おでこに刺さった剥製の鹿のツノ

熊タペストリー

 ふうたんは、なんと、最近、お昼寝をあまりしていない!

『まあ!なんということでしょう!あれほど寝ぼけて人に迷惑をかけていたふうたんという人物が、真っ当な人間にみえるではありませんかぁ~。

「てっちゃん、今心の中で何か唱えなかった?」

 てっちゃんがビフォアアフターのナレーション風に、何を編んでいるのかは分からないけれど、編み物をしている姿を見て心の中で唱えて見たセリフがふうたんに聞こえたのかっ。慌てて、てっちゃんは、

「何も唱えてなんかないよ。何編んでるのかな?って見てただけだよ。」

 と言った。ふうたんは、真剣だ。真剣な手つき眼差しで毛糸と金色の短い棒をチネちネチネチネ動かしている。チラリともてっちゃんの方、ネコの鳴き声がしても、

「用事?用事があるならこっちに来て。」

 と、見ない有様で編み物に没頭している。これはこれで、なんだ寂しい気がする。夜も遅くまで眠らずに、ここ数日編み物を続けている。てっちゃんは、見かねて、

「ふうたん、あんまり根詰めちゃダメだよ。そろそろゆっくり寝た方がいいよ。はい。今日はその辺にしといて、休んでね。」

 と、ふうたんを、ふうたんの巣のベッドに持ち運んだ。

「よっこいしょ。はい、寝て。」

 ふうたんはご立腹で、小学生キックをベッドの上でしている。とにかく手足をジタバタさせるキックだ。これは、狙ってあててないから、あたると、当たった側は物凄く痛い思いをする攻撃だ。てっちゃんは、ササっとベッドのそばから離れて遠くから掛布団を投げて掻けた。

「うわ~、者扱いされてるぅ~。うが~。怒ったぞぉ~。うがあ~!パソコンやる!」

 ふうたんは、せっかくソファから重いのを持ち運んでベッドの上に置いて、遠くから掛布団まで投げかけたのに、全部ひっぺ替えして起き上がり、パソコンの前に座った。これには、てっちゃんも参ってきた。

 ―「この調子でぶっ通しでなんやかんやし通すとホントにぶっ倒れる。」

 てっちゃんは、パソコンが置いてあるテーブルの横に椅子を持って行って隣に腰かけた。そして、言った。

「熊の置物が欲しい。ネットで探して探してお願いお願い10分以内に見つけてオークションに申し込んで。お願いお願い。」

 てっちゃんは、これでどうだ。参ったか。と、勝ち誇った目でパソコンの前で固まっているであろうふうたんの姿を見た。固まっていたのはふうたんではなく、パソコンの方だった。今どきのパソコンが固まるなんて…。ふうたん一体どれだけパソコンを酷使して使ってるんだ?クエスチョンを抱きながら、固まってるパソコンの画面に自然に目が行った。

 ツボ

 壺

 臺

『つぼ』

 というワードにヒットし出てきたのであろう品の数々がそこには並んでいた。

「ふうたん…つぼ、買うの?」

 てっちゃんの問いかけに、

「いいの、これはいいの。内緒なの。皆かった事にしてよね。」

 と、背を向けて画面を隠しながら何かを誤魔化していた。ふうたんの人差し指が机の台をトントンと小刻みに叩いている。タッチパッドをもう片方の人差し指でぐりぐりしているが、画面は一向に動かない。ふうたん切れた!

