地下鉄の国

槻木翔

委員会1

地下鉄管理委員会事務所最上階中央会議室 9:00 AM


「続きまして、地下鉄システム施設拡張セクションからの要望書を読み上げます。『地層にイレギュラーあり。現装備では期日内の完成は困難。工作機器の追加配備を求む』、反対意見等がございましたら挙手願います」

単調な進行役の声が静かな会議室に響く。

誰の手も上がらない。

「要望は可決されました」

進行役の男は誰かが手を挙げているかどうかを確かめてすらいない様子だった。

「続きまして、地下鉄システム警備セクションからの要望書を読み上げます。『警備装備の拡充と権限の強化を求む』、反対意見等がありましたら挙手願います」

当然、誰の手も上がらない。何人かは腕時計に目を落としている。

「要望は可決されました」

「続きまして、国立天文台からの誓願書です。『地下鉄システムの解析により、2週間後に流星群が観測できることが判明しました。つきましては該当日の地上観測の許可を要望します』、反対意見等がある方は挙手を願います」

この時、部屋の隅でモニターを見つめていた年老いた女性が会議が始まって以来初めての挙手をした。

「地下鉄システムの判断は『地上での観測は危険を伴うので許可できない』とのことです」

「それでは却下しましょう」

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