第13話 魔王さまとレベルの説明


 午後になると、戦術を担当している男教師――ベーチェロ先生がやってきた。

 顔には無精ヒゲと斬られた傷跡がいくつもあり、いかにも歴戦の戦士といった風貌だ。


「いいか、レベルってのは絶対だ。金よりも兵士たちよりも役に立つ、『最強の数字』だ」


 べーチェロ先生は拳を握り、熱く語る。


「この学校で最強の数字を持つのは、お前らがよく知るパティー先生だ。『上級職』の『精霊と対話する者(メディアニズモ)』であり、レベルはなんと……28だ!」


 驚愕の数字を聞き、生徒たちは驚きと歓声を上げる。

 だが同時に、「あと一歩!」という惜しむ声も多かった。


「その通りだ。パティー先生は、最も勇者に近い先生でもある。さすがパティー先生だとは思わないか?」


 鼻を膨らませ、べーチェロ先生は緩んだ顔で褒めたたえる。

 パティー先生に対してどういった感情を持っているのかは、言うまでもなかった。


「そして俺は、その次に高レベルで、大台の20もある。この学校では、俺とパティー先生がトップ2、というワケだな」


 べーチェロ先生は胸を張り、誇らしげに語った。

 更に先生は、レベルと職業について補足する。


 職業は四段階に大きく分けられている。

 レベル10以下は『下級職』。

 レベル10以上が『中級職』。

 レベル20以上になると『上級職』になる。

 そしてレベル30以上になれば、晴れて憧れの『勇者』を名乗る事が出来るのだという。


「いいか、レベルは人間にも魔族にも、モンスターにも存在している。図書館にある図鑑には、モンスターの平均レベルも載っている本があるそうだ。相手のレベルを覚えておけば、まぁ死なずには済むだろうよ」


 ワッハッハ、と先生の笑い声が響き渡る。

 ジョークに聞こえなかった生徒たちは、クスリともしなかった。


「……ということで、一番気をつけるのは相手とのレベル差だ。特にお前らの場合は、1つ違うだけでも戦いは避けた方が無難だろう。それとな、レベルは足し算じゃない、ってことだけは頭に叩き込んでおけ!」


 直接頭に叩き込むような勢いで黒板を叩く。


「例えば、俺のレベルは20だ。しかし、レベル10のヤツが二人集まったとしても、俺には勝てない。なぜなら、その程度のレベルじゃ俺の一撃にすら耐えられないからだ。同じように、レベル1のお前らが二十人集まったとしても、絶対に俺には勝てない。分かるか? 量より質だ。人数よりレベルだ。俺みたいな顔になりたくないなら、絶対にそれを守れ! いいな!?」


 べーチェロ先生の熱い言葉に、生徒たちは自然と「はい!」と大きな声で返事をしていた。

 本気で教えていることを肌で感じ取ったからだ。

 その生き残る術は正しいと思ったからだ。


 ただ一人を除いて。


「それは……果たしてどうでしょうか?」


 異議を唱えたのは、ストラだった。

 おおむねは賛同するが、自分の意見とは決定的に異なっている部分がある。


「お、おい、ストラ。バカお前、止めろって……!」


 コンパンは小声で止めようとするが、既にべーチェロ先生の耳に届いていた。


「何だ、お前は? ……いや、その銀髪、お前があのストラか。じゃあお前は、自分が二十人居れば俺を倒せる、って言いたいんだな? それでは、レベルマイナス20になると思うがな」


 他の先生から聞いたのか、べーチェロ先生は皮肉った口調で言った。

 戦場で培った経験論を否定されたのだ。

 気にくわないのは当然だろう。


「いいえ、勝てません」


 ストラはキッパリと答えた。

 おかしな言動に、あちこちからクスクスと笑い声が聞こえる。


 勝負にレベルは関係ない。

 だが、殺し合いならば、どう足掻いても圧倒的なレベル差を埋めることは出来ないだろう。


「ですが、条件と戦略次第では、引き分けにする事が出来ます」


 一対一なら、の話だが。


 ざわめく教室。

 べーチェロ先生は鼻で笑いながら、黒板を指先でコンコンと叩く。


「じゃあ、前に出て先生に教えてくれ。レベル20の俺を、合計レベルマイナス20のお前たちがどうやって倒すのか?」

「分かりました。では、お教え致しましょう。……最弱が、最強を倒す方法を」

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