第5話 精霊の書

 翌日。ナイジェリアのラゴス港

 西のベナン、北のニジェール、北東のチャド、東のカメルーンとそれぞれ国境を接し、南はギニア湾に面し大西洋に通ずる。ナイジェリアの行政区分は三六州および首都アブジャ市を擁する連邦首都地区からなるナイジェリア連邦共和国、通称ナイジェリアは、西アフリカに位置する連邦制共和国である。およそ一億九〇〇〇万人の人口はアフリカ最大であり、世界でも第七位に位置する。面積も広い国である。サハラ砂漠以南のブラックアフリカの中では南アフリカ共和国に並ぶ軍事大国である。

 ラゴスは、ナイジェリアの南西端のベニン湾岸に位置する同国最大の大都市・港湾都市で、ナイジェリアの旧首都。市域人口ではアフリカ最多でありエジプトの首都・カイロと共にアフリカでは世界の有数のメガシティでもある。世界でも最も拡大の勢いの強い都会のひとつであり、アフリカで二位、全世界で七番目に急速に成長する大都会である。人口一億を超えるナイジェリア全土から多数の人たちがよりよい雇用や教育機会を求め集まってくる。人口増加率、人口密度、そして失業率と犯罪の多さでもナイジェリア最大。ラゴスは本土側と、ラゴス・ラグーンを取り囲むいくつかの島からなった近代的な都市である。

 

 資材をリストとコンテナの資材を見比べるナイジェリア兵士達。

 香川とギルムは兵士と同じ格好で中古ノートパソコンや遠心分離機を見つけた。

 「このコンテナ船。韓国の企業になっているけど中国だと思う」

 ギルムは怪しむ。

 「俺もそう思う。ハングル語の後ろにうっすら中国語表記があった」

 気になる事を言う香川。

 乗務員はあまりしゃべらないのは韓国語が話せないからである。韓国語をしゃべれる乗務員が応対している。それに港の混雑防止の名目で中国船の入港禁止も通達してあるのに入ってきた。それに遠心分離機も数十個の中古のパソコンも日本製である。日本製だと中古でも品質がいいから高値で売れるし高性能な兵器を造られてしまう。それに自分はヒゲをつけて国連軍の兵士に変装している。昨日、コリントから渡された軍服は国連軍の戦闘作業服だった。

 奥の通路で不満そうな顔で怒り出す乗務員。韓国語でののしる。

 「コリント。こいつら中国人でこの船も中国船だ」

 香川はささやいた。

 「僕もそう思っていた。だから軍に報告して上陸させないで一時間以内に出港するように指示を出してある」

 コリントはうなづく。

 「南アフリカの空港にも貨物機が来ている。乗務員も拘束されていて荷物も検査を受けている」

 マービンが口をはさむ。

 「それはよかった」

 香川がうなづいた。

 三人は他の兵士と一緒に岸壁に降りるた。

 コンテナ船では乗務員達が出港準備に忙しく行きかっているのが見えた。

 港湾の外でフリゲート艦に横付けされている大型貨物船やコンテナ船が見えた。いずれも船名や船籍が中国籍の船舶である。

 「・・戦闘艦も自衛隊や米軍と違うな」

 香川はタブレット端末でフリゲート艦のスペックをのぞく。コリントやマービンが融合するフリゲート艦は同じ型のドイツ製の艦船である。

 MEKOとは多用途フリゲート構想の略語で、兵器や電子機器、その他の装備品をモジュールとしてまとめることによって保守整備の手間やコストなどを低減するコンセプトのことである。基本となる船体がまず設計され、そこに兵装や電子機器のモジュールをはめこんでいくことによって、顧客の希望に応じた艦を比較的安価に入手できる上、モジュールを取り替えることで簡単に改装できる。元々は輸出用として設計されたが、後にその派生型となる艦が本国ドイツでも採用された。

MEKOはその名称で「フリゲート」と銘打っているにもかかわらず、そのラインナップには海洋哨戒艦、多用途支援艦なども含まれており、また運用国によっては駆逐艦あるいはコルベットとも種別される。

