壱ノ章

壱ノ壱 源八郎為朝(一)

 さんさんと降り注ぐ光に磨かれた海を眺めることのできる大木。


 潮風を浴びる長い髪は無造作になびかせながら、一人の男が大木の太い幹の上に腰かけていた。


 狩衣姿の大きな体躯をした彼の顔立ちは、ようやく元服を終えたばかりの童。無邪気な瞳は地平線の彼方を見ている。


 この広大な海の向こう側にはなにがあるのだろうか。未知なるものがあるに違いない。もしかしたならば、この世とは異なる世界が広がっているかもしれない。

 そう思うと、心が弾む。


「ああ、つまらぬ」


 男がつぶやくと、それに呼応したように枝の上に留まっていた鳥が飛び立つ。男は頬杖を突き、青い空へと飛び立っていく鳥を見上げていた。


「なにか面白いことはないものか……」



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