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O3

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 暑くもなければ寒くもない。かといってすごしやすいわけでもない。なんというか、微妙なのだ。


この辺の気候はちょうどいい気温になったためしがない。


 そう思いながら少女はプチトマトに水をやっている。昨日可愛らしい黄色い花が二、三個咲いた。もうすぐこの花がしぼんで、赤い実をつけるだろう。

 このプチトマトのおかげでけっこう食費を節約できている。


 少女にとってはまあ、そんなこと説明してもどうでもいいことだったが。


 今夜の夕飯はなんにしようか久しぶりに姉が遊びに来てくれることだし姉が好きなパスタでも作ろうか。


 そう考えながら彼女はトマトのプランターの前から立ちあがり、乱雑にものか置かれている部屋を突っ切り台所へと向かった。狭い台所の中でひっそりと置いてある普段乾物が入っている棚を開けた。


 が、


「あれ……ない…」


 この前特売で十束ほど買った乾燥パスタが一束ものこってなかった。

 よく考えればこの頃朝昼晩ずっとパスタ三昧だった。パスタはどんなものにも合うし、あっというまに即席料理のかんせいである。

 この前適当に作ったキャベツとツナのパスタがわりと美味しかった。


 どうしよう。


 パスタを変更して別の物を作ろうか…そう考え今度は冷蔵庫を開けてみた。


 が、これまた凄惨なことになった。


「……マジかよ……」


 冷蔵庫を開けてみたのまでは良かった。


 しかし何も入ってなかった。


 本当に何も入ってない。すかすかという言葉はこういう時に使うのだろう、ということが痛いほどわかるほどすかすかである。


 代わりに空いているスペースに自分が入れそうだった。唯一はいってた醤油が申し訳ない程度に存在感を放っている。その醤油も残りは僅かである。


「私に買い物行けと言わんばかりに何も入ってないな………」


 少女はボサボサとした、起きてから何も梳かしていない長い髪を手でわさわさと梳かした。ところどころ指に引っかかって頭皮を引っ張る。


 仕方ない。


 行くしか選択肢はないだろう。醤油でなにか作れといっても材料がなければ無理だ。


 醤油を飲んで腹を満たすか?


 どう考えても結果は見えている。しかも客人のぶんはいったいどうするのだ。


 私は壁掛け式の時計をちらっと見た。時間はちょうど昼過ぎといったところだった。


 姉が来るまでには帰ってこれるだろうか。まあ、いざとなれば合鍵で入ってくれるだろう。


 少女は立ちあがりその辺に脱ぎ散らしてあった黒のパーカーに袖を通して、財布とタッチパネル式の携帯を、ズボンの狭いポケットにぐいぐいとねじ込み、その場に置いてあったヘアゴムで長くくすんだ黒髪をひとつにまとめた。


 そして玄関へと向かい、立て付けの悪いドアを蹴っ飛ばして開けた。

 このドアを蹴っ飛ばして開けるのはいい加減やめたほうがいいだろう。日に日にドアの開くスピードが速くなってるような気がする。しかもギシギシと変な音もする。


 今度はさすがにドアを蹴らず丁重にドアノブを使って締めた。


 ドアの鍵をかけアパートの錆びきった階段をかけ下り人気のない通りを彼女……アギリは歩いていった。

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