第20話 ふうじられたひかり

「うっ...くっ...」


目を開けると、そこは、真っ暗な地下室だった。

奥には白い姿がある。


「ふふっ、お久しぶりですね、かばん」


その声で、誰だかわかった。


「博士...さん...」


本当なら今すぐ向かっていきたいが、

ヒグマとの戦いで体力を消費したため、

声を出すだけでも精一杯だ。


「あなたの玉は回収したのです」


嬉しそうな顔を見せる博士。


「...僕を...、どうするんですか....」


「一緒に歴史の主人公の変換の目撃者になるのです」


また、笑みを浮かべた。


「....」


意味がわからず、沈黙する。


「我々の仲間になるのです。かばん」


「いやです...」


即答だった。

だが、博士は笑顔を浮かべたままだ


「我々はあなたを操る事が出来るという事をお忘れ無く...」


そう言って、玉をチラつかせた。


(サーバルちゃん、アードウルフさん...アライさん....)


「よお、博士」


そう言って入って来たのはヘラジカだった。


「かばんもいるのか!」


「ヘラジカ、部下の件は感謝するですよ」


「ああ。もう一つ博士が喜ぶ報告が出来る」


「何ですか?」


ヘラジカは、紫色の花を取り出した。

それを持ったままかばんの側まで行って、置いた。


両手を鎖で縛られているかばんは受け取ることが出来ない。


「夜砂漠、月光の下に、スミレ咲く」


ヘラジカはそう呟いた。


「俳句っていいね、はは」


「この花は...、もしかして」


「アライさんだ」


僕はそのセリフを聞いた瞬間、頭が真っ白になった。


「ア...アライさん!?嘘ですよね...」


置かれたスミレという花を眺める。


「嘘だと思うなら思ってな。

何時間待っても彼女はやってこない」


ヘラジカの冷淡としたセリフに僕は絶望した。


「そっ...そんな...アライさん...」


「ふふっ...、希望の光はあなたに届かないのですよ」








朝になりライオン達は行動を始めた。

テングコウモリが上空から森を探索した。

その報告をしに城へ戻って来た。


「姐さん、ハデにやってましたよ。

森の真ん中が真っ黒です。草の1本も生えてませんでしたよ」


「そうか...、それ以外に異常は無かった?」


「ないです。フレンズの姿も無かったです」


「ねぇねぇ!かばんちゃんは!?」


サーバルが焦りを見せる。


「恐らく、博士の所かもしれない」


低い声でライオンは言った。


「じゃあ助けないと!」


「お、落ち着いてよ、サーバル」


そう止めたのはアードウルフだった。


「なんで?」


「だって、あっちにはヘラジカとヒグマがいる!四獣守護神だよ?いくら束になったからって…、あんな強力な能力を持ってちゃ...」


「行かなきゃダメなんだよ」


強い口調でサーバルは主張した。


「誰が相手だろうと、どんな能力を持ってようと...」


サーバルはライオンを見つめた。


「ライオン、かばんちゃんを助けに行こう!」


「...テングコウモリ」


指名されたテングコウモリは顔色を変えずに、話し始めた。


「上空で私が先の様子伺います。

それを確認しつつ、情報も地上の姐さん達に伝えます。急な敵や、先の状況を把握するんで」


「オーロックス、オリックス、お前達も大丈夫か?」


「ええ」


「もちろん」


部下の二人も、力強く肯いた。


「サーバル、アードウルフ」


鋭い目で二人を見つめ、


「自分の身は自分で守れよ」


そう伝えた。






(誰もいない...)


地下の石部屋から抜け出したリカオンは石の壁の影に隠れながら行動していた。


(しかし...、図書館の地下ってこんなに

大きかったんですね...、

まずはツチノコさんを見つけないと...)


リカオンは薄暗い地下を探索し始めたのだった。

探索しながら奥まで進んだ。

奥は行き止まりになっていた。


「何もないですね...」


方向転換をしようとした。


「...?」


足に違和感を感じた。

よく見ると、石が陥没している。

次の瞬間、ゴゴゴゴゴと音がして

左側の壁に扉が現れた。


「こ、これはっ!」


鍵はかかっていない。

扉をゆっくり開けて入る。

辺りは真っ暗だったが、徐々に目が慣れて状況を確認出来るようになった。

そして、その部屋で驚くべきものを発見した。


「あれはっ...!」


リカオンが目にした者は石になった

ツチノコであった。


「ツチノコさん!本当に石に...」


しかし、元に戻す方法がわからない。


「ツチノコさん!ツチノコさん!」


必死になって叩くも沈黙したままだ。


「どうして...、また何も出来ないんですかぁ!!」


リカオンは自分の無力さに涙を浮かべた。


「うっ...、せっかく見つけたのにっ...何も出来ないなんてっ...!」


涙が石の上にこぼれた。

その時であった。


「は...」


ツチノコから顔を離すと、

涙で濡れた場所の石化が解かれている事に気付いた。


(・・・そうか、“水”があれば!

けど、水を持ってくる余裕は...)


