第45話匂う宮4

「昔のよしみで今も変わらぬあなた様のご厚意、


誠にありがとうございます。もしよろしければ


直々にお会いして御礼申し上げたく存じます」





薫の君は胸躍らせて何度も何度も繰り返し


中の君からのお手紙を読まれて、





「お手紙拝見いたしました。昔のよしみなどと


水臭いことはおっしゃらずに。詳しいことは


万事参上いたしました上で。あなかしこ」





と生真面目にお返事なさいました。


さて次の日の夕方、いつもよりは念入りに身づくろい


をされて薫の君は中の君を訪れになりました。





中の君はすぐに御簾の中へお招きになります。


「これはこれは」


その喜びを顔には出さず薫の君は静かに中には入られます。


中の君は一番奥に控えておられます。





「先日は父宮の法要でずいぶんお世話になりました。


心から感謝いたしております」


深々と礼をなさいますが声が小さく聞こえません。





「は?よく聞こえませぬが、もっと前へお出ましを」


薫の君は胸の高まりを抑えきれません。





「何とかして宇治に帰れぬものでしょうか?」


か細い声で中の君は何度もお頼みになります。





「そればかりは私の一存では出来かねます。


匂宮に相談されて許可が出れば段取りは


すべて私がしきらせてはいただきますが」





「ただごく内内に人目につかぬよう。なにも


匂宮のお許しなど大げさなことは・・・」





同じ言葉を薫の君は中の君の耳元でゆっくりと


やさしく囁ささやきながら半身はするりと


中の君寄り添い横になられてしまいました。

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