第3章 フリーダ

7 解放

 オルガン村の朝は、


 どっごおおおおんっ


という、以前にも増してパワーアップした爆発音で始まる。

「ディ、ディジーちゃん。このところアーマちゃん、エラく気合いが入ってるみたいなんだが……」

「そ、そう? あはははははははー」

 村人の問いを、笑ってごまかすしかないディジー。何せ、

「うわあああっ、誘爆だ誘爆!!」

「カンナがっマサカリがっ!!」

 村中の、アーマの魔法のかかってるものが、反応して次々爆発してるんだから。

「いや大変ですねえみなさん、はっはっは」

「だから自分だけ結界で身を守るなってば」

「そういうディジーさんもしっかり入ってるじゃないですか」

 はっきり言って、現在の村の中で安全なのはユンの結界の範囲内だけだったりする。この村、〝爆発物〟が多いのだ。

「まぁた失敗ですぅ……」

 成功したって爆発するくせに。

 ちなみに、例のオルトが残した剣はまだディジーの手にある。まだアーマも、剣そのものに魔法をかける段階ではなくて、どんな魔法をかければいいのかいろいろ実験している段階だ。

 キオーと戦ってから、すでに七日が経っていた。相手に居場所を知られているのがはっきりしているのだから、よそに逃げたほうがよさそうなものなのだが、

「えー、でもやっぱりオルガン村でないとぉ♪」

とか言う方約一名。なわけで、全員オルガン村に留まっているのだ。今のところ何も起きてないからいいようなものの。

「でも、あんまりオルガン村でのんびりもしてられないよねえ。前の密偵程度の奴なら、あたしでも何とかできる自信あるけどさ。あの魔術師がもう一度来たりしたら……」

「キオー・ナムが〈帰還〉の術で、どこまで戻ったかによりますね。フリーダまで戻ったのなら、まだここまでは来られないでしょうけど」

 フリーダ‐レント間、教団の権威フルに活用した強行軍でも十日はかかる。一般の旅行客なら、その倍は覚悟しておく必要がある。

「でも、あの魔術師ならすごい魔法とか使って、もっと早く来れるんじゃ」

「……やりかねませんよね、確かに。その辺は、ウォルフくんにでも聞いてみないとわかりませんけど。今は、彼が〈ゴーレムくん〉の悪夢に苦しめられて数日動けないことを祈るとしますか」

