第26話 とうきょう(後編)

「博士さん...!」


僕は建物の上に佇む博士に向かって強い口調で責めた。


「おや、まだ生き残っていたのですか

というと...、助手はどうしたのですか」


「僕が倒しました」


そう言うと彼女は長く付き添ってきた友達が居なくなったにも関わらず笑みを浮かべた。


「使えないですね。ホントにアイツは

まあ良いのです。ここの長は私になりました」


「...ッ!」


僕は納得が行かない。

いや、カッとなったのかもしれない。


右手を構え彼女に殴り掛かる。


「!!」


ズドーンッ


地面に叩き付けられる。


「賢くないですね。

そうやって直ぐに感情に流されるのは」


「くっ・・・」


「力の差を思い知らせてやるのです」

そう言うと、玉を取り出した。


“グラビータ マルシャールロ”


博士はそう唱えると右の拳を振り下ろした。


「ぐぁっ!」


僕はまた地面に叩き付けられる


「かばんちゃん!!」


後ろの方でサーバルの声が聞こえた。


ズドドドドドーン


聞いたことの無い大きな音が響き渡った。


「ふっ、どうですか。今、私の周囲30km圏内の建物を全て破壊しました。玉の呪文さえあれば生物だけでなく無機物にも使えるのですよ!!!!」


僕は物凄い衝撃を受けた。

博士の力は確かにすごいものだ。

けど、一つ気がかりがあった。


(サーバルちゃん...)


もしかしたら、今の衝撃で...

恐る恐る後ろを振り返った。


(...!?)


目を疑った。


サーバルとアライさんとアードウルフは

平気で立っていた。


(なんで...?あれで無傷でいるの?)


僕は考えた。

そして、もしかしたら…

という物を思い付いた。


(もしや....)


僕は最後の力を出す。


「アライさん!来てください!」


「のだ!?」


急に指名されたアライさんは顔をハッとさせた。


「仲間に遺言でも頼むのですか、お前らしいのです」


博士はまだ笑ってる。


「どうしたのだ!?かばんさん!!

しっかりするのだ!」


僕は小声で説明する。


「僕を水の中に閉じ込めてください。

博士さんの弱点は、“水”かもしれません。この前みたいに水柱を僕に出してください、早く」


「わ、わかったのだ...」


戸惑った声をアライさんは出した。


アライさんは離れると地面を両手で叩く

ピンポイントに水が僕を包み込んだ。


「どうしたのですか、水浴びですか。

笑わせてくれますね」


博士は口元を抑えクスクスと笑う。

僕は水を纏ったまま、跳ね上がった。


全身が水で濡れる。

思いっ切り飛び出して、右手に力を込める。今まで、博士に翻弄されたフレンズの思いが、篭っていた。


「...最後に笑うのはこの僕達です!」


「何をっ!!」


博士は咄嗟に自分の右腕を振り降ろす。


だが、僕は重力の影響を受けない。

やはり、水に濡れたもの、水中に居るものは能力の影響を受けないと予測した僕の勘が当たった。


「なっ!?」



バシッ!!



ッドーン!!



「はぁ...はぁ...」


僕は右手で、力を込めて、思いっ切り

博士の顔面を殴った。


他人を殴るのは最初で最後かもしれない


あと、一つだけ言わせて欲しい。


弱い


きっと能力に依存しきっていたせいで、肉弾戦は不利なのだろう。


殴っただけで地面に落ちるとは、僕も予想外であった。


水に濡れた僕に能力は通用しない。

博士の敗北はほぼ確定した様な物だ。


しかし、元の性格からして彼女はプライドが高い。そう易易と負ける訳は無い。


僕は博士が怯んでいる隙に玉を取り出す。


これで悲劇を終わらせよう。


ここに来るまでに間、エスペラントを

覚えた。

僕は、竜との合体を自分から解いた。


玉を目の前に出す。


その時博士もふらふらになりながら飛び上がる。左の手で頬を抑えている。

怒り心頭であろう。


「おめぇ...、長に向かって...!!」


「これで終わりです」


“ブランカ ドラーコ...”


