第25話 王府滞在

数刻後、瑩珠は帝都の北に位置する照王府に着いた。

「子妃様、王府に着きましてにございます。長旅は御体にご負担もありましたでしょう…お休みになられませ」

「金鈴、ありがとう。なれど、お父様とお母様にご挨拶せねば…」

そこに優しげに微笑んだ父王の姿があった。

阿姫アキ…!」

阿姫とは愛しい姫という呼び方だ。実は照王は瑩珠のことを溺愛しているのであった。

「お父様?」

「あぁ…阿姫や。大事ないか?父はとても心配していたのだよ?」

冷静で寡黙な賢王の姿が見る影もなくなっている。

「お、お父様…東宮の者がおりますし…ほら、お母様に叱られてしまいますわ」

「えぇ、本当にねぇ…?」

氷のような冷たい声が届き、照王の顔が強張った。

「お母様、ご機嫌麗しゅうございます」

ゆるゆると瑩珠が礼をとった。

「御体に障るようなことをなさるべきではありません。子妃殿。さて…照王殿下?さぞや威厳ある振る舞いをなさったのでしょうね?」

「いや…すまぬ」

「姫が心配なのは分かりますが、娘と言えど子妃殿。振る舞いはしっかりなさいませ」

色々あったが、瑩珠達は王府に招き入れられ、元々瑩珠の使っていた殿舎を割り当てられた。

「あら、懐かしいわ…変わらずに留めておいてくださったのね」

茶を用意し終えた金鈴が瑩珠に声をかけ、ゆったりとした藤色の長衣を纏った瑩珠は椅子に座った。鳳城にいるときは複雑に結い上げられ、飾り立てられている髪も数本の歩揺で邪魔にならないように一部を結っただけで背に流している。

「あ、あの…恐れながら、子妃様」

「どうしたのですか?金鈴。ここは鳳城ではないのだから、そこにお座りなさい」

そう言って目の前の椅子を勧めた。女官長という身分にいるとはいえ、金鈴は名門のチン家のお嬢様だ。妃嬪にもなれる身分なのだから子妃の話相手になってもおかしくはない。

「では、御言葉に甘えまして…子妃様、何故王府への行啓を?」

「私の療養は名目…本来の目的は李家の残花のお話かしらね」

「李家の奏沙様でございますか…もしや、念家の関係で?」

瑩珠は微笑んだ。

「そうよ…念家というより、照王家としても関わりがあるのよ。ですわよね?そこにいらっしゃるのでしょう、

扉の外の人影に瑩珠は声をかけた。

「あぁ、そうだな」

「少し昔語りをしましょうか…」

そう言って瑩珠は話し始めた。

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