 神官がそんなもん祈るな。


 ズドォォンッ……


 そのとき、ズシリと腹に響くような音が聞こえた。

「何? まだ誘爆してんの?」

「……!! 違いますよ、ディジーさん。あそこ!!」

 山のふもとのほうに、火の手が上がっていた。

「ちょ、ちょっと、あれって……ビアズ村!?」


「高速で移動する魔法、ですか?」

 歩いて降りると昼近くになるビアズ村のほうを見下ろしながら、ウォルフが悩む。火の手は収まる気配がなく、到着する頃には村がどうなっていることか。

「ここから山のふもとくらいなら〈飛翔〉で何とかなる範囲内ですけど、あれは術者本人だけしか……」

 その名の通り空を飛ぶ呪文だが、あまり飛行距離長くない上に、もう一人抱えただけで格段にスピードが落ちるのである。

「〈浮遊〉がありますぅ♪」

「確かにそっちは何人でもOKですけど、浮くだけじゃないですか」

「こーするですぅ♪」

 いきなりアーマ、リヤカーに〈浮遊〉をかけた。宙に浮くリヤカー。さらには、持ち手に結わえ付けたロープをグリーデルに引かせ、

「グリちゃん、全速力♪」

 グリーデルとリヤカーが一瞬にして空の彼方へと飛んでいった。

「アレに乗るですぅ♪」

 顔面蒼白なユンとディジーとウォルフ。

「ぼ、僕は〈飛翔〉で行きますからみなさんどうぞっ」

「自分だけ逃げるなーっ!!」

「……ま、まあこの際仕方ないですね、はっはっは」

「えへ♪」


   ◇


 背に腹は代えられず、一行は、リヤカーに乗ってビアズ村へと急ぐ。

「何だよ、コレ!?」

 変わり果てたビアズ村の姿を見て、叫ぶディジー。

 もう大分火は小さくなっていたが、単に燃えるものがなくなっただけ。人影はほとんどない。避難したのか、それとも……。

 突如、燃え残りの家屋から火トカゲサラマンダーが飛び降りてきた。

「ユン様、危ないっ!!」

「ふっ、甘いわモンスターめ、その程度でこのユン・シュリを不意打ちしたつもりかっ!! とりゃっ!!」

 しかしユン、そのサラマンダーにエルボードロップをくらわすと、直接〈浄化〉を叩き込んだ。弾けるように消滅するサラマンダー。

「いやー、私の〈浄化〉はモンスターに触れていないと効きませんしね、いつも肉弾戦ですよ。修行足りないですねー、はっはっは」

 それはそれでとてもすごいぞ、ユン。

「……何っかやっぱり、ストーレシア教団って間違ってる……」

「それより、注意してください。今ので終わりじゃないようですよ」

 周囲を見回しながら、ユンが言う。

「何で、ビアズにモンスターが」

「結界ないんですから、ビアズにも出たっておかしくはないんですよ。一匹や二匹ならね。でもこの数は、いくら何でも不自然ですね」

 周囲を、種々雑多なモンスターが遠巻きに取り囲んでいた。

「ふぁっはっはっは、よっぽど死にたいようだなモンスター!!」

 ユンの高笑いがあたりに響く。

「とぉっ!!」ドロップキック。

「せぃやっ!!」ローリングソバット。

「おりゃあっ!!」フライングボディアタック。

「どりゃあーっ!!」パイルドライバー。

 こんな調子で、たった一人でモンスター全滅させたのだった。

「……モンスター恨む気持はわからんでもないけど、何もあそこまで性格変わらんでも……」

「まあ、モンスターとしては雑魚ばかりでしたし、はっはっは」

 一般人には一匹でもかなりの脅威なのだが。

「しかし、同じモンスターの群れ、ならまだしも、こうも多種多様なのがいるとあっては、明らかに自然発生じゃないですね」

「自然じゃなかったら、どういう……」

「この世界に王と家臣がいるように、モンスターのいる異界でも階級というか、上下関係はあるんですよ。たとえばですけど、ディルムントのような強いモンスターには、他の弱いモンスターは従うんです。そういう、異種のものたちを統率するものが、いるんだと思います」

「ディルムントクラスのモンスター!?」

「そこまで行かなくとも、少なくともこいつらより強い奴がね」

 再び、モンスターが彼らの回りに集まり始めていた。

「ふっ、第一陣よりは手ごたえがありそうだな、ふぁっはっはっは」

 忙しい奴め。

「今度はあたしらも戦うよ、アーマ、ウォルフ。……そーいやウォルフ、あんたが〈火矢〉! って動転しないの、珍しいね」

「え、ええ……〈飛翔〉で魔力と体力消耗しちゃいまして、あははははー」

「だったら最初からそんな呪文使うなー!!」

 だから〈飛翔〉は飛行距離が短いのだったりする。

 ともかく、戦闘第二幕。

 ディジーの剣が閃き、ユンの空手チョップが舞う。さらには

「行っけえ、〈矢ブスマくん2号〉!」

 矢の数が倍にグレードアップした〈矢ブスマくん〉が飛ぶ!

 起きてるのに巻き込まれたウォルフが飛ぶ!!

 ついでにグリーデルも飛ぶ!!!