「こちらクリスタルシンフォニーとセレニティ。この港に接近するゴールデン・エラとフォーレンダムを見つけた」

「こちらリヨン。現在接近中」

ラゴス沖にいた三隻から通信が入る。

ベノワが近づいてきた。

タブレット端末に動画が送信された。



ラゴス沖。

「そこの客船。止まれ」

リヨンが声を荒げた。

「なんでイタリアの巡視船がいる」

声を低めるゴールデン・エラ号。

「クリスタルシンフォニーとセレニティだ」

フォーレンダムがしれっと言う。

二隻とも船橋の窓に二つの光が灯った。

ゴールデン・エラ号。全長二四六メートル 七一五四五総トン。元はセレブレティ・センチュリー号が中国の船会社に売却されて船名が「ゴールデン・エラ」に変わった。

フォーレンダム号。全長二三七メートル。 六一二一四総トン。ホーランドラインというアメリカの船会社の所有である。

「僕達はナイジェリア政府の要請で不審船がいないか捜査していたんだ」

リヨンは声を低める。

「俺達はちゃんと通行証を持っているし入港料を払っている」

当然のように言うゴールデン・エラ。

「だけどここではビジネスはできないわね。あんたの口座は凍結されちゃったし」

シンフォニーが凍結された口座を送信した。

「バカな!!おかしいだろう」

声を荒げるゴールデン・エラとフォーレンダムの二隻。

「おかしくないし、ナコト写本やルルイエ異本を勝手に売却したね」

声を低めるセレニティ。

黙ってしまう二隻。

「それとサルイン侵攻で傭兵や上陸兵を乗せただろ。目撃者はいっぱいいる」

リヨンは写真を見せた。

そこには上陸艇を引き連れて入港する自分達の姿が映っている。

「俺達は頼まれただけだ。それにこいつら知らないか?」

しゃあしゃあと写真を送信するゴールデン・エラ。

写真には海江田、香川、アナベルが映っている。それと数十隻のサルインの巡視船と駆逐艦とフリゲート艦も一緒に映る。

「それがどうしたの?」

しゃらっと聞くシンフォニー。

「聞いただけ」

フォーレンダムが声を低める。

「よっぽど見つからなくて困っているのね。残念よね」

わざと言うセレニティ。

「このアマ・・」

中国語で舌打ちするゴールデン・エラ。

「公務執行妨害で逮捕しようか」

あっさり言うリヨン。

「入港できないならそれは残念だ。他の港へ行くぞ」

フォーレンダムは言った。




同時刻。カーボベルデフランス駐留軍。

「アルミン司令官。ガボンとセネガルにあるTフォース基地を中継して通信が届いています」

司令室でフィンは報告した。

「通信?」

アルミン、ツアーロ、マドレス、ライエンが声をそろえた。

フィンはスクリーンに地図を出す。どこを経由しているのが表示される。

「サルインからだ」

目を輝かせるツアーロ。

「サルインのコルツ地下司令部から暗号通信が来ています」

フィンは報告する。

スクリーンに二人の男性が映る。

「ゲイリー長官、セード司令官」

ツアーロが声を上げた。

「通信は届いているか?」

ゲイリー長官は口を開いた。

「こちらカーボベルデ駐留軍のアルミンだ。通信は届いている」

アルミンは答える。

「国王陛下と王女様は無事か?」

セードが聞いた。

「アナベル様なら無事だ。パンサーアイメンバーが集まってきている。彼女はそのメンバーと一緒にセネガルとケニアにある古代遺跡へ行っている。どうやらダーラムの狙いは「精霊の書」らしい。フェデリコ陛下とメルル王妃は南アフリカ政府の保護下にある」

アルミンが答えた。

「そうか・・・奴らはアナベル様と海江田、香川保安官を狙っている。理由は人質として交渉に使おうとしているが日本政府が応じるわけないだろう。彼女を使うのは時空遺物を収集する気でいるようだ」

推測するゲイリー。

「リベルタ軍の大半は傭兵です。兵器は中国製の戦闘車両ばかりです。リベルタ兵士は少ないです」

セードは報告する。

「じゃあリベルタ兵士はリベルタ国内でしょうか?」

ライエンが首をかしげる。

「それはリベルタ国内に侵入しなければわからないな」

アルミンが腕を組む。

「それには問題がある。アゾレス発電所のそばにトーチ状の物体を工作兵がパーツを組み立て建設した。工作兵はリベルタ兵士に違いないが生気がない目をして指示に従っているだけのように見えるらしい」

