その下には町が広がっていた。

 一番にはしゃいだのはカルダだった。


「街だ!飯だ、風呂だ、ひゃっはー」


「やっと着いたわね」


 不揃いな五人は、慎重に崖を折り、街へと急いだ。





 男は写真を見て、ニヤニヤとしていた。

 一日中ずっと眺めてても飽きないほどに。


 その部屋は散らかり、物が散乱し、とても生活感が感じられるものではなかった。


 だけど、男は満足していた、今の生活に。

 加えるなら、その部屋の匂いは酷かった、配達の人が一度なり入った際に

 慌てて外に出るほどだった。


 彼の名前はグルコ。

 一人で生活していて、他に家族はなかった。

 元々家族はあったのだけど、彼のその生活についてゆかれず、見放されたのだった。


 彼は、コップに水を一杯汲むと一気に飲み干し、雑に流し台に放り投げると、

 また奥の部屋へと消えていく。


 部屋には、彼のコレクションルームと、写真の現像室があった。

 現像室には、彼の収めた写真が所狭しとぶら下げられ、列をなしていた。


 それは、とどまることを知らず、壁にも貼られているほどだった。


 彼は、その部屋も好きだった。

 その写真達を見ては笑みを浮かべる。

 その一枚一枚がどれも彼のお気に入りだった。


 だけど、それだけの量があっても、彼が満足しているわけではなかった、

 彼は、物足りなさを感じる度、外へと出かけ、そのコレクションを増やしていくのだった。


 食事することも忘れ、寝ることも忘れ、彼はコレクションに没頭した。

 あるいはもはやその感覚はマヒしていたのかもしれない。


 彼は、食事をとらなくても、睡眠をとらなくてもある程度平気だった。

 空腹感や、眠気が襲ってこないのだ。


 彼は、栄養を取るために食事し、生きるために睡眠をとる。

 彼にとって、食事と睡眠はその程度の意味しか持っていなかった。

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