「どーせ2号にするんだったら、巻き込むのも直せばいいのに……」

「ディジーさん、後ろ!!」

「え?」

 背後から出てきた何かがディジーの身体に巻き付き、そのまま彼女を屋根くらいの高さまで持ち上げる。カランという音を立てて剣が地面に落ちた。

「ちきしょう、放せっ!!」

 ヒュドラの九つの蛇の頭のうちの二つが、ディジーを捕らえていた。

「ディジーさんっ!!」

 ユンが血相を変えてヒュドラに飛びかかろうとしたとき、

「おっと、下手に動くとこちらのお嬢さんが死ぬことになりますよ」

 焼け跡に響いた人間の声が、彼の動きを止めた。

 屋根の上、持ち上げられたディジーと同じ高さに一つの人影。

「キオー・ナム……」

「なかなか早いご到着でございましたね。もっとかかると思ったのですが」

 一見、人当たりのよさそうな笑みで、軽く頭を下げる。

「何せオルガン村にはモンスターは入れませんのでね、みなさんにこちらに来ていただくことにしたのでございますよ」

「それじゃ、このモンスターは全部、あなたが……」

「ええ。これでも私は、〝モンスターを制御する魔法〟というものを身につけておりますもので」

 その言葉通り、さっきまで一行に向かってきていた周囲のモンスターが、今は全部大人しくしている。

「……確かに、素晴らしい能力だ。しかし、フリーダに〝モンスターを操る魔術師〟がついているとなったら、今度はストーレシア教団もフリーダ王国を放ってはおきませんよ」

「フリーダ? 私はもう、あの国とは何の関係もございませんよ。ですからユン・シュリ、安心してください。私はフリーダ王位にも、あなたの命にも全く関心はありませんから」

「だったら何でこんなことするですぅ!?」

 全員の視線が声の主に集まった。

「ディジーさんを放してくださいっ!!」

「アーマ・カレ……」

 しばしアーマの顔を凝視していたキオーの態度が、突如変わった。

「ええいっうるさい、オルトの孫娘めっ!! お前が、お前なんかがリリスと同じ目で俺を見るんじゃないっ!!」

「リリス……」

 アーマが目を見張った。

「おばあさまを知ってるですかぁ?」

「ああ知ってるさ! リリスが俺にヒントをくれたんだ、モンスターを操る魔法ができるかもしれないと。30年近くも研究を続けて、やっと完成したんだ。これは、俺がリリスのために作った魔法なんだ、俺とリリスの魔法なんだ!」

 キオーは狂ったように怒っていた。

「俺はこの魔法で、こんな馬鹿げた世界をブッ壊してやるのさ、〈つるぎの王子〉を、〈ディルムント〉を思いのままに操ってな!!」

「そんなことに、〈剣の王子〉を……」

 ユンの手がブルブルとふるえる。しかし、ディジーを人質に取られていては、キオーに手出しはできない。

「どうして世界を壊すですぅ!」

 アーマの叫びに、キオーは血走った目でアーマを指さした。

「どうして、だと? 決まってるさ、復讐だ。この世界は、彼女を殺したんだからな。リリス・メイが〈メルペル〉である、ただそれだけで!! そしてお前のジジイは、そんな彼女を見殺しにしやがった!!」


「リリス・メイが……アーマさんのおばあさんが、殺された?」

 ユンが、オウム返しにつぶやく。

「そうさ、フォーツクなんつう辺境のちっぽけな国で、〈メルペル〉という言葉の他には何も知らん愚かな連中に捕まってな」

「エーレハイルと同じ東方にある国です」

 ウォルフがささやいた。

「昔、そこの王様が民衆をあおって〈メルペル〉狩りをしたんです。でもその後、原因不明の大災害でほぼ壊滅したって話ですが」

「何で、オルトの奴は、死んでも彼女を助けなかったんだ!! 俺は、〈メルペル〉を処刑したという噂を聞いてすぐに駆けつけたんだ。俺がそばにいれば、何としても彼女を助け出したのに。いや、そもそもそんな連中の手にリリスを渡しはしなかった!!」

「……どんなすごい魔術師にだって、できないことはありますよ。あの、オルト師にだってね」

 ユンの言葉に、キオーは皮肉げに笑った。

「それは、〈剣の王子〉のことか?」

「!」

「娘を連れて内海を渡ったオルトを追いかけて、探しまわって……だが、27年前のフリーダでプッツリ糸が切れやがった。そのかわりに耳にしたのが、〈剣の王子〉の話だ。ははっ、お笑いだな、あいつは世界を助けるつもりで余計に災いを振り撒きやがった。リリス一人救えない奴に、世界なんか救えるかってんだ。

 それで決めたんだ、この〈剣の王子〉で世界を滅ぼしてやろうってな。オルトの奴、今頃墓の下で悔しがってるだろうぜ、ははっはははっ!」

 のけぞるようにしばらく笑い続けると、急にキオーは平静に戻った。

「……おしゃべりが過ぎましたね」

 そう言うと、ちろっとアーマを見る。

「取引をしましょう、アーマ・カレ。こちらのお嬢さんの命と引き替えです。もっとも、〈ディルムント〉を解放した暁にはみんな死ぬのですから、少し先に延びるだけのことですがね。

