第10話

「ちょっとよろしいですか?」

 その日の夜中、そういって可彦の休む部屋に入ってきたのはネフリティスだった。

「なに?」

 可彦はベッドから身を起こす。布団はかかっていなかったところを見ると、寝転がっていただけの様だった。

「本当に大丈夫なんですか?」

「なにが?」

「明日のことです」

 ネフリティスは可彦のわきに座ると可彦を脇から見つめる。 

「本当に大丈夫なんですか?」

 ゆっくりと繰り返すネフリティス。

「う……ん……」

 小さく返事をする可彦の手が自然と自分の首を撫でた。

「……やっぱりそこですか」

「……首を切り落とされるのは初めてだから……それに他は大丈夫でも首を切り落とされるのが弱点なんていうのも聞いたことあるし……」

 可彦はネフリティスに顔を向けて、もう一度首を撫でる。

「ちょっと怖いんだ」

「そうですか」

 そういってネフリティスは可彦に微笑みかけた。

「それを聞いて安心しました」

「え? なんで?」

「死ぬのが怖いということは、死にたくないということです」

 ネフリティスの優しい声。

「そう思えるようになったのは、ずいぶん前向きになってきた証拠ですよ」

「そうかな?」

「そうですよ」

 ネフリティスは笑いながらうなずいて言葉を付け加えた。

「大丈夫。ベクヒトは死にません」

「そうだよね。死ねないよね」

「そうじゃありません」

 ナフリティスは可彦の言葉を訂正した。

「死ねない、じゃなくて、死なない、です」

 そして再び微笑んで見せた。

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