code-4:初めの一歩

「ふーん、ロストテクノロジーであるはずのMHで世界征服ねぇ。なんだかデカい話だね」

 その後、ゼニスの征服計画についても話した。目の前のテーブルには、メディが入れた紅茶がカップから湯気をたてている。

「あの、クロンさんはゼニスと面識があるんですか?」

「その前に、敬語はやめてくれないかい?なんだか恥ずかしくてね」

 確かに、一緒に暮らしていくにあたってこのままずっと敬語というのもなんだか息苦しい。

「わかりまし…いや、わかったよクロンさん」

「それでいい。で、ゼニスと面識があるかって質問の答えだが、もちろんイエスだ。というか、あいつは私の弟子だ」

 突拍子もなさすぎて一瞬固まった。

「は…弟子?」

「そう、機械いじりのやり方は全部教えたよ。あいつがあそこまででかい会社を作れたのは私のお陰と言っても過言じゃないね」

 なぜ弟子なんかをとったのか、その経緯については長くなるからという理由で話してはくれなかった。

「まあ、なんかしでかすんじゃないかとは薄々思ってた。弟子のときからあいつは兵器がどうとか危なっかしいことばかり言ってたしね」

「わかってて、なんでそれでも教えたんだ?」

「考えを改めてくれるんじゃないかと思ってたんだよ。実際、私も考えを改めるようあの手この手で対策してたしね。それに一人しかいない身内の頼みを無下にもできないだろ?」

 クロンからしてみれば、どんな危険な思想を持っていようとも弟子は自分の子供のようなものなのだろう。

「だから私も私でちょっと対抗策を練ってたんだ。あいつが万が一蛮行に及んだ時、それを止めるためのね」

 クロンは今いるダイニングから廊下に出て、突き当たりの壁にあるテンキーをなんどか叩いた。すると、そのすぐ横の壁が横に動いて地下への階段が表れた。

「これは…」

 クロンは何も言わず階段を下る。クルセイドもそれに倣い後に続く。

 階段を下りきったところにある鉄製の扉を開けると、そこは大量のモニターや計器、見たことのないような機械などが沢山置かれている広目の部屋だった。

「なっ、なんだこれ…!」

「秘密基地さ、こういうのみんな大好きだろ?」

クロンによると、この大量のモニターは全て部屋の隅に置いてある飛行式のナノカメラと接続されており、常時カメラを通してモニターで様々なものを監視できるらしい。

「すっごい…やっぱクロンさんの技術はピカイチだ…」

「そんな大層なもんじゃないよ、ナノマシンなんざ今じゃ当たり前のものだろ?」

 とはいえ、ナノマシンの開発には普通複数の技術者が携わり、生産にもそれなりの人員と資金が必要だ。それを一人でやってのける技術力もさることながら、これだけのものを製造し維持できるだけの資金の潤沢さにも驚かされる。

 そんな話をしていると、クロンが思い出したように別の話を始めた。

「そうだ、技術と言えばあんたの体について話すのを忘れてたよ」

 確かに機械の体にはされてはしまったが、これといった不調はない。

「体がどうしたんだ?特に何もないけど…」

「体というか外装だね。驚いたことに、それにはモービルメタルが使われている」

 その言葉を聞いてハッとした。モービルメタルとは、硬度はそのままに事前にプログラムなどを施して覚えさせた形に変形させたり動かさせたりできる、ゼニス社が秘密裏に開発を進めている特殊合金だ。噂に聞いていただけで、まさか完成していたとは思っていなかった。

 そしてそれ以上に、クロンが社外秘であるはずのその名前を知っていることにも驚いた。

「なぜって、そりゃさっき話したナノカメラを使ったんだよ。これさえあれば平社員の部屋のセキュリティ程度ちょちょいのちょいさ」

「いやそれ犯罪…」

「バレなきゃいいんだよバレなきゃ」

 危ない橋を渡りたがるような性格だとは聞いていたがここまでとは想像もしていなかった。弟子の経営する会社にカメラを潜り込ませて盗撮なんかをする師匠が他にいるだろうか。

「それより、そのメタルにプログラムされてる形態は現状二つだ。一つは今の形態、そして頭部にヘルムを形成できるアームド。二つ目はシューター、コアのエネルギーを射出できる銃を形成できる。」

「そんなのも調べたのか」

「まあね、わかることは多い方がいいだろう?」

 モービルメタルは脳のマイクロチップと繋がっているため変形は感覚的にできるらしい。形態はプログラムさえ組めばいくらでも増やせるし、盾など簡単な構造物ならプログラム無しでも想像のみで形成できるそうだ。

「内部に未完成のコードが一つあったんだ。小手調べにそれを完成させてみるよ」

「わかった、できることは多い方がいい」

「それと、データを調べてたらあんたの敵の情報も見つかった」

 クロンが胸ポケットから取り出したUSBを手近のパソコンに指すと、画面にアルファベットの羅列が表示された。

「これは…」

「AからZまである。恐らくこれ全部があいつの作ったMHのコードネームだろうね。そしてこの中のXがあんただ。」

Xの項目のみ文字色が青になっている。自分を示すのだろう。

「全部で25人か、多いな…」

「多分これはMH間で通信ができる機能だろうね。連携をとるために必要なんだろう」

「ちょっと待って、それだとここのことがバレるんじゃ…」

「そう思ってちゃんと削除しておいたよ。代わりにこの部屋の通信機と繋いだり相手の発する電波から場所を割り出す機能もつけておいた。それに遮断シールドもはってるから万が一にでも見つかることはないよ」

 さすがと言ったところか。対策には余念がない。

「で、さっそくだが敵の一人が動きだした。code-D、ここから西に5kmの山中にいる。」

「ちっか!なんだってそんなところに…」

「遠くから爆発を見てもしやと思ったんだろうよ。多分あんたを探してるよ」

 シールドで電波を妨害しているとはいえ、そこまで近くにいるとなると万が一肉眼で認識されないとも限らない。そこを考慮せずとも、敵であればなるべく倒しておきたい。

「そうか…わかった、倒しに行く。ゼニスに至るまでの障害はなるべくない方がいい」

「よし、行ってきな。飯でも作って待ってるよ」

 それを聞くと、クルセイドはそのまま今いる場所を出た。戦闘どころか喧嘩すらまともにしたことがないため不安はあるが、戦わなければ自分の記憶だけでなくどこかにある自分が存在したという証明、何より、生まれ育ったであろうこの街がなくなるかもしれないという事実に比べれば、そんなものは些細なことに思えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る