セードが画像を出した。

そこには足場が作られクレーンを使ってパーツごとにタワー型の物体を淡々と組み立てていく動画になっていた。

「建設作業するのにヘルメットをかぶらないのはおかしいですね」

マドレスがうーんとうなる。

何かがおかしい。動きがロボット的で顔が生気がない。

「この頭にくっついているのはヘッドギア型の制御装置です。生気がないのは操られているからだと思います。たぶんリベルタ本国に統合装置があると思います」

フィンが指摘する。

「そんな事ができるのか?」

ライエンとマドレスが声をそろえる。

「幹部会議でも議題になったのだがダーラムは自分が大統領になった時点で国民に装置をつけて人形のように操っていると思われる。手術は高度な医療技術がなければできません。リベルタ国内にそんな病院があるとは聞きません」

ゲイリーが難しい顔をする。

「リベルタの人口は約二〇〇万です。全員を操る事は不可能です。なら必要な人材だけ医療手術でベッドギアをつけた。魔術アイテムの中には魔光石と魔女軟膏という粉を使って操りやすくする薬を作ることができます」

ライエンが推測する。

「高度な医療外科手術をできる医者は限られますね。最近、行方不明になっている科学者や医者がいないか聞いた方がいいですね」

マドレスがうなづく。

「問題はこのトーチ状の物体です。これはテレポートアンカーといって部隊をそこに送り込むための装置です。発電所の横にあるのは発電したエネルギーをこのテレポートアンカーに使うためです。ここにあるは受信装置で送信装置はリベルタです。たぶん同じように発電所の横にあると思います」

図面を出して指でたどって説明するフィン。

「膨大なエネルギーが必要なわけか。まだ稼動していないなら勝機はある」

セードが納得する。

「それと巨大戦車をどうにかしなければならないのだがミサイルが効かない」

ゲイリーはうーんとうなる。

「僕とエンリコとビックガンがいればあの戦車と戦えます。弱点とまではいかないけど内部にダメージは与えられる」

フィンは冷静にはっきり言う。

「わかった。まかせよう。リベルタの総司令部はリベルタだろう。野戦司令部と野戦陣地が我々の基地があったところに設営している。いるのは傭兵だ」

セードが地図を見せる。

「ダーラムは国防省に臨時司令部を置いている。アッシジ大統領達は留置場に閉じ込めていると思います。ダーラムの部下がアナベル様の探しているのと傭兵達に命令を下していると思います。部下がこの二人です。アミル・チャグ少佐が彼女を追跡。ドルグ・ラーベルグ大佐が傭兵達に指令を出している」

ゲイリーは国防省の写真を出した。

「テレポートアンカーを破壊するチームと巨大戦車をひきつけるチーム。ダーラムのいる臨時司令部と野戦司令部の破壊するチームが必要なのだが人員が足りない」

セードは腕を組んだ。

「フランス軍とナイジェリア、南アフリカ軍が協力してくれる。部隊を派遣できるだろう」

アルミンが言う。

「それはありがたい」

破顔するセードとゲイリー。

「しかし、港に上陸するにもミュータントの艦船がウロついている。街にも傭兵と一緒にミュータントの戦車や戦闘車、戦闘ヘリもいる」

懸念するセード。

「ならコンゴ、ガボン、赤道ギニアの国境から侵入すればいい。すでに協力できないかかけ合っているんだ。国境には街から逃げてきた難民がいる。難民にまぎれて侵入できる」

提案するアルミン。

「セントラルプライムへは地下鉄網や地下トンネルを使えば侵入できる」

セードはうなづいた。



ケニアにある古代遺跡。

東アフリカ、ケニア、マリンディの奥深くにある森林地帯には、いまだに多くの謎が残る失われた都市、エンゲディの遺跡があるという。ジャングルの中の都市、エンゲティの町でいったい何が起きていたのか?研究に研究を重ねられているものの、まったくその手がかりはなく、現在でも考古学者の間で論争がなされている。

今は石でできた一部城壁、柱と土台のみを残しているエンゲディだが、推定すると三〇〇〇人のコミュニティーが存在しており、当時としてはかなり最先端の町並みをしていた。一九四八年に発見され以後一〇年間にわたり発掘調査が行われた結果、現地で作られたオブジェクトに加え、ヴェネツィアのものと思われるビーズが発掘されたという。また、スペイン製のハサミも発掘されており、少なくともヨーロッパと貿易をしていたことは裏付けられた。また、中国の明王朝時代の硬貨や花瓶、インド製のランプも発掘され、アラブ圏のイスラム系のモスクも存在していた。


