第1章-5 好きになる決断



人を好きになることは

決めるものじゃない

…………気付くもの






カズと会ったら、どんな顔したらいいんだろう


何もなかったと言えば…ない

あったと言えば…ある



目を閉じるとあの時のカズの背中が浮かぶ


そんな私のモヤモヤした気持ちを察するかのようにリュウが言った




「ノン、カズとはちゃんと話したから、気にすんな、なっ?」


頭をポンポンとして微笑んだ



リュウは私達が気まずくなるのを心配して先にカズと話してくれていた



いつも、私の心の中の重りみたいなものをそっと持ち上げて取り去ってくれる彼



何だか……少し心が痛んだ







トレーニングが終わり部室に向かう時、自然に横に並ぶ陰



「カ、カズ!」



「お疲れっ、何だぁ、その顔(笑)

そんなびっくりすんなよ。

……っで、聞いたよ、お前、リュウと付き合うんだってな」



「うん」



「良かったな、アイツはノンを泣かせたりしない」



「うん」



「ノンは危なっかしいからさ、誰かついててやんないと。リュウなら安心だよ」



「うん」



「ハハ、お前、うん、しか言わねぇのかよ(笑)」




……ほんとはね、たっくさん言いたいことあったんだよ、カズ


誰かに背中を押されたら止められないほどの言葉が。




そんなに私のことわかってくれてるなら、どうして、あなたが側にいてくれないの?




カズ…あなたは真っ正面から人を好きになったことあるの?




とめどない思いが頭の中をグルグル回って

ただ、返事をすることしか出来なかった






半歩後を歩き、斜め後ろから見上げるカズの横顔は今までとは違い、遠い人のように見えた






カズは急にピタリと足を止め、振り返ると、とびっきりの笑顔で言った





「ノン、いつも笑ってろよ」





私の頬をムニューと引っ張って、そう言ったと思ったら足早に歩きながら、背中で手を振った



どこまでカッコつけてんだろ、アイツ




涙が頬をつたった




これでカズのことは忘れよう

私はリュウを好きになるの




そう……決めたの

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