who am l ?

◆ ◆ ◆


 ――……。


 ――……ねぇ。


 誰かが私に話し掛ける。私はその声に反応して、目を覚ます。だけど、そこには誰もいない。私は今まで寝ていたのか、その前は何をしていたんだっけ、忘れてしまっている。


 辺りは草木が生い茂っていて、森の中にいるようだった。日が暖かい。ここだけは木が切り倒されて、陽が差し込んでいる。ここに大きな大きな木があったのだろう。私は大きな切り株の上に乾草をふかふかに敷いたところに寝ていたようだった。


 ――ねぇ、アリス。


 誰かが私に話し掛ける。360度どこを振り向いても声の主は見当たらない。


「どこにいるの」


 私は虚空に話し掛ける。できるだけ大きな声で、聞こえるように。


 ――そとを見渡してもぼくはいないよ、ぼくはきみの中にいるんだ。


 それを聞いても意味がわからなかった。考え込んでいると、得体のしれない光の球が、乾草の中から現れる。それは私の周りを回っていた。私が手で受け皿を作ると、光の球はそこにすっぽりと収まった。


「あなたが話し掛けているの?」


 光の球は否定するように、フルフルと横に振動させる。


 ――ちがうよ、それは、ぼくだけど、ぼくじゃないんだ。


「どういうことなの」


 ――ぼくは、きみの中にいて、いずれ、それになるんだよ。


 誰かが、私の中にいるなんて、気持ち悪い。そう思った。あの男の子と、気がついたら一緒に海を眺めていたときのような、そんな感覚。そうだ、とここで私は気が付く。私は蛍を見ていて、それで……。


「ねぇ、ここはどこなの? さっきまで夜だったわ」


 ――ここは、きみの心そのもの。きみは、夢を見ているんだ。


 私はそれに納得できなかった。ここは、私の予想できないことが、次々と起こりそうな気がしたから。自分の心の中ならば、自分の思い通りになるだろう、そう思うから。

 気味悪くなって、早くここから出ていきたいと思った。出口はどこにあるのかわからないけど、ここから出ないと、永遠に目が覚めないと思った。


「ねぇ、どうしたらここから出られるの」


 ――フフフ、面白い質問だね。 知っているとも。 でも簡単には教えてあげない。 そこにいるボクと遊んでくれたら、教えてあげる。


 ボク、と呼ばれた光の球は、今度はうなずくように縦に振動する。


「いいわよ、私、これでもおねーさんって呼ばれているんだから。 遊び相手になってあげるわ」


 ――じゃあ、鬼ごっこだ! きみがオニで、ボクが逃げる。 さぁ、つかまえて!


 その掛け声とともに、ボクは私の手から離れていく。そして、森の奥へと消える。私はボクの方へ駆け出す。先の見えない森の奥は不思議と少しも怖くなかった。


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