アナベル達を乗せた輸送ヘリは森林の近くにある平原に着陸した。彼女達を地上に降ろすと飛び去っていく。

「エンリコ。あの木を撃って」

アナベルは真ん中にある大木を指さした。

エンリコは片腕を機関砲に変形させて撃つ。

青い光線が木に命中。せつな空間が揺らいで大木が消えて二両の戦車が現われた。

「米軍のエイブラムスM-1とイスラエル軍のメルカバ戦車だ」

あっと声を上げるフラム。

銃を抜く海江田、カルル。

身構えるボンゴとトゥグル。

「戦車のミュータントね。米軍のがラルゴでメルカバ戦車がロルフでしょ。ダーラムと仲良しのフレイに頼まれた?」

アナベルが核心にせまる。

なぜそう思ったのかはわからないが直感である。映像がフッと頭の中に入ってくる。ダーラムにはフレイという武器商人と仲がいい。たぶんフレイに誘われたのかもしれない。

「俺達は休暇で来ただけ」

ラルゴと呼ばれたエイブラハムM-1戦車が名乗った。

「おもしろそうなものがあるっていうから来たのよ」

ロルフは女性の声でしゃあしゃあと言う。

「遺物を盗みに?」

フラムがわりこむ。

「取引だよ」

ラルゴは車体から六対の鎖を出した。

「じゃあなんで戦車になったままよ。おかしくない?」

カルルは指摘する。

「○■&%」

ロルフが鎖で指さす。

「何語?」

トゥルグ達が聞いた。

「ヘブライ語。イスラエルの言語」

エンリコが答える。

ロルフは声を荒げる。

エンリコが言い返す。

「なんて言っている?」

フラムが聞いた。

「取引したいからセネガルの遺跡で見つけた遺物をよこせって言っている」

エンリコが翻訳する。

「ここは逃げた方がいいかもしれない」

トゥルグは緑色の蛍光に包まれてラーテル装甲車に変身した。

ラーテル装甲車は、南アフリカ製の歩兵戦闘車であり、各種の派生型が存在する。ラーテルの名称は、アフリカに生息するラーテルにちなんで命名された。

一般的な歩兵戦闘車がキャタピラを利用する装軌式であるのに対して、ラーテルはゴムタイヤを装着した六輪式の装輪装甲車である。南アフリカ軍が主な作戦行動を行っていた南アフリカ本土やナミビア、アンゴラ、モザンビークなどは地形が比較的平坦でベトナムのジャングルのような泥沼も存在しないため、

南アフリカ軍は無理に装軌式を採用する必要を認めず、整備・維持コストが安価で長距離自走が可能な装輪式を採用した。

派生型も多数存在する。ラーテル20基本型で二〇ミリ機関砲を装備。ラーテル60AML60のライセンス生産車両であるエランド装甲車の砲塔を搭載したタイプ。主武装はAML60と同じ六〇ミリ後装式迫撃砲。乗員数はラーテル20と同じ。ラーテル81砲塔を撤去し、車体内部の兵員区画に81ミリ 迫撃砲を搭載した自走迫撃砲、メンテナンス車、戦車駆逐車といったバリエーションが存在する

「逃がすなって言われているんだ」

ラルゴは声を低める。

「誰から?」

身構えるトゥグル。

「依頼者は言えない」

ヘブライ語で答えるロルフ。

「ダーラムとフレイでしょ」

はっきり指摘するアナベル。

「黙れよ」

ロルフとラルゴはにじり寄る。

「逃げろ!!」

トゥグルは叫んだ。せつな二両の戦車の駆動部分に植物がまきついた。

アナベル達は逃げ出した。

火炎放射器で燃やすロルフ。彼女はアナベル達に追いついた。

ラルゴの体当たり。

トゥグルは岩に激突した。

「エンリコ。君は何と融合した?」

フラムが聞いた。

「大砲と装甲車」

エンリコが答える。

海江田とカルルは銃を撃つ。

しかし戦車の装甲に銃弾は弾かれた。

ボンゴの体がメタリックな金属に変わり、槍で車体を突き刺す。しかし深く突き刺さらない。

ロルフは鎖を伸ばしてアナベルを捕まえる。

「捕まえた。あの森へ案内してね」

クスクス笑うロルフ。

「放して!!」

アナベルはもがいた。しかし巻きついている鎖はビクともしない。

「おまえらは捕虜なんだよ。遺跡に案内してもらう」

ラルゴはトゥグルを放り投げた。

地面にたたきつけられるトゥグル。六対の鎖で車体を起こした。

「誰がおまえなんかに!!」

トゥグルとボンゴは身構える。

ロルフは砲口を向けた。

海江田、カルル、フラムは武器を捨てて両手をしぶしぶ上げる。

トゥグルは元のミュータントに戻った。

マサイ語でくやしがるボンゴ。元の肌色に戻る。

「案内しろ」

ロルフはアナベルを降ろした。

しぶしぶ森へ歩き出すアナベル。

「相手が戦車じゃ無理ね」

海江田がしれっと言う。

 「伏せろ」

 海江田、カルル、フラム、トゥグル、ボンゴ、アナベルは伏せた。

 「え?」

 ドゴーン!ドドーン!!

