7月

おはよう、朝顔さん!

「『おはよう、アヒルちゃん』

『おはよう、朝顔さん、美人さん♪ 』

『アヒルちゃんも、かわいいさん♪ 』」



「雨降ってるのに、なにしてるの、ミケちゃん」

 クマパンちゃんが不思議そうに、声をかけて来た。


「おはよう、クマパンちゃん」


「おはよう、ミケちゃん」


「あれっ? クマパンちゃん、それだけ?」


「それだけって、なにが?」

 クマパンちゃんが、キョトンとしている。


 あたしはクマパンちゃんの目の前で、これ見よがしにアヒルさんのジョウロを動かした。


「わっ! やめてよ、ミケちゃん! 水、かかっちゃう!」


「お水、入っていないわよ」


「だったら、なんで、アヒルのジョウロなんか持っているの?」


「朝顔さんに、ごあいさつしているの」


「えっ!? 雨なのに、朝顔にお水、あげてるの?!」


「ちがうったら! アヒルさんにお水が入っていないのに、どうやって朝顔さんにお水あげるのよ!」


「だったら、なんで、ジョウロなんか持ってるの、ミケちゃん」


「2回も同じ質問しないでよ。さっき、答えたでしょ。アヒルさんが朝顔さんにごあいさつしているのよ」


「?????」

 クマパンちゃんの頭の上に、クエスチョンマークがずらっと並んだ。


 あたしは、クマパンちゃんに、かんでふくめるように説明をした。

「あのね、クマパンちゃん。アヒルさんはね、毎朝お水をあげながら、きれいに咲いてくれるお花さんたちに、ごあいさつしているの。朝顔さんのお花は、朝咲いて、お昼にはしぼんじゃうでしょ。明日の朝咲くのは、別のお花なのよ。だから、雨が降っても、今日のお花さんたちに、ごあいさつしておかないと、明日にはできなくなるの。わかった?」


「うん、わかった。だったら、ぼくも今日の朝顔さんのお花に、ごあいさつしてお礼を言おう。おはよう、朝顔さん! 雨なのにきれいに咲いてくれて、ありがとう!」


「それだけ?」


「あれ、ミケちゃんだって、ぼくに2回も同じこときいているよ」


 それは、クマパンちゃんがちっとも気が付いてくれないからでしょ!

 あたしは、これ見よがしにまた、アヒルさんのジョウロを動かした。今度は、さすがに、クマパンちゃんも「水、かかっちゃう」とは言わなかった。


「あっ、そうか! 朝顔さんにあいさつしたら、アヒルさんにも朝のあいさつをしなきゃいけないんだった!」


 やっと、気が付いたのね、クマパンちゃん。やれやれ。


「おはよう、アヒルのジョウロさん。雨降りだから、朝顔さんにお水あげられなくて残念だね」


「『おはよう、クマパンちゃん。雨の日は、お空が朝顔さんにお水をあげてくれるからね。でも、ごあいさつはしないと、明日には今日のお花には会えないからね』

『おはよう、クマパンちゃん。わたし、朝顔。アヒルちゃん、種や苗の頃から、いつもお水をくれているの。わたしたちもきれいに咲いているところを、アヒルちゃんに見てもらえてうれしいわ』」


「……」


「なによ、どうしたのよ、クマパンちゃん」


「ミケちゃん、だいじょうぶ? さっきも、今みたいにひとりでしゃべってたでしょ?」

 そう言って、クマパンちゃんたら、あたしの猫の額に手を当てた。

「お熱は、ないみたいだよね、ミケちゃん?」


「失礼ね、クマパンちゃん! あたし、おしゃべりが苦手な朝顔さんとアヒルさんの気持ちになって、代わりに言ってあげてるのよ!」


「なんだ、そうか。ミケちゃん、おしゃべり、得意だものねぇ〜」


 その言い方、なんか引っかかるけれど、まあ、いいや。

「そうよ。毎年、毎年、夏の朝に、きれいにお花を咲かせてくれる朝顔さんなんだもの」


「そうだよね。ミケちゃんも毎年、アヒルのジョウロで、朝顔さんにお水あげてるよね—— あっ!!!」


 クマパンちゃんが、いきなり大きな声を出すから、あたし、びっくりして、アヒルさん、落としそうになっちゃった。




 三毛猫 ミケ




***




 クマパンちゃんは、どうして、いきなり「あっ!」と叫んだのでしょうか?

 実は、朝顔さんのお花には、子猫時代のミケちゃんの大切な思い出が隠されているのです。

 

 そのお話はここでは長くなるので、『絵日記ミケちゃん』からは独立させて、7月の終わりくらいに別のお話にしようと思います。


 ミケちゃんと朝顔さんたちの思い出を知りたい読者さんがいたら、それまで楽しみに待っていてくださいね!

 

水玉猫

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