第20話
C県のニュースの後、課長に連れられ別室に入った矢口は一番入り口に近いテーブルに座らされた。
「大変な事になったな」
会議机を挟んで遠くにずらりと部長達が座っている。地域活性推進課の部長が口火を切った。
「C県のやり方は得策とは言えないが、我々も思い切った方法を取らないと少子化対策に乗り遅れる危険がある。そこで――」
いきなり何が始まるのか。思わず身を硬くした矢口のそばへ課長は歩み寄り、彼の肩をぽんぽんと叩いた。
まあまあ、矢口君には急な話ですから、と課長が重い雰囲気をまとわりつかせている上司達をとりなし、くるりと矢口の方を向いた。
「前々から概要は説明させてもらっていたけれどね。矢口君、おめでとう。我々は満場一致で、正式に君を選んだよ。君は、念願の君の子供が持てるんだ」
委任状は後日正式に渡すよと言いながら課長は別のテーブルに置いてあった分厚い冊子を静かに矢口の前に置く。矢口の瞳が驚愕で見開かれた。
少子化対策と時を同じくして男性妊娠法が施行されて十年。女性から健康な子宮を男性へ移植し体外受精で男性も妊娠、帝王切開で出産が可能になった。いくら子供を増やす為とは言え、最初はイロモノ扱いで見られていた方法は、とある愛妻家の男性が身体が病弱で産めない伴侶の代わりに妊娠、出産したニュースで一気に美徳に祭り上げられた。お涙頂戴の感動話は時にたやすく倫理をねじ曲げる。その後加速する少子化も相まって世論の支持を一気に獲得し、妊娠する男性はヒーロー扱いされるまでになった。移植される子宮の多くは発展途上国の女性から買っているのだが、子宮の入手やそれにかかる費用、入院、手術代も国で請け負うため金銭的負担は少ない。ただ、いくら医療技術が進歩したとは言え、移植には多くの危険を伴う。結果、妊娠する男性はまだ少数派だった。
なぜ俺なんだ。
矢口は背中を流れる冷や汗を感じながら絶望の淵に立っていた。
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