第2話

アルタリアは可彦の前を静かに歩くとアーチ状の大きな両開きの扉の前に立ち、手をかざす。音もなく開いたそれは見るからに重厚で人の手では開閉が困難に見えた。だからおそらく魔法で開閉するものなのだろう。

 ただあまりにも堅牢に作られた扉に可彦は少し違和感を感じた。

 アルタリアは一度振り返ると再び微笑む。それから静かに歩きはじめる。可彦もそれについていく。背後で扉が閉まる。音は無く、ただ小さな風の動きでそれを感じた。

 広間を出た通路も白を基調にした荘厳な造り。その中を二人は進んでいく。

「どこに行くの?」

「王城にてアミスコート王国国王、シャルル・クル・アミスコート陛下に拝謁頂きます」

「なんで僕を呼んだの?」

「国王陛下が直々にお伝えいたします」

 長い通路の先に再びアーチ状の扉。再びそれが音もなく開くと大聖堂の中とは異なる明るい光が飛び込んできた。

 大聖堂の中の光が澄み切ったどこか冷やかにも感じる光なのに対し、扉の外の光は自然で暖かなものに感じる。促されるままに扉をくぐるとまず目に飛び込んできたのは青い空。そして白と緑の庭園。庭園には噴水があり、水路で四方に水が流れている。

 庭園の中、石畳の小道を進んでいく。裸足にもかかわらず足の裏に伝わる感触はなめらかで少しも痛くない。

 ほどなくして遠くに家々の屋根が見え始める。その様子からここが町から少し離れた小高い丘の上であることが分かる。

 そしてその町の中心にそびえ立つ城。いくつもの尖塔をもつ大きな城だ。ただお伽話に登場するような煌びやかな城ではなく、重厚で堅牢、そして荘厳さを併せ持つような威風堂々とした印象を受ける。

「あれが王城?」

「そうです」

「歩いていくの? 結構遠くにあるように見えるけど」

 振り返ったアルタリアが笑う。その笑顔はすこし暖かく見えた。大聖堂の中とは違う自然な光のせいかもしれない。

「馬車を待たせています」

「なんでお城からこんなに離れているの?」

「『連なりの樹環』はそれ自体に善悪を判断する力はありません」

 もう一度笑うアルタリア。しかしその笑みは少し翳って見えた。空に浮かんだ小さな雲のせいではないだろう。

 つまり『連なりの樹環』からは、望まないものが出てくる可能性もあるということなのだ。だからその広間は重厚な扉で守られ、王城や町から離れた場所に置かれている。そう考えればすべて納得がいく。

 アルタリアは可彦の表情を見て小さく頷いた。そして再び前を歩きだす。

 小道の先に二頭立ての馬車と、護衛らしき槍を掲げた兵士が数名見えた。

「さぁ、どうぞ」

 可彦は御者が開けたドアをくぐり、馬車の中に腰を掛ける。対面にアルタリアが座る。心地よいベルベットの肌触り。小さな衝撃と共に座席の中に身体が沈む。馬車はゆっくりと王城に向けて進み始めた。

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