そして彼女は、俺の声しか聞こえないことを心地良いと言う。

心の声が聞こえてしまう女子・如月と、やたら心の中の独り言が多い男子・北斗の高校生ペアが織りなす日常の物語。

心の声絡みの特殊能力は目新しくないが、こと小説というメディアにおいては独特の位置づけになる。たとえば一人称が話者の"心の声"が全て筒抜けであるような文体である一方で、三人称は神の視点とも言われ、しばしば複数の作中人物に成り代わりその心中を代弁するものだから、まさに神の所業である。
これで調子に乗ってあらゆる人物の心境を説明されると作品にならないのだが、うまく利用すると叙述トリックにもできる。

本作ではトリックが駆使されてはいないが、他の人の心の声に脅かされないようにするために、如月が北斗のそばにぴったりと張り付いているという形で必然性が演出されている。
このことで二人だけの会話で進行することも正当化され、付随的に二人だけの世界が展開する。

能力はファンタジーというよりはラブコメのための舞台装置であった。月並みだが、この能力を逆手に取った駆け引きの展開を期待する次第。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=村上裕一)

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