第21話


 カルダは今夜も仕事に来ていた。

 そしてターゲットはやはり、酔っぱらい。

 これほど楽な仕事はないと思えた。


 カルダにとってそれがちょっとした油断だったかもしれない。


 後ろから脊髄を一突き、とその時、ターゲットの体はぐらりと揺れ、

 それはおそらく、よけたのではなく、酔っぱらった勢いでしかなかったのだけれど、

 その一撃は外れてしまう。


 そしてターゲットは気付く、自分の頬にナイフが当てられていることを。


「ひっ、ひぃぃ」


 男はとっさにその場によろよろと倒れこみ、結果ナイフから逃れる形となる。

 カルダは焦り、額から冷や汗が流れる。

 それは失敗を意味していた。

 今夜はもう無理だと、振り返りその場から離れようとしたとき――――


「ペルソナ」


 海から帰りちょうど通りかかった、隼人たちの姿があった。

 隼人は、とっさ雑貨屋の老婆からもらった道具を取り出し、武器をイメージする。

 その形はトンファー、殺傷力は低いものの攻防に優れていた。


 隼人は、カルダとの間を詰め、ナイフを落とすため、右手目掛けて武器を振る。

 それに気づいたカルダは、右手を大きく広げて避け、勢い隼人の首筋めがけて、ナイフを振り下ろす。


 隼人は、手に持つトンファーで防ぎつつ、いったん後ろに引く。

 そして、相手の顔面目掛けて一突き。


 カルダは、体を仰け反りよけ、右足を繰り出し、隼人の足元をすくう。

 隼人は体制を崩して倒れこみ、カルダも無理な体勢から蹴りを出したため、倒れこんでしまう。


 そして、カルダの目に、殺気をあらわにした隼人の目が映る。

 同時に冷や汗がさらに増してくる。

 それは隼人も同じだった、一筋縄ではいかない相手に、どこかしら恐れのようなものを感じ始めていた。


「待て待て、お前とやり合うつもりはない」


 起き上がり、砂を払う隼人。


「見苦しいぞ」


「俺は、あのアムルに用があるだけだ」


 カルダは倒れこんだまま、近くでうずくまる男を指さす。

 隼人はその哀れな男に、ちらと目をやり、カルダに向き直り拳を振り下ろす。


 カルダは、腕を交差させて防ぐも、トンファーの一撃は重かった。

 そして、その一撃に、カルダの中で何かしら怒りのようなものが湧きおこる。

 カルダのその怒りはふつふつと湧いてはいたものの、頭の中はまだ混乱していた。


 体を回転させ、その場を避け、起き上がるカルダ。

 そこにすかさず、隼人のみぞおちへの一撃。


「ぐふっ」


 それは、見事なものだった。

 とっさナイフを振るも、その腕には勢いはなく、簡単に隼人にかわされてしまう。


「はぁはぁ……お前、後悔するぞ」


 戦闘に集中していた二人だったけど、その耳に

 いつの間にか甲冑がこすれる音が近づき、その音は次第に大きくなっていた。

 それは夜回りをしていた衛兵のものだった。


 カルダは、死期を悟った、もはやこれまでだと……

 カルダはナイフを振り上げると自分の首元に、

 そしてこう言い放つ


「俺を裁けるのは、俺だけだ」


 そして、自分の首にナイフを滑らせるのだった――――

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