お年始迷子のウリ坊ちゃんの名前はウリン。大きくなって天まで届け願いといっしょに天まで届け 

 「ねぇ、ウリンちゃん。凧上げしようか。お正月だし」


 クマパンちゃんが、凧を二つとめのお道具を持って戻って来た。

 あら、逃げたんじゃなかったのね。

 でも、なんで、書き初めのお道具なの?


 凧のひとつには、大きく「亥」と書いてある。

 クマパンちゃん、亥の字の凧は、まずいんじゃないの?

 ウリンちゃんは、亥年いのししどしが気に入らなくて駄々をこねているんだもの。

 案の定、ウリンちゃんたら、亥の字の凧を一目見るなり、余計に大声で泣き出しちゃった。


 「やだぁぁぁぁぁぁぁ! や〜だや〜だぁぁぁぁぁぁぁ!」


 それなのに、クマパンちゃんたらニコニコしてるの。


 「ちょっと、ちょっと、クマパンちゃん、亥の字の凧なんか持って来て、なんでニコニコしてるのよ!」


 あたしがクマパンちゃんに詰め寄ると、クマパンちゃんはあたしの耳にヒソヒソ、ヒソヒソ。


 あっ、それいいかも知んない!


 あたしも、イノシシさんの耳にヒソヒソ、ヒソヒソ。


 クマパンちゃんは、あたしがイノシシさんにヒソヒソしている間に、新しい凧に、サラサラっと書き初めしたのよ。


 そしてね、亥の字の凧と二つ並べて、ウリンちゃんに見せたの。

 「ウリンちゃんは、この凧で凧上げしよう。ミケちゃんは、こっちのいのししの凧。どっちが高く上がるか競争だよ!」

 

 ウリンちゃんは、その凧を見るなり、ピタッと泣き止んだの。


 「凧上げ、するする〜」



 それでね。あたしたちは凧上げしに、みんなで野原に行ったの。

 もちろん、ウリンちゃんの凧の方が高く上がったわよ。

 だから、ウリンちゃんは、すっかり上機嫌。

 泣いたカラスがもう笑ったって、このことね。ウリンちゃんは、カラスじゃなくてイノシシなんだけど。


 それと、あたし、凧上げ得意なんだ。でもね、そこは、それなのよ。

 それに、実際、ウリンちゃんの凧は、とても、高く上がった。

 それこそ、天まで届くほど!


 えっ?

 クマパンちゃんは、ウリンちゃんの凧になんて書き初めしたのかって?

 「うりどし」って、書いたのよ。

 だからね、いのししより、うり坊のうりどしの方が高く上がったって、ウリンちゃんはすこぶるご機嫌さんになったわけ、うふふ。



 亥年生まれの皆さんの運気が、高く上がりますように!

 絵日記を見に来てくれる皆さんの運気が、高く上がりますように!

 もちろん、猫年みんなの運気もね!


 三毛猫ミケ

 



***




 凧あげは、昔の中国では、軍事目的や占いに使用されていました。

 日本には、平安時代の貴族社会に伝わり、戦国時代にはやはり軍事目的で使用されたりしました。

 戦火の消えた江戸時代になると男の子の誕生のお祝いや遊びとして、一般にも広がっていきます。願いごとを凧とともに上げて天に届けるということから、高く上がれば願いが叶うともいわれています。


 最近では街中で凧上げをする風景は、お正月に限らず、めっきり見かけなくなりました。

 凧上げをするには広い場所がないと危険ですし、他にも魅力的な遊びは色々ある上に、何よりきっと、子どもたちが塾や習い事に忙しいからかもしれませんね。


 心の中の青空にあげる凧は、願いといっしょに天まで届きますように!

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