第4話サッカーをやめた理由

 まずは、3年生が抜けても校歌の演奏ができるように、練習をすることになった。終業式などで演奏するからだ。まずは1学期の終業式までに校歌を頑張るということになった。

 校内では、ちょっとした噂になっていた。今年の吹奏楽部の一年生は、元サッカー部のイケメンばかりが入ったと。お披露目ではちゃんと皆見てくれたようだ。イケメンばかり、というのはあながち嘘ではない。好みによって評価は分かれるものの、皆きりりとした男前だ。

「今年の吹部に入ったやつらって、8人中7人が元サッカー部なんだって。残りの一人はドラマーだから、みんな体育会系ってわけだよ。」

「ただでさえ楽器やっててかっこいいのに、みんなイケメンらしいぜー。」

「へえ。でも、まだ初心者だろう?かっこよく吹けないだろうよ。」

「それが、みんな運動神経いいから、すぐに楽器も吹けちゃってるらしいよー。」

あくまで噂である。本人たちの耳には入っていない。

 ある日、部活から帰ろうと8人が昇降口から出たところで、まだ部活Tシャツを着たサッカー部の1年生が声をかけてきた。佐々木と同じ中学から来た生徒だった。

「佐々木―!お前、吹部入ったんだって?」

「おう。」

「お前、サッカー上手かったじゃん。なんでサッカー部入んなかったんだよ。」

と言ってそのサッカー部員は佐々木の肩に手を置いた。佐々木は、

「別に、上手くなんかないよ。」

と言って視線を地面に落とした。サッカー部員はまたな、と言って校庭へ戻っていった。

「佐々木、なんでサッカー辞めたの?」

と角谷が聞いた。

「まあ、プロになれるほど上手くはないし、それなら勉強して大学入らないとなって。運動部に入ってたら、勉強なんてできないと思って。それに、楽器やってみたかったし。」

と、佐々木は答えた。

「俺は、ほとんど試合に出られなかった口だから。」

牧瀬が口を開いた。

「だから、この学校のサッカー部に入ったところで役に立たないし。それより、新しい事始めようと思って。」

「俺も佐々木と同じだな。高校ではそこそこやれるかもしれないけど、その先はサッカーじゃやっていけないし。それなら良い大学入らないとねって。もちろん、楽器吹けたらかっこいいなあって思ったしね。」

と、山崎も言った。

「山崎は、絶対サックスがいいって譲らなかったもんなー。憧れの楽器だったんだ?」

と佐々木が言うと、山崎はニッと笑った。

和馬は、

「そう言えばさ、佐々木はどこのポジションだったの?」

と聞いた。

「トップ下。渡辺は?」

と佐々木が聞いた。

「キーパー。」

と和馬が答えると、

「キーパー?マジ?みんなは?」

と佐々木が聞く。皆はそれぞれ、城之内と朴はフォワード、山崎はミッドフィルダー、牧瀬はサイドバック、大橋はセンターバック、と答えた。

「ポジションそろってんじゃん。8人制サッカーだったらできるな。」

と佐々木が言った。すると、元々吹奏楽部だった角谷が、

「俺はやってないし。」

と言ったが、

「8人制だから、お前も出なきゃ。」

と、にやにやしながら大橋が言って角谷の肩をポンと叩いた。そこへ、先ほどのサッカー部員が、

「おーい、お前らみんな元サッカー部だったんだって?俺たちと試合しようや。」

と言いながら走ってきた。佐々木は慌てて、

「サッカー部と試合なんて、無理無理。」

と言って手を顔の前で振った。サッカー部員は、

「なんだよ、自信ないのか?」

と言ったので、8人全員で

「ない!」

と言った。サッカー部員は肩をすくめてまた去っていった。

「文化部の中でサッカー大会やったら、俺たちが優勝だな。」

と朴が言って笑った。

 みんな、それぞれサッカーが上手かったり、試合に出られなかったりいろいろだけれど、サッカーよりも楽器をやってみたかった、音楽をやりたかった者たちばかりだ。今が楽しい。勉強もしなければならないけれど、それだけじゃつまらない。音楽が学校を楽しくしてくれていることは確かだった。そして、この仲間たちも。

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