第26話 私、もう眠れない

 私は夢を見た。私があのアニメの主人公になって、片思いの人、たしか通学中にいつもすれ違う高校生さんを探して街を走り回っていた。あちこちから、あの歌が流れる。

 流れる歌は、私の声になっていた。お店のウィンドウに映る姿も私のままだ。ただ服だけ覚えのない、アニメの世界に合ったものだ。



 他人(ひと)と他人(ひと)が 分かりあえなくても

 私は あなたと分かりあいたい

 あなたが私を 憶えていなくても

 私は あなたと顔を合わせ いつか手をとるから


 私は あなたを 忘れない



 走り回って、息を切らして、一度立ち止まって息をつく。肩の上下が収まった。さっと顔を上げると、探していた高校生が少し前を歩いているのが見えた。


 もう一度走ろうとしたところで、足がもつれて、


 そこで目が覚めた。

 見慣れた、病院の天井が見えてきた。


* * *


 私たちは結局、夜遅くまで歌っていたようだ。一番遅くまで記憶があるカナデ先輩によると、日が暮れる少し前に、巨大なメルティが山脈の向こうに現れて、遺跡のあたりで暴れはじめ、日が暮れて一時間くらいまで、あのUFOやらなにやらをちぎっては投げちぎっては投げ、だったそうだ。


 そして、日付が変わる頃に機装が分解され始め、そのせいもあって一番体が弱いマイカちゃんが気絶。直後に部下の一人もひざを折った、それからしばらくして私とマモルさんが寝落ち。時間が空いて午前三時ごろ、残りの部下たちが倒れ、先生が立ったままいびきをかき始めたのでラヴィニスがつねって起こした。


 山岳の塔の管理者が私たちの歌の実行を告げて消えたのは、午後四時過ぎだったそうだ。聞き届けてすぐ、ラヴィニスがまた血を吹きながら倒れたのまで、先輩は覚えている。そのあとで先輩自身は意識を失ったみたいだ。


 機装のない、ほぼ薄着の私たちが助かったのは、奇跡といってもいい。記録によると、私たちが救助されたのはそれから半日あとだ。私たちだけでなく、一緒に歌ったラヴィニスとその部下たち、周りに展開されていた、出来る限りの兵士たちを、アトランティスは収容し、各地の息のかかった病院を満杯にした。


 救助されてから、早い人でも一〇日、殆どの人は一か月くらいで意識を回復し、そのまま治療を続けている。

 歌ったメンバーの中では、マモルさんと先生が一か月後、サユちゃんが四三日後、ラヴィニスの部下の中で一番遅い人が二か月後に目を覚ました。

 マイカちゃんは通算五か月後、カナデ先輩とラヴィニスは通算八か月。


 そして私は、事件から丸一年眠っていた。その間に、手術痕だらけになっていた。


 少し蒸し暑い、初夏のある日。目覚めて一か月たってようやく、私はベッドを操作して、体を起こすことを許された。普通に起こせるようになるにはどれくらいかかるだろう。

 外のほうから、後輩たちの元気な掛け声が聞こえる。私は重傷過ぎて搬送しにくかったらしく、太平洋のどこかにある会社保有の島、南極探査用の前線基地の施設にいる。

 建物の作りがほぼ研究所と同じで、内装もほぼ一緒。病院の天井が同じだったし窓の外を見られなかったので、教えてもらうまで、地元の研究所だと思っていた。しかも、先生がわざと戒厳令をしいてた。


 リモコンで、窓のカーテンを引いて、私は外を見た。施設の中庭が見える。私はすぐにまた眠ってしまったので気づかなかった。




 柔らかく照らす月のそばに、あのUFOの、めちゃくちゃ巨大なヤツが浮かんでいたことに。

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