白い竜は蒼白いオーラを放ち博士へと向かった。


「まだ終わってないのですっ!!!

この世界は私のモノっ!!!!」


腕を上げようとしたが動かない。


「いったい何がっ...!?」


博士が見たものは白い霧のような世界。

自分がその特異な空間に飛ばされた様だった。


「・・・寒い」


不気味な寒さを感じる。

身体中が凍てつくような。


白い世界から竜が飛び出し、竜は博士を連れて天高く昇る。


その様子をかばんは見つめていた。


「博士さん...、

いえ、オオコノハズクさん....





また、カレーを作ってあげますからね」






そう言うと同時に東京の上空に白い煙が

出現して、キラキラとした輝きが雪のように降り始めた。


竜はかばんの元へ戻ると頭上をくるくると2回周り、かばんの身体に帰化した。


「・・・終わった」


目線をあげると地面には青く光る石が落ちてる。


ゆっくりと歩き寄って、拾い上げた。


サンドスター、博士が首から下げていた物だろう。グッと握りしめ、サーバルの元へと行った。

ずっと、影から、応援してくれていたと思う。


「かばんちゃん!!」


「サーバルちゃん...」


僕は同じ様に駆け寄ったサーバルに力なく抱きついた。


「よかった...」


安堵の声を漏らした。


「ごめんね...、怖い思いをさせて...

でも、勇気付けられた…

サーバルちゃんが居てくれたからだよ」


「うん...」


その後、サーバルが何か小さく呟いた。

僕は、その言葉を意識していなかった。

それが、僕も当たり前だと思ってたからかもしれない。


「アライさんも、ありがとうございます」


「ま、まぁ、アライさんに任せればこれくらい...」


少し気恥ずかしそうにしていた。


「あっ...あのっ...」


「アードウルフさん...?」


「私っ、何も出来てなくて...」


「僕達との旅、楽しかったですか?」


唐突の質問に驚いた顔を見せる。


「かばんさんに出会えて、本当に、

良かったと思います!」


力強くそう答えた。


「ふう...。

僕達、これからどうすればいいんでしょうか」


辺は博士の能力によって瓦礫の原と化した東京。

元々、何処に何が建っていたのか分からない。


「かばんちゃん、本を見せてよ」


サーバルがそう言い出した。


僕は背中から、白と黒の魔術書を取り出す。


「確か、すごい力が何とかって...」


確かにそういう話を聞いた。

僕はペラペラと本を捲る。


そして不自然なページを見つけた。


同様に白の魔術書にも不自然なページがある。


「あっ」


僕はその2冊の本を組み合わせる。

陣形だ。


そして、恐らくエスペラント語であろう

何かが書かれている。


渡された辞書と共に解読した。


「...究極の魔術、中心に誰か捧げよ。犠牲なければ、能力与えられん」


僕が読み上げるが全員頭に疑問符を浮かべていた。


僕もいまいち分からない。


「やってみよう」


そう言い出したのはサーバルである。


「なんの能力か知らないけどさ...

やってみる価値はあるんじゃない?」


「でも誰かを犠牲にしないと...」


「私がなる」


そう手を挙げたのはアードウルフであった。


「えっ...」


「私だって、力になりたいんです。

これまでの、お礼をしたいんです」


アードウルフは力強く主張した。


「わかりました...」


僕は瓦礫の破片を拾い上げ、本の円陣を描き始めた。


複雑な模様で、意外と時間がかかった。


アードウルフが真ん中に立つ。


「後は誰が...」


「かばんちゃん、私が能力を得るよ」


「サーバルちゃん...」


「かばんちゃん、頑張ったんだもん

私も頑張りたい」


僕はサーバルの目を見つめた。


「わかった...」




円陣の前でサーバルは立った。


「サーバルちゃん、多分、血が必要だと思う」


「血...、自分でやる」


彼女は左手袋を外した。

自身で目を光らす。

そして...


鋭い爪で自身の皮膚を切った。


彼女の血が一滴滴り落ちた瞬間、円陣は光出した。


その光は次第にこの世界を優しく包み込んだ。

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