第6話夏休み

 無事に終業式の校歌の演奏も終え、夏休みに入った。吹奏楽部はとりあえず毎日朝から夕方まで活動がある。9月中旬に行われる文化祭に向け、いよいよ新曲が配られた。桜田先生は、

「これ、前からやりたかったのよー。人数が増えたから出来るわー。」

と言って、「パイレーツカリビアンのテーマ」を持ってきた。難曲だ。増えたと言っても先生方を入れて13人しかいないのだが。

 他にも、ドラゴンクエストのテーマ曲や千と千尋の神隠しのテーマ曲などの楽譜も配られた。楽譜をパラパラ皆で見ながら、

「フルートのソロあるよ。」

「え、マジっすか?」

「先輩、ホルンのソロありますよ。」

「マジか!」

などと会話が飛ぶ。パートのソロはすなわち個人のソロである。トランペットとクラリネットは2人ずついるけれど、他の楽器は一人ずつしかいないのだ。

 まずは個人個人で練習。わからないところは先輩や先生に教えてもらう。そして、休憩を取ってから、桜田先生の指揮で部分的に合わせる。意外に時間はあっという間だった。

 また、楽譜はよく変わる。楽器が足りない分は他のパートに割り当てられるからだ。

「トランペット、そこやって。」

と、口頭で音符を言うので、楽譜に書き足す。和馬など、当然音符が書けるわけもなく、カタカナで慌てて書く。だが、難しいからこそやりがいもある。毎日目一杯練習して帰るけれど、さすが元運動部の子たち。へとへとになる生徒もいないようだった。

 夏休みのある帰り道、いつものように1年の8人が一緒に歩いて駅へ向かっていると、英語で話しかけられた。

「Hi! Shall we go to the party? 」

振り返ると、10人くらいの団体がいた。男の子が2人で後は女の子。金髪の外国人もいれば、東洋系の子もいる。いきなり英語で話しかけられ、みんなタジタジ。そこで、その外国人のグループ内でコショコショと話し、話しかける人物が交代された。

「君たち、明日パーティーがあるんだけど、私たちと一緒に行かない?」

と、日本語で話しかけてきた。どうやら英語が通じないので、日本語が話せる人物が代わって話しかけてきたようだ。見たところ同じくらいの歳ごろのようだ。和馬たちは顔を見合わせた。

「どうする?」

牧瀬がそう言ってみんなを見回した。金髪だけれど日本語が話せる女の子は、

「明日ね、中野にあるここの教会でパーティーがあるのよ。」

と言って、チラシについている地図を指さして見せてきた。

「いや、遠慮しとくよ、なあ?」

「だよな・・・?」

と、みな遠慮がちだが断っていると、その外国人のグループの人たちが、和馬たちにそれぞれビラと飴を配ってきた。当惑しつつも、それを受け取り、また駅に向かって歩き出した。

「どこの国の人かなあ?」

と和馬が言うと、

「アメリカ人じゃねえ?」

と山崎が言った。朴は、

「韓国人もいたぜ。」

と言った。みんなパーティーに行くつもりはなかったが、翌日の部活で遠野先輩と林田先輩にチラシを見せて昨日の話をすると、遠野先輩が、

「これ、うちの近くだぜ。この教会、ブラックで有名なところだよ。」

と言った。

「ブラックって?」

と佐々木が聞くと、

「一度足を踏み入れたらなかなか抜けられないそうだ。」

「そうなんすか。」

「危ない危ない。」

角谷が肩をすくめてそう言った。

 これは宗教の勧誘であったが、いつも8人で帰っていると、何かと目立つようで、話しかけられることは稀だけれど、注目を浴びることはしばしばであった。特に夏休み中はまだ明るい中を下校するので、遠くからでもよく見えるとあって尚更だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る