第12話 ゆきやまをめざして

僕は凍らせてしまった会場を溶かした。

中で一時的に閉じ込められていたPPP達も解放した。


長い間能力で拘束されていた為か、

みんなバタリと倒れてしまった。

4人はひとりひとりを楽屋まで運んだのであった。


「...あれ、私達はいったい...?」


メンバーのリーダー格、ロイヤルペンギンのプリンセスが目を覚ました。


「大丈夫ですか?ケガは?」


「か、かばん?いつの間に?いったい何があったの...」


酷く混乱している様子だった。

無理もない。


「みなさんが起きてから事情を説明します」


そう言って、他のメンバーが起きるのを待った。


全員が起き、異常はないかと確認をした。そして、僕は単刀直入に“真実”を述べたのである。


恐らく彼女達もとても、複雑な気持ちになっていたと思う。

ただ、出来ることは“博士の暴走”を阻止する。そういう約束をする。

それだけだった。


「...大変な事になっちゃったね」

黙っていたフルルがか細い声で言う。


「かばん...、本当に大丈夫なのか?」

イワビーは息を少し乱しながら言った


「僕達は大丈夫です。仲間がいます」

後ろの3人を見た。


「みなさん、とにかく、遠くへは行かずなるべくみなさん一緒にいるようにしてください。何があるかわからないんで」


と、メンバーに忠告した。


僕もそうだが、彼女らもまさか夢にも思わなかっただろう。

自分達の脅威が“セルリアン”でなく

“フレンズ”になるとは。


「これから、かばん達はどこへ?」


「取り敢えずは、ロッジに向かおうと思います」


プリンセスの問に僕は答えた。


「雪山を超えるのか...、気を付けて」


コウテイは僕達の身を案じてくれた。


「自分達の身は、自分らで守ってみせます!」


ジェーンは、そう、力強くメッセージを残した。本当は精神的にも疲労困憊であろうのに。


僕は急がないといけない。

彼女達も心配だが、無事でいてほしいと信じて先へ進んだ。


僕達は年中雪の降る雪山へと、覚悟を決め進んで行った。








一方こちらは図書館の地下。かばん達が行動しているその裏で、計画は密かに最終段階へと突入していた。


「サンドスター・バイオの

精製率74%...、まだ少しサンドスターが不足しているのです」


バインダーに挟んだ紙を見ながら助手は言った。


「そうですか...、まだ足りない...」

溜息混じりの重い声を博士は出す。


「その、バイオなんとかが無いと装置を動かせないんだろう?かばんもすぐそこまで迫ってるみたいだし、間に合うのか?」

壁に寄りかかり腕を組むヘラジカ。


「最悪、私が最後まで躊躇してきたフレンズから強制的にサンドスター抽出することも、視野に入れなければいけないのです。ですが...」


「ですが?」


ヘラジカは思わず復唱した。


「能力を使って限界まで時間を引き伸ばす事は可能です」


博士は自信をもってきっぱりと言い切った。


「それでリカオンを使うんだろ?」


椅子に座るヒグマが声を上げる。


「ええ。タイリクオオカミのコネで

アリツカゲラに頼み砂漠で

“フェネックだった物”を見つけましたからね」


「砂だろ?よく見つけられたな」


ヘラジカは関心して頷いた。


「アリツカゲラの白魔術は、周りと違う物を見つけるという変わった能力ですからね」

博士は少し笑った。


「んで、私がリカオンに発破かければいいんだよね...」


「今すぐでなくていいのです。

くれぐれも、“危機が差し迫った状態”ですから」


トントン


地下室の扉を叩く音がした。


「キングコブラです」


「わかったのです。少し待つのです」

博士の変わりに、助手が返事をすると

二人は視界を遮るサングラスを目にかけた。


ヘラジカは壁に寄りかかったまま居眠りをするように目を閉じ、ヒグマも同じようにした。


「どうぞ」


「白魔術書の在処を話さなかったんで

ツチノコを“石化”させました」


「そうですか...。口が堅いヤツですね...」

物凄く小さな舌打ちを博士はした。


「ツチノコはどうしますか?」


「放っておいていいですよ。

石になれば何も出来ませんからね。

あなたはもう帰っていいですよ」


「わかりました」


頭を下げ、キングコブラは扉を閉めた。




「石になるとか、強すぎるよなぁ。コブラの能力」


ヘラジカは揚揚と声を出す。


「確か強いですが、目を合わせると石化するという能力は敵味方関係なく発動しますから、使い勝手が悪いのです」


博士は冷たくあしらった。


「いろんなフレンズを石化して図書館を美術館にしても面白いかもな!アッハッハ!」


「...アホか」


不謹慎な事を平然というヘラジカに対し、ヒグマは辛辣な言葉を浴びせた。


「ところで、今かばんは何をしているのですか」


「フレンズからの情報だと、

アードウルフと言うフレンズと

アライさんを仲間にしたらし、ロッジの方に向かったらしいです」


助手の言葉を聞いた博士は再び、溜息を付いた。


「今、アライさんと言いましたね?

