第3回 英語で考えてみる

 基本的な技術の説明をしたので、少し上級者向けのテクニックを紹介します。


 ズバリ「英語で考える」です。難しそうに感じる人も多いかもしれませんが、中学生レベルの基礎英語がある程度身についていれば誰でもできます。


 第二回では「過程の過程を考える」ことについて言及しましたが、それを考える時に大きく貢献してくれるのが、何を隠そう英語の疑問詞なのです。


 単独で扱う基本的な英語の疑問詞は


・what…何が

・who…誰が

・which…どちらが

・whose…誰の

・where…どこに

・why…何故

・when…いつ

・how…どうやって


の八つです。この八つを使って物語の大筋に自分で突っ込みを入れていくと、すいすいと文章やストーリーが創れます。


 例えば「ホットケーキを食べた」という文を一つのストーリーにしようと思えば、


・who…私が

・why…お腹が空いていたので

・how…ホットケーキを焼いて

・where…食堂で

・when…午後三時


という風に適切な疑問詞をチョイスして自問自答すると、「午後三時。私はお腹が空いていたので、ホットケーキを焼いて食堂で食べた」と言った感じの文にすることができます。これで、いつどこで誰が何をしていたのか、一目でしっかりと分かる文になりました。


 こんな感じで「じゃあ何でお腹空いてたの?」や「何で数あるお菓子の中でホットケーキを選んだの?」「家にはほかに誰かいたの?」などどんどん突っ込みを入れて行けば自然と厚みのあるストーリーになっていきます。大筋が決まっていることが前提ですけどね。


 英語の最大の強みは「主語と述語の関係がはっきりしている」ということです。誰が何をしたかがきっちりと分かる言語なので、英文を読むときに「これやってるの誰?」とは中々なりません。しかし日本語の小説ですと、誰が何をやっているのか今一つよく分からない……というのが往々にしてあるのです。文を分かり易くする為に、この「主述の関係をはっきりさせる」を輸入しない手はありません。


 他にも「いつ」「どこで」「誰と」「どんな風に」のような状況の描写も非常にはっきりしているので、得意な方は一度、ざっとしたものでいいので英文に訳して考えてみると分かりやすい文が書けるようになると思います。


 誰が何をしたかがはっきりと書いてあると、読者も余計なことを考えずに物語の世界へ浸ることができます。


 日本語の美点は物事をはっきりと描かずに多様な言葉でぼかすところにありますが、同時にそれは欠点でもあります。言い方を変えれば曖昧ですからね。


 曖昧な表現は時として読者をもやもやさせます。なので意図的にぼかしたいところ以外は、主語と述語やその関係などをはっきりと書くことが大切です。


 ぼかす場所としては、出だしが一番良い例です。


 例えはひどいですが「私を捨てて他の女のところへ行ったあなたを、私はいつか酷い目に遭わせたいと思っていた」という文が序文にあったとします。文そのものに特に指摘すべきところは無いと思いますが、この文を最初に配置してしまうと意味が違ってきます。一文にはっきりと書きすぎている為に「この先はどうなっているんだろう」という読者の楽しみを削いでしまうのです。


 なのでこの場合、「いつか酷い目に遭わせたい、そう思っていた」で始まれば、読者は「誰を酷い目に遭わせたいんだろう」「何故そう思っているんだろう」と物語を追わずにはいられなくなります。「who」「why」などに当たる部分はその後に少しずつ小出しにして語れば、書いた部分全てを読者にことができます。焦らしと言っていいかもしれませんが。


 文章を書く時には伝えたいところと読ませたいところをしっかりと分けて、使い分けることが大事です。設定や動きなどは伝えたいところ、人物の心理描写や背景などは読ませたいところで分けると書きやすいです。要は分かり易くなればいいんです。


 また、英語の長文問題を解いたことのある人なら分かると思いますが、英語における段落パタグラフは文全体において重要な意味を持っています。しかし源氏物語の写本を見れば分かる様に、昔の日本には段落という概念は存在しませんでした。


 明治以降の西洋化で段落の文化が入ってきて、「何かよく分かんないけど西洋の人間が使っているなら俺達も使ってみようぜ」くらいのノリで使い始めたので、日本における段落の使い方は随分といい加減です。殆ど句点ごとに改行してある様な、ページの下の方が真白い書籍も何冊か目にしたことがあります。そういう本はある意味では見やすいですし、絶対的に悪いとは言いませんが、やはりある程度のまとまりごとに改行した方が話の流れが掴みやすいです。


 学生の方なら現代文の教科書を、それ以外の方は新聞を読んでみると、どの位のペースで改行すればいいか分かり易いと思います。


 しかしこれはどちらかと言えば新人賞など、商業用に近い小説を書くときの段落分けです。概ね縦書きで構成されている書籍では字が詰まっていても読めますが、横書きがメインのネット投稿では字が詰まりすぎていると見づらいです。なので段落は二~三文ごとに区切っていくと読みやすいです。今この作品でしている様に、段落ごとに間隔を空けるのも良いかもしれません。


 私が以前小説家になろうで活動していた頃、字が詰まりすぎて読みにくい、読みにくいから飛ばし飛ばしで読んだと指摘や感想を受けたことがありました。これが私が口を酸っぱくして「読みやすくするように」と言っている理由です。いくら設定を練って工夫して書き込んでも、読みづらいとそもそも読んでくれないのです。


 段落を分けるのも、間隔を空けるのも、何も難しいことではありません。しかしこのちょっとした「読みやすくする工夫」を怠ると、折角の読者を手放してしまうのです。第二回で書いた文のリズムも、この工夫の一つです。


 分かっているとは思いますが、新人賞に出す作品はそこまで区切らなくて大丈夫ですからね。あまりに区切り過ぎると悪印象に繋がる恐れがあります。



 

 

 

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