 ハードディスクのパソコンのコンセントを抜いた。そりゃ電源落ちる。賢いといえば賢い発想だ。でも、これがパソコンが固まる原因になってるんじゃないか?とてっちゃんは戸惑った。抜いたコンセントをそのままプラグに差し込み、何事もなかったかのようにパソコンの前に座り直したふうたん。てっちゃん、再度ねばってみた。

「熊の置物が欲しい。オークションで落札して、10分以内にお願いお願い。」

 ふうたんは、実は、もうすぐやってくるてっちゃんの誕生日プレゼントとして、つぼを購入しようとしていた。けれども、てっちゃんはクマの置物を欲しがっている。

「つぼ、やめよかな?でも、1家に1つ臺会った方が良いよね?どうしよう。まあいいや、どうせオークションなんかに鮭くわえた木彫りの熊なんて出品されてない。」

 パソコン画面が軌道して、ネットブラウザを立ち上げ、オークションサイトに、

『熊の置物』

 と、入力して、ポチっと押した。

 そこには、

『熊タペストリー』

 という、大人の等身大熊の顔の大きさと同じ大きさの熊の顔の木彫りが出品されていた。ふうたんでさえも、ひいた。

「これ…誰が買うの…。送料別って書いてあるよ、北海道から本土に送られてきたら送料凄くかかるよね。この千円よりもかかるよね。誰か買う人いると思って出品してるのかな?」

 てっちゃんは、

「これ、『おまけで、鮭くわえた木彫りの熊をお付けします。』って書いてあるよ。欲しい欲しい。お得だお得。熊の置物がおまけでもらえる。買って買って。お願いお願い。」

 真剣に、その熊タペストリーに惹かれてしまっていた。ふうたんは、更にひいて、オドオドしだした。どうしたらいいかわからなくなって、最低落札価格の1000円という額を落札画面に入力して落札ボタンをクリックしてしまった。

「あわわ、あわわ。どうしよう。てっちゃんがお願いお願いっていうから、勢いで押しちゃったじゃん。これどうするの。こんなの入札する人、他にいないよ。確実にいない。いや、いていて、いてください。お願い。高値更新して。落札したくない!こんな木の熊の顔どこに置くの?やだよ。壁に飾らないでよ。」

 ふうたんは、中学校時代の同級生の男の子の事を思い出した。その子の家は、、めちゃくちゃ汚くて、床にはベニヤ板とかが敷き詰められていて、なのに、壁に鹿の角が生えた剥製が飾られていた。トイレの手前の壁に飾られたその鹿の剥製が、ふうたんがその男の子、厳密にいえばその男の子の妹と遊んでいる時に、落ちてきた。そして、同級生の男の子のおでこに、鹿の角が刺さった。

 仲良し兄弟の、お兄ちゃんのおでこに鹿の角が刺さっているのを見て、妹は救急車に電話した。その間、ふうたんに、角が抜けて出血しない様に剥製押さえておいて、と指示を出されたので、激しい痛みでアドレナリンでもでていたのか、少しハイテンションで仰天眼の顔をした、それでも半べそをかいている同級生の男の子に刺さっている鹿の顔面を持ち続けた。重かった。

 それになる。木彫りの熊の顔には角はないけど、牙があるであろう。それが、首筋に刺さったら。

「ひぃいいいい。」

 雄たけびを上げたふうたんに、てっちゃんは素で落札時間が過ぎて、『あなた様が最高落札者になりました。おめでとうございます!』と表示されてるのを見て、

「うひょーうひょーやったやった。」

 と、ふうたんと正反対の態度をとった。


 1週間後。

 熊タペストリーと、鮭を咥えた木彫りの熊が郵送されてきた。熊タペストリーは思った以上に大きく、重みもあった。てっちゃんが、

「これ、これ。これはぁ?これ。」

 と、熊タペストリーの裏表をひっくり返して見つめながら釘を打ち込んでいた。


 ふうたんは、

「もういやっ。」

 と、ソファに陣取り編み物でクマのあみぐるみを編み始めた。あみぐるみを作り始めて1か月で5体目を作っている途中である。クマのあみぐるみ?熊タペストリー?鮭を咥えた木彫りの熊?

「ひょえっ。クマ、クマがでた。」

 ふうたんは、手にしていた網掛けのクマのあみぐるみと、編み物道具一式セットをソファの上に投げ出し、そのまま放置して、ベッドに、

「とうっ!」

 と飛び乗って、お昼寝した。

 今日もふうたん、元気にお昼寝中。

「ミカンのアイスクリームが食べたい。」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る