 ミサイルや砲弾が二両の戦車に命中した。

 轟音を立てて戦車がエイブラム戦車とメルカバ戦車に体当たりした。

 大きく揺れる二両の戦車。

 迫撃砲が続いて次々と命中した。

 濃密な煙が舞う。その濃密な煙からぬうっと姿を現す二両の戦車と七台の装甲車。

 顔を上げるアナベル達。

 ラルゴやロルフが変身する戦車の装甲には傷ひとつついていない。

 「すごいいいあいさつね」

 「また何か増えた」

 人事のように言うロルフとラルゴ。

 「おまえの呪文は封じた」

 フランス軍の戦車は鎖で指をさした。

 ヘブライ語で舌打ちするロルフ。

 「違法なハンターなのは知っている。それにサルインの基地情報をダーラムに売っただろ?そうしないと正確に空爆できない」

 南アフリカ軍のオリファント戦車が声を低める。

 「俺達はなんにもしてないね。旅行で入っただけだ」

 しゃあしゃあと言うラルゴ。

 「休暇で行っただけで何もしていない」

 ヘブライ語で言うロルフ。

 翻訳機を見せるモロッコ軍の装甲車。録音したものを翻訳して流した。

 「なにが休暇だ。火種を作りに来ただけだろうが!!」

 トゥルグとボンゴは目を吊り上げる。

 「うそつき戦車。本当はスレイグに偵察するように言われたんじゃないの」

 怪しむアナベル。

 米国のスレイグ大統領の前職は不動産業と違法なハンターだというのは知っている。魔術師の修行に耐えられなかった彼は違法な発掘ハンターになり、協会から破門された。彼がハンターになった原因はたぶんダーラムの一族がからんでいるにちがいない。

 「黙れよ。ガキが」

 シャアアア・・・

 ラルゴとロルフは威嚇音を出した。

 ラルゴは砲塔を他の装甲車に向けた。しかし武器システムに接続できなかった。

 「撃てないだろ?あの爆発にまぎれて制御装置をくっつけた」

 自慢げに言うセネガル軍のラーテル装甲車。

 「気がつかなかった?」

 オランダ軍のボクサー装甲車が女性の声で聞いた。

 「装甲が分厚くてわからなかった?」

 南アフリカ軍のルーイカット装甲車がうれしそうに聞いた。

 ラルゴは六対の鎖の先端を義手に変えて車体を触る。すると六個の円盤がくっついる。それをつかみ引っ張るが力が入らない。

 ヘブライ語で悪態をつくロルフ。彼女にも同様の装置が六個ついている。

 「俺達をバラバラにしたら米軍やイスラエル軍が黙ってないぞ」

 声を荒げるラルゴ。

 「分解する気はないね」

 言い捨てるボツワナ軍のラーテル装甲車。

 「問題がややこしくなるからね。ここに放置して行く。そうすれば米軍やイスラエル軍が回収に来るだろうから」

 カメルーン軍のラーテル装甲車が言う。

 「睡眠の呪文なんかかからないわ」

 ロルフがヘブライ語でののしる。

 「魔術を使わなくても簡単よ」

 オランダ軍の装甲車は接近すると車内から薬ビンを出して二両の戦車の排気口に液体を注ぎ込んだ。

 「甘~い」

 ラルゴは匂いをかいだ。

 「やられた・・・」

 ロルフは舌打ちした。

 やがて二両の戦車は強い眠気に襲われて寝息をたてた。



 三十分後。遺跡の森

 元のミュータントに戻る九両の戦闘車両。

 「・・・助けてくれてありがとう」

 アナベルは口を開いた。

 「ご無事でなによりです」

 フランス人将校が笑みを浮かべる。

 「パンサーアイの召集があったから来た」

 オランダ人将校がわりこむ。

 「僕はホセ・レーシェル。彼女はカーヴァー・スティルピッッ」

 フランス人将校が名乗る。

 「僕はジャウラー。軍隊に入ったけどタンザニアの部族の呪術師でもある。」

 タンザニア人将校が名乗る。

 「僕はトゥプラナ。カメルーンから来ている。隣りがゾル。セネガル軍から派遣されている。隣りがアパム。彼らが南アフリカ軍から派遣されているラグとぺデル。戦車と融合している」