リカオンは覚悟を決めた。


「ツチノコさん、今助けますからね!」







「....」


僕の目の前に突き付けられた現実は

大きなダメージを与えた。


「ヘラジカ、周囲の警戒を」


「了解」


ヘラジカは博士に指示され、部屋の外へ出ていった。


ガチャッと扉が閉まると、博士は立ち上がった。そして、僕に近付く。


目の前でしゃがむと、僕を見つめた。


「よっぽど、ショックだったみたいですね…。しかし、それは自業自得なのです。あなたが私にさえ、関わったりしなければこんな事にはならなかったのです。でも、落ち込むことはないのです。

まだ、サーバルがいるのです。

彼女は花に例えると何ですかね…

“向日葵”とか...」


「...やめてください」


「...?」


「もう...、仲間を失いたくないです」


クスッと笑った。


「それは、簡単なことなのです。

私の言う事を聞けば良いのです。

郷に入っては郷に従え。

昔のヒトは良い言葉を残したものです。私が理想とする世界は素晴らしい物ですよ…」


博士の心内としては、かばんに言わせたかったのだ。

そして、自身の力を強くすると共に、

満足感を得たかった。


「....」


「四獣守護神も私の手の内にある。

つまり、長である私は実権を握ってるのですよ。欲しい物は何でも手に入る...平和も、安定も...

元々私は、こんな争い事をしたくは

ありません。あなたも同感でしょう?」


タイリクオオカミさんも、

アミメキリンさんも、トキさんも、

その他のフレンズだって....

もし、僕が、こんな博士を止めるだなんて真似をしなければ...


「今からでも遅くないのです。

あなたの愛すべきモノはまだ、助かりますよ?」


愛すべきもの...

サーバルちゃん...


もしかしたら、

ヘラジカさんやヒグマさんに...


いやだ...、そんなの...


「何故争いが生まれるのか、ご存知ですか?それは意見の対峙なのです。

人間はアホな主張をしあって、誰しもが自分の意見が正しいと思い、戦争という

醜い行いをした過去があるのです。

この世で、一番賢明なのは

賢い長の意見に従うことなのですよ

自分の意見なんてものは捨てて上に従うのです。対抗は傷を増やすだけですよ」


「...はい」


「どうしましたか?」


「僕は...、もう何も失いたくない...」


博士は黙っているがその口は緩んでいた。


僕の目からは、苦しみと悲しみの混じりあった涙が出ていた。


「...博士さんにっ...従います...」


博士は泣いてる僕の頭を撫でながら、

こう呟いた。


「アナタの苦しみは、私が消します」


僕は鎖を外された。

それと同時に僕は、“意味”を失った。


全ての、“意味”を。


「.......」




「あっ、博士、かばんをどうするのです」


「ふふっ、助手、人間というモノは

弱いものですね。たった今私に口説かれましたよ」


「それはつまり...」


「彼女も“こちら側”になりました。

有力ですね。まあ暫くは“欠番”になってる四獣守護神に入れておくのです」


「やりますねぇ。形勢逆転じゃないですか」


「ええ、これで我々の計画も最終段階に行くことが出来そうです」


「あっ、でも、掌を返される可能性も」


「玉はこちらにあるのです。

万が一はフェネックと同様にすれば良いのです」


「なるほど、流石ですね」








(待っててよ!かばんちゃん)

サーバルやライオン達は疾走していた。

テングコウモリが上空からライオンに近付く。


「姐さん、この先になんかいますね。

なにかは知らないですけど、気をつけてください」


「わかった...」


林を抜けた先でライオンはゆっくりと減速して立ち止まった。

後ろのメンバーの人差し指で口を押さえる仕草をして見せた。


ライオンは3歩進んで立ち止まった。


「...」


風でライオンの派手な髪が揺れた。


「正々堂々合戦でもしようじゃないか。

隠れるなんて、らしくないよ」


そう言った瞬間ライオンは左に素早く移動した。

何事かと思ったが移動したのと同時に

地中から木の根っこが飛び出して来た。


「あはは、相変わらずすばしっこい奴だ。久しぶりだなぁ、ライオン」


茂みから出てきたのはヘラジカであった。


「そっちこそ...」


二人の間に熱い視線の火花が飛び散る。


「お前達は先に進め」


ライオンは前を向きつつ言った。


「でも姐さん一人じゃ...」


オーロックスが言いかける


「あのな、ヘラジカは私の親友だ...

親友だからこそ、“一人”で向き合いたいんだ」


その言葉を聞いたサーバルは、


「私達は先に進まないと!」


と言った。


「テングコウモリ、能力を使えるのは

お前だけだ。皆を頼むぞ」


「姐さん...、わかりました」


サーバル達はライオンとヘラジカが睨み合っているその横を急いで通り抜けた。


「憐れだな。ライオン。

あいつらもヒグマにやられるワケだ」


「それは、あいつらの運次第だ」


ヘラジカは刀を出現させた。


「今度の戦いが“最後の戦い”になるかもな」


そう言い、刀を前へと向けた。


「そうだな...」


ライオンは手を握り、力を入れた。


百獣の王と森の王の戦いが今始まろうとしていたのであった。


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