第4話

嫌な夢を見ていた気がする。


酷く落ち込んで納得した覚えはある。しかし、内容は思い出せない。

こんな時はいつだってどうでもいい内容なんだ。



私は目を開けるのが怖かった。

現実を受け入れるのが、嫌だった。


目をぎゅっと瞑り、そしてじわじわと目の周りの力を抜く。

すると、ろうそくに照らされた青年がぼんやりと視界に入った。


「あの…」


恐る恐る声をかけ、起き上がろうとする。


しかし頭が割れるような痛みを感じた。と同時に激しい違和感を感じた。


青年は、私に気を使って、「まだ痛いのかい?」と優しく言葉を告げ、背中をさする。


「ありがとうございます…もう、平気です」


私は青年の手を払うように退け、礼を述べた。

それに微笑んで頷く彼。


側から見たら好青年。だが私にとって、笑顔を簡単に作れる人間は信用出来なかった。何か計算しているのでは無いかと疑ってしまうから。私はその好意を信用するのが怖い。それならばいっそ、無愛想で本音をぼろぼろと零すような人間の方が楽でいい。



彼は横にあった水差しから水を汲み、私にコップを差し出した。


私はその手を追う。女の私よりも大きく、そして筋のあるすらっとした手。

その手から服へと目線を服へとやるなり、私は自身の目を疑った。


その服は奇妙で、よく見慣れないものだったから。


月明かりにろうそくの火。

そんな中だから、よく見えなかったのではない。


歴史を感じさせる和物の装いをしている。

頭には烏帽子。重ねた着物。そしてその袖元はかなり広くなっていた。



微かに奥の間から漂う香の匂い。


御簾の外から溢れて入ってくる月の光が部屋を照らす。



そんな光景が異常に優雅で、美しいと思えた。






ああそうか。

違和感の正体はこれだったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る