第12話 そして状況は移り変わる
私は呆然としながら家に帰った。
記石さん(と間違えた人)が居なくなってから、気づけば周囲に人がいた。
さっき信号を渡って行ったはずの、サラリーマンとOLさん。
突き飛ばされたと思う前と、全く同じ状況に戻っていたのだ。
何がなんだかわからない。
でも地下鉄の方向からは人がまだ流れてくるし、とにかく誰もいない状況じゃないうちにと、走って帰宅したのだ。
先にお母さんが帰ってきていたのを見てびっくりしたけど、良かった。
まだ18時50分でセーフ。
でも慌てて走って帰ったことがわかったらしく、お母さんも不思議そうに私に尋ねて来た。
「どうかした? 不審者でもいたの?」
不審者という言葉にドキッとする。
でもあれ、不審者じゃない。どちらかと言えば……。
「お、おばけ?」
「は?」
お母さんが、目を丸くする。
「だって、見えてた人が突然消えたりって、おばけじゃないの?」
私の話を聞いたお母さんは、ややしばらく悩んだように眉間にしわを刻んだ後、
「ちょっと待ってなさい」
と言って、お玉片手に自分の部屋へ。
そうして、神社の交通安全のお守りを渡してくれたのだった。 とりあえずそのまま夕ご飯を食べ、部屋に戻ってからつぶやく。
「ないわー。お母さんそれないわー」
おばけを見た。
だからお守りを渡すのはまぁわかる。お母さんに笑ったりされなくて、良かったとも思っているの。
でも渡されたのが、交通安全。
「いや、それほどひどく間違ってはいない?」
ぶつかりそうになったのは車だし。交通安全なら、車道に突き飛ばされることはなくなる……んだろうか。
車の方が気づいて止まってくれたりして。
「いやいやいや。でも、こういう場合、危険なのは車とは限らないよね」
自転車でも怖いし、本当に不審者にでも追いかけられたら、それは対物安全のお守りが必要だろう。
もしあそこに、記石さんが居なかったら。車にはねられて、どうなっていたか。
「でも記石さんじゃないって、言ってた……」
記石さんじゃない人。でもあんなにそっくりなのに……と思う。
「まさか、双子だったりする?」
だとしても、言っていたことの理由もわからない。
それよりも考えるべきなのは、亜紀のことだ。
亜紀は、幽霊になってしまったんだろうか。突然現れて、突然消えてしまった状況を説明するには、それしか思いつかない。
でも亜紀になにかあれば、うちのお母さんに連絡が来るはず。だから問題はないんだろうけれど……。ちょっと怖い。
「怖いと言えば」
私は首をかしげる。
「あんな目にあったのに、わりと平気だな私……」
普通なら布団被って震えて朝を待つような、そんな状況になるんじゃないかと思う。
オカルト系の映画とかなら、そうなるよね?
でも走っていたとはいえ普通に家に帰ったし、お母さんに顔色が悪いと思われはしたけれど、震えてろれつが回らないなんてこともなかった。
お母さんのお守りで拍子抜けしたのもあるけど……。
「何か、冷静すぎておかしいような」
違和感はあるけれど、それがどうしてなのかわからない。
ただなんとなく、あの時現れた記石さんのそっくりさんのおかげではないか、という気もする。
「きっと安心したのかな」
助けてもらえたから……。 たぶんそうだろうと考えた私は、その夜はぐっすりと眠った。
そして学校へ行って驚く。
「ちょっと美月。聞いた?」
登校するなり、芽衣が挨拶もそこそこに話し始める。
「何を?」
「槙野君に告白して振られた女子がいるって噂」
声をひそめた芽衣に合わせて、顔を近づけて私もささやき声になる。
「え? 誰か昨日、告白したの?」
芽衣は首を横に振った。
「違うのよ。それが……同学年で、ときどきクラスに遊びに来てた子からっていう噂がね、流れてるの」
「え……まさか」
「美月が想像したとおり、彼女の名前が挙がってるみたいなの」
芽衣は警戒して名前は口にしない。
けど、それが亜紀のことだっていうのはわかった。それに当てはまる人って、一人じゃないわけだけど……限りなく亜紀が当てはまってしまう。
「でも告白したのって、だいぶ前だよ?」
つい最近のことじゃないから、やっぱり亜紀じゃないはず。なのにどうして、亜紀の名前が挙がっているんだろう。
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