 カメルーン人将校が紹介した。

 「丁度一個小隊がつくれる」

 ポンと手をたたくトゥグル。

 「集まったからそれは可能だ。戦闘機のミュータントと組めばリベルタ兵を追い払う事は可能になる」

 ホセがうなづく。

 「あの戦車はどうするの?」

 アナベルがスヤスヤ寝息をたてているエイブラム戦車とメルカバ戦車を指さす。

 「調合が正しければ二十四時間は寝ている」

 ゾルが答えた。

 「それはよかった」

 海江田が口をはさむ。

 「あの戦車が協力してくれればいいのですがそれは無理そうですね」

 フラムはタブレットPCでエイブラム戦車の詳細を出した。

 M1エイブラムスは、アメリカが単独で開発し、一九八〇年に正式採用された戦後第三世代主力戦車である。アメリカ陸軍およびアメリカ海兵隊が採用している。まず一番の特徴がエンジン。多くの国では、戦車のエンジンはディーゼルエンジンを採用していますが、M1エイブラムスはガスタービンエンジンを動力としている。

ディーゼルエンジンに比べ、高回転型のエンジンで、減速機を通すことで優れた瞬発力を発揮できる。また燃料の許容範囲が広く、戦地で調達する燃料を選ばなくても良いところも優れた点である。半面、非常に燃費が悪く、リッター0・四キロしか走れない。しかも、ガスタービンエンジンは起動しているだけで燃料を大量に消費し、戦車が停止している状態でも一時間に四五リットルもの燃料を消費する。よってM1エイブラムスの燃料タンクは約一九〇〇リットルと巨大である。ちなみに自衛隊が誇る最新の10式戦車の燃料タンクは約八八〇リットルなのでM1エイブラムスの燃料タンクの巨大さがわかりますね。

この燃費の悪さから、アメリカ軍は補給部隊も大規模なものになっている最新のM1エイブラムスの装甲は、対タングステン/劣化ウラン弾芯APFSDS対応の劣化ウランプレートを装備しており、ちょっとやそっとのことではこの装甲を破ることは出来ない。

 メルカバは、イスラエルが開発した第三および第三・五世代主力戦車のシリーズである。イスラエル国防軍で運用され、イスラエルの特殊な事情を色濃く反映した設計となっている。メルカバの名称は、ヘブライ語で騎馬戦車を意味する語であり、『旧約聖書』の『エゼキエル書』に登場する「神の戦車」を意味するメルカバーに由来する。

 「あらゆる意味で協力者はほしい。でもラルゴはフレイと関係が深い。目的の物があったらここを出た方がいい」

 カーヴァーはチラッと見ながら言う。

 「遺跡へ行くよ」

 アナベルがわりこむ。彼女はセネガルの遺跡で見つけた琥珀玉を見ながら進む。

 しばらく行くと建物の土台部分と祭壇が残っている遺跡があった。

 アナベルは祭壇の穴に歯車を差し込んで歯車を回した。重々しい音をたてて床から出入口が現われた。

 驚きの声を上げるホセ達。

 アナベルは階段を降りていく。しばらく行くと三十畳もの広さの大伽藍に出た。

 王家の鍵を近づけるアナベル。正面の壁に文字が浮かび上がる。

 「ここはなんだ?」

 ジャウラーが周囲を見回す。

 「ここは私達の一族がダーラムの一族と一緒に住んでいた。方針や政策の違いから別れた場所よ」

 重い口を開くアナベル。

 でも千年以前はどこにいたのかがここには書かれていない。

 祭壇に近づいてアナベルは王家の鍵を差し込んだ。蓋が開いて電話帳のように分厚い本が現われた。分厚い本の表紙は金属製である。

 「表紙が金属製は初めてみた」

 ジャウラーやゾルが声をそろえる。

 本を開くアナベル。しかしページは真っ白で後半のページと後ろの表紙がない。

 「空っぽ?」

 カルルと海江田が首をかしげる。

 「たぶん後半のページと後ろの表紙があれば一冊の本になるかもしれない」

 トゥプラナが推測する。

 「たぶんダーラムが持っていると思う」

 アナベルが核心にせまる。

 「じゃあセントラルプライムを占領しているダーラムを捕まえれば解決だな」

 エンリコが言った。

 

 

 

 

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