第6話

 街中はたくさんの人が行きかってる。

 背の高い人低い人。

 太っている人痩せている人。

 褐色の肌、白い肌、緑色の肌、灰色の肌、そして毛で覆われた肌。

 男女大人子供。

 みな足早でしかし急いでいる風ではなく、豊かなリズムを感じる足音。

 活気と言うものを音楽にするならば、きっとこんな旋律になるのかもしれない。

 そんなことを可彦は感じていた。

 

 ちなみに屋敷から出るのは容易だった。

 さすがに門番に声をかけられはしたが、街に行くことを告げるとすんなり通してもらえた。

 ただ晩餐を用意しているので夕刻の鐘が鳴ったら戻ってきてほしいということだった。

 門番にそんなことを言われるところを見ると、屋敷の外に出ていくことは予想していたのかもしれない。 

 

 古着屋で適当な服を見繕ってから風呂屋へと向かう。途中バルゥは鎧と兜を甲冑職人に預けていた。

「……何ヲ見テイル」

「や、なんでもなよ」

 目をそらした可彦に別のものが映る。

「あ、ほらバルゥ! これ買ってあげるよ」

 そうって可彦が手に取ったのは小間物屋の店先に並んだ櫛だった。

「何ニ使ウンダソンナモノ?」

「綺麗な金髪なんだから、ちゃんと手入れしたらいいと思うんだ」

 バルゥの赤く丸い目が可彦を見上げる。真っ直ぐと見上げていた瞳が徐々に細かく揺れ始める。

「何ヲ突然!」

「いや、この前オアシスで見たときから思ってたんだよ」

「……イラナイ!」

 バルゥは言い放つとひとりで歩き出す。

「迷子になるよ!」

「ナラナイ!」

「私も買ってもらおうかしら」

 ミランダも櫛を手に取る。

「すぐ痛むのよね」

「……変なこと聞いていい?」

「なぁに?」

「やっぱり全身梳くの?」

「そうよ。だから大変なの」

「そうなんだ」

「特に背中はたいへん」

「あーそうだよね」

「だから今度、あなたがやってね」

「うん……うん?」

 ミランダは手に持っていた櫛を可彦に渡すと先に進むバルゥを呼び止めながら歩み去る。

「可彦はたらしですね」

「言ってる意味が分からないよ」

 可彦はそういいながらも櫛を手に取り革袋から硬貨を出す。革袋の中身はタラールからもらった褒賞の一部、屋敷を出る前に分けた可彦の取り分だ。その中から櫛の代金を支払うと、買った櫛の中の一本をネフリティスに渡した。

「これは?」

「ネフリティスのだよ」

「……やっぱりたらしです」

「だから意味が分からないって」

 笑うネフリティスに可彦は顔をしかめながら、ネフリティスと共に先に進むふたりの後を追った。

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