貴方の願いを叶えましょう。ただし貴方の夢は叶いません。

花咲樹木

第1話 世界最強を目指すバカな男の話

 とても理不尽だと思うことがある。


 いきなり愚痴を言うようで何か嫌だが、どうか少しばかり付き合って欲しい。


 才能という言葉がある。

 各分野において活躍する人が、当然のように持っているもの。

 それは大概が先天的なものであり、自分ではどうにもならない要素だ。


 同じ環境で育ち、同じことを学んで、同じように励んだとしても――必ず実力に差が出る。


 出てしまう。


 それが才能だ。目に見えず、結果としてしか現れない。そんなあやふやな概念。

 それを持っている者と、持っていない者では根本的に違ってくる。


 絶望的なまでの差が生まれてしまうのだ。


 もちろん「努力してその地位に辿り着いたんだ」「才能の一言で片付けて欲しくない」という意見もあるだろう。当然だ。

 でも、努力しても実らない人がいる。努力する道を歩めなかった人だっている。

 そう言うと、頑張りが足りないとか、効率が悪いとか、成功した人はもっと工夫していると諭される。


 結果を出した人に焦点を当てて、「才能がある奴はズルいよな」と言うことこそ卑怯、そんな言い分もあるかもしれない。

 でも結果うんぬん以前に、俺はスタートラインに立つことすら許されなかった。


 辿り着きたい場所に向かって進む為に必要な才能を、俺は持っていなかったのだ。


 大いなる自然に耳を傾け、それを神の如き力を持つ精霊と契約することで自在に操る――そんな誰にでも使えるはずの『精霊術エレメント』が使えない。

 精霊が支配するこの世界で、それはとてつもないハンデとなってしまっていた。


 理由は分からない。

 医者いわく“精霊にとてつもなく嫌われている。むしろ憎まれているレベル”とのことだったが、どうしてそうなったのかも分からない。

 どんなに祈りを捧げても、どれだけ他のみんなの真似をしても、普通は出来るはずのことすら覚束ないとは、なんと悲しい運命だろうか。


 知らない内に世界から拒絶されてしまっていた。


 運が悪かった、という一言で終わらせるのは簡単だ。

 諦める、という選択だってあるだろう。


 だけど俺は諦めたくなかった。

 負けたくないという気持ちの方が強かったんだろう。

 意地を張って、むしろこの状況はチャンスだと思うことにした。


 自然の力を操る『精霊術エレメント』という奇跡の御技を使えないままで、それを駆使する実力者に圧勝する。


 ――才能に恵まれた『天才』に、血の滲むような努力と工夫で『凡人』が勝つ。


 あれ、これはちょっと格好いいんじゃないか……?

 共に世界最強を目指し、国一番の騎士になろうと約束した幼馴染に決闘で打ち勝ち、自信と誇りを持って「どうだ、俺は強くなっただろう」と笑ってみせる。


 いつしかそんな夢を抱き、それを叶える為に努力を重ねた。


 だが現実は儚くも脆く、精霊術は恐ろしいほどに精強だった。

 こっちは素早く動いて剣を振るくらいしか選択肢がないのに、相手は離れた位置から火球を飛ばしてくるわ、やっと剣を当てたと思ったら相手は周囲の熱を操作して作り出した幻だった、そんなものが日常茶飯事に襲ってくる。

 剣の腕が同じくらいの技量だった場合、ほぼ確実にこちらが不利になるのだ。


 諦めの悪い俺でも流石に考えた。嫌でも気付かされる。


 ……これ無理じゃね? いやいや理不尽すぎるだろう、と。


 閑話休題。

 ここまでグダグダと益体のない話をしてきたが、別に世の不公平を嘆いているんじゃない。

 要は「才能がない人はどう頑張ってもダメ」という現状を変えたいだけだ。


 神様が決めたルールを打ち破ることで、それを証明したかった。


「おい意地悪な運命様よ、お前なんかには負けねーぞ」と見返してやりたいだけであり、頑張れば花開く、という温かな未来を夢見ているだけなんだ。


 何も口先だけで、駄々をこねているわけじゃない。

 その夢を見る資格を得るには、誰もが納得するほどの努力をしなければいけないだろう。

 勝手に不貞腐れて、頑張っていないから出来ない事態などあってはいけないのだ。


 朝から晩まで、気が狂ったように剣を振るう日々。寝る間すら惜しんで技量を磨く。

 強くなったという自負がある。励んだ時間の濃さでは誰にも負けないという自信がある。


 しかしそれでも、結局は“才能もあって努力する奴”には届かなかった――


 俺はたまらず、故郷を飛び出した。


 頑張って海を泳いだ。その途中で裸になった。


 ヤケになった訳じゃないということは、先に言い訳しておきたい。

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