日常:迷走


 昨日の出来事を思い警戒しながら登校した戒理、しかし登校中も学校に付いてからも授業中も特に何も起こらず昼休みを迎える。

「んじゃ、ちょっとファナちゃんとこ言ってくる~」

「あ、おいちょっと待て……ってもういねーし」

 来歌を呼びとめ損ねた戒理、すると一人の少年が話しかけて来た。

「お? まさかとうとう薄野ちゃんに振られたのか?別の男が出来ちゃったかぁ」

「いや……出来たのは、女だな、うん」

「なるほどねぇ」

「というか、お前だってうまくいってないって自分で言ってたじゃねぇか」

 楽堂巧らくどうこう、戒理の友人で彼女持ちだが、その彼女とは最近上手くいってないらしい。

「ぐぬぬ、これは痛いところを突かれてしまった……だが気にしない! んで、その薄野ちゃんのお相手って誰よ?」

 立っていてもしょうがないので席へと座り、購買で買っておいたパン出しながら会話を続ける。

「お前なら知ってるかな、噂の転校生だよ」

「ああ!ファナ・シメールちゃんだな!」

「名前まで知ってんのかよ……」

「もちろんそういう話は逃さないZE☆」

「お前も耳が早いよな、俺の周りはこんなのばっかりか」

「いやいや、流石に薄野ちゃんの情報力と行動力には負けるわ、転校生の情報を掴むぐらいならまだしも、もうすでに攻略してるとはな、流石だぜ薄野ちゃんだぜ、わが心の師匠!」

「いつのまに師弟関係に……」

「そういや話変わるけどよ……」

「ん?」

「最近、高次層が酷く辛いんだが、頂がなんかやってんのか?」

 楽堂は声のトーンを少し下げて言う。楽堂は「味覚」で高次層を知覚出来るレイヤードだ。

「あー、いやちょっとな、でもまあなんとか、もうすぐ片付けるから安心してくれ」

「てことは結構ヤバいんだな? お前は外界落ちぐらい一瞬で片付けられるのに、それが出来ないってことはよ」

「それは……そうなんだが、正直、相手の素性も殆どわかんねーし、いや一人わかってるんだが、なかなか攻め込めないつうかどうしても受け身の状態になっちまって」

「そうか、俺も降戦者だったら良かったんだがな」

「いや、その気持ちだけでありがたいよ」

「まあ協力出来そうなことがあったら言ってくれ……っとそうだこれやるよ」

 楽堂は二枚の紙を戒理に渡す。

「遊園地のチケット?」

「ああ、実は俺も人からもらったんだが香里かおりのやつは基本乗り物が苦手だからな」

 香里というのは楽堂の彼女の事だ。

「そうか、でも俺は」

「いいから薄野ちゃん誘ってこいよ、いつも世話になってんだからよ」

「うーん。でもさっき話してたろ、今はこのあたりを見張ってないと……」

「だからこそ、さっさと解決したほうがいいぜ」

 そんなことを話していると来歌が教室へ戻ってくる。何気なく近くへ向かい話しかける。

「……大丈夫、だったか?」

「ああ戒理くん、大丈夫って、なにが?」

「いやなにもなかったならいいんだ、うん」

「なんにもなくないよ!ファナちゃんがアイドル好きだということが判明したからアイドル談義に花を咲かせていたんだよ!……ん? それなに?」

「あー……楽堂から貰ったんだ。遊園地のチケット」

「へえ! 行こうよ! あっそうだファナちゃんも誘おう!」

「いや二枚しかないぞ」

「それなら大丈夫、私この遊園地の年間パスポート持ってるから!」

 薄野の発言を受け戒理は考える。

(どうやらセカンドノアの狙いは、いまのところ俺みたいだし、このあたりに外界落ちを召喚していたのはファナだ。ファナを連れて行ってしまえばこの町は平気……のはず)

「……わかった、行こう、ただしちゃんとファナの奴を連れてきてくれ」

「お?戒理くんもしかしてファナちゃんのことが!?」

「お前が最初に誘おうって言ったんだろ、それにむしろ俺は嫌われてるみたいだしな、だけどちょっと話しておかなきゃいけないことがあるんだ」

「それって、レイヤードとか高次層とかに関わること?」

 不安そうな表情で戒理を見る薄野。

「まあ、な」

「……わかった、ちゃんと話してあげてね? ファナちゃんなんか悩んでるみたいだったし、それに関係あることなら尚更きちんと向き合ってあげて」

「ああ、わかった」

 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る、生徒は席に付き授業が始まる。

 そして迎えた日曜日、遊園地『明層グレイテストランド』入場ゲートの前。

 もうすでに来歌とファナが到着しており、そこに戒理が到着する。

「来たんだな、正直来ないもんだとと思ってたんだが」

 とりあえず、ファナとの確執や問題は後に回すことにする戒理、来歌の前ではあまり物騒な話はしたくはない、遊び終わってからでもいいだろうと戒理は考える。

「……そう、ですね、私も正直断ろうとしてたんですが」

「押し切った!」

 キラキラとした目で来歌が言いきった。

「なんかすまん」

「いえ、第一印象で察してましたから」

 どうやらファナもなにか仕掛けてくるような様子もない、あちらもとりあえず今回は任務とやらを遂行する気はないらしい。

(やはり、なにか迷ってるんじゃ……)

「さて、なにから乗る?ジェットコースター? メリーゴーランド? ジェットコースター? 観覧車? それとも……ジェットコースター!?」

 来歌の意気揚々とした声に思考を遮られ仕方なくツッコミを入れる戒理。

「素直にジェットコースター乗りたいって言えよ……」

「あたしは二人の意思を尊重しようとだね、ファナちゃんはジェットコースターは平気?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「んじゃ行こう」

 という訳でジェットコースターへ向かい従業員の指示に従い乗り込む三人。

 戒理は三人掛けのコースターの真ん中に座った。

 このコースターは高次力によって動いておりレールが無い。

 浮遊区画と同じく、物質とエネルギーの境界を操作することでそれを可能としている。

 この遊園地は全て高次力によって動いていおり、観覧者もゴンドラのみ、メリーゴーランドも馬と馬車が浮かんで動いている様に見えるという普通の遊園地と比べるとかなり異色なモノとなっている。

「いやー久々だわー、一週間ぶりくらい!」

「割と最近じゃねえか……」

「…………センパイ」

「ん? どうした?」

(セカンドノア関連の話だろうか?遊び終わった後にでも話そうとおもっていたんだが、さすがにコースターに乗りながらは……)

「私、実はジェットコースターって初めてで……降戦者になってるときは高速移動なんてへっちゃらなんですけど……」

「まさか、今更怖くなった、とか?」

「……はい」

「……頑張れ」

 その後、空中を縦横無尽に駆け巡る高次力コースターから哀れな少女の悲鳴が遊園地に響きわたった。

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