アライさんの玉はあなたが保管していたのでは?」


つい墓穴を掘ってしまった助手は、消沈した声で真実を述べた。


「...、盗まれました」


「盗まれた?」


「恐らくは...、私が目を離した隙にアライさんが盗ったと...」


「それで何故、報告をすぐにしなかったのですか」


「そ、それは...」


博士は静かに右手に力を入れた。

次の瞬間、助手は強制的に地に伏せられた。


「うっ...」


「よくも敵を増やしてくれたのです

しかも、黒魔術者が二人とは」


「申し訳...ございま...せん...」


「この大事な時期に」


「苦しいです...お許しください...

ちゃんと...次の手は...打ちましたから...」


「ほう、次の手ですか」

博士は、助手に掛けていた自身の能力を

解除した。


「はぁ...はぁ...、そ、そうです...

タイリクオオカミの所へ情報を伝えた後

ギンギツネ達を脅して来ました...」


「どのように?」


「かばんを倒さなかったら、宿を燃やしてやると...」


「随分とド派手な脅しを掛けたものですね。そんな脅し実行出来るのですか?」


そう博士が問うと、ヒグマが顔を博士達に向けた。


「大丈夫だ、問題ない。

博士が大丈夫なら、やってあげるよ」


「ふふっ、恐ろしいのです」

珍しく、口に笑いを出した。









そんな裏取引があるとは全く知らない

かばん達。山の入口で少し休んでから、

雪山を竜を出して登っていた。


バスがあればいいが、アレを動かすにはラッキービーストも必要だし、

最悪“でんち”が必要になる。

唯一知る充電場所に行く気がしなかった。


吹雪の中を抜けて、建物が見えてくる。


「見えて来たのだ!」


アライさんが指さす先にあるのは

キツネコンビが切り盛りする温泉宿。

ホッとひと息付けるかどうかはわからない。

宿の少し手前で竜を降りた。


「ここで、休む?」


サーバルが僕の顔を横から覗き込むようにして尋ねた。


(竜はもう使っちゃったし…

ギンギツネさん達を信じるしかないか

最悪の場合....)


個人的に、そんな事は考えたくない。

しかし、この世界は大きく変わってしまった。時と場合に応じて臨機応変に対応する事が求められる。


(落ち着いて判断しよう)


そう目的を定め、僕達4人は宿へと雪を

踏んで向かうのだった。


ガラガラと古風な扉を開けると、出迎えは無かった。


「こんにちはー!ギンギツネさんいますかー!」


大声で呼んだ。

数秒の不自然な間があってから、応答があった。


「はーい」


3年振りに僕達の前に姿を現したのは、

ギンギツネだった。容姿に変わりは無い


「お久しぶりです。ギンギツネさん」


「久しぶりって、突然来るのね...」


ギンギツネは微笑しながら受け答えをした。


「キタキツネさんはお元気ですか?」


「相変わらずよ」


微笑したまま、呆れたような言い方だった。


「ギンギツネ、久しぶり!」

サーバルは明るい声で挨拶する。


「サーバル、元気そうね」

今度は微笑では無く笑顔を見せた。


「アライさんのこと、覚えてるのだ?」


「ああ、えーっと、黄色い髪の子といたわよね」


ギンギツネが言ったのはフェネックの

事だろう。他者に認識される程アライさんとフェネックは名コンビだったのだ。

ギンギツネは“その子はどうしたの”と尋ねようとしたのか、口の動きを変えようとした瞬間


「あっ、はじめまして!アードウルフです」


空気を読んだアードウルフが口を挟んだ。


「あ、はじめまして」


ギンギツネは簡単に返事をしただけだった。


「ところで、ギンギツネさん。

泊まってもいいですか?」


「ええ、もちろん。じゃあ、準備するからそこのロビーで少し待ってて」


僕達はロビーにある椅子に座って待つように指示された。







「あのさ、ボクにはやっぱり出来ないよ…」


「あなたは無理しなくていい。

“ステージ”を作ってくれるだけでいいから」


「間違ってるよ…、こんなの」


「ここを守る為には、仕方ないのよ」


ハァ一、とギンギツネは深い溜息を付くのだった。

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