 私はね、そこのグリフォンがしている、その足輪が欲しいのですよ」

「……何に使うんです、こんなもの」

「あなたは黙っていてください、ユン・シュリ。私はアーマ・カレと話しているのです」

「渡しちゃダメだ、アーマ! どうせ良くないことに決まってんだ、渡したらこいつは〈剣の王子〉を、ユン様の……」

「お嬢さんも黙っていてください」

 キオーの言葉に応じるかのように、ヒュドラが更にディジーを高く持ち上げる。アーマはディジーを、そしてユンを交互に見つめた。

「……渡して、ください、アーマさん。ディジーさんを助けてください」

 静かに言うユンの声に、アーマもうなずいた。

 グリフォンのグリーデルをそばに呼び寄せ、アーマが足輪をはずす。屋根の上に向かって投げると、キオーがそれを受け取って言った。

「これさえあれば、人間ならざるものもストーレシア教団の結界を出入りできるというわけですね」

 ご満悦のキオーに、不意にアーマが語りかけた。

「小さい頃、私のお母さまが言ってたですぅ。死んだ人は、単に死んでしまったんじゃない。世界と一つになったんだって。だから、世界がその人で、その人が世界なんだって。ずっとそこにその人はいるんだって」

 まるで親しい人と話すような調子である。突然何を言い出すのかといぶかしむキオーに、曇りのない声でアーマは言った。

「キオーさんは、おばあさまが大好きだったですね?」

「アーマ・カレ……」

「おばあさまは死んでしまいましたけど、世界がおばあさまで、おばあさまが世界なんです。だから、キオーさんが世界を壊すことは、死んだおばあさまをもう一度傷つけるです。だから……」

「ええいうるさいうるさいっ! お前なんかに何がわかる!!」

 キオーが絶叫した。天に向かって吠える。

 キオーの身体に変化が生じた。みるみる若返っていき、と同時に衣服の背中が不自然に盛り上がってきたかと思うと、何かが服を突き破って顔を出した。

 翼。巨大な黒い翼。はっと、ユンが気づく。

「……そうか。キオー・ナムは、自身がモンスターと融合していたんだ。だから、オルガン村には入って来れず……」

 バサッと大きな羽音を立てて、キオーが宙に浮いた。

「壊す! 俺はこの世界を壊してやる!!」

 そう叫ぶと、猛烈な速度で飛び去っていく。

 モンスターたちの制御が解けたらしく、急に周囲が騒がしくなった。

 即刻ユンがヒュドラの身体に〈浄化〉を叩き込む。モンスターが内部にいる〈剣の王子〉の場合は〈浄化〉の巻き添えを食うが、そうでなければ人間には無効なのだ。ヒュドラが消滅すると同時に落下してきたディジーを、アーマが〈浮遊〉で受け止めた。

「ゴメン、ユン様、あたしのせいで……」

「〈剣の王子〉があの男に操られたなら、あの男を何とかすればいいだけのことです。それより今は、この場のモンスターですよ」

 そう言って、拾った剣をディジーに手渡す。

「僕、今回全く役立たずですねえ、あははははー」

 わかってるんなら働けウォルフ。


   ◇


 カールア大陸北方、フリーダ王国。

 フリーダはこぢんまりした国で、王都こそ平地にあるが、そこからどの方向に歩いてもすぐ山地に突き当たる。

 そういう山間ののどかな村の一つが、今は悲鳴と怒声に包まれていた。

「うわああああっ、モンスターだ!!」

「何とかしてください神官さま!!」

 もともとフリーダはモンスターの出やすい土地柄で、そのためこの付近の村は小さいながらもストーレシア教団の礼拝所があり、最低一人は神官が常駐していた。だから、ちょっとやそっとのモンスターでは村人も動じないのだが、今回ばかりは状況が違った。

 とんでもない数の、種々雑多なモンスターが村を襲ってきたのである。

「もう少しの辛抱です。すぐに、近隣の村から教団の応援が来ます!」

 状況をつかむやいなや、神官は隣のハープ村に使いを走らせていた。ハープは一見ここと変わらない普通の村だが、教団にとっては特別なところで、村の周囲を結界で囲み、そこに常駐している神官も、自分とは段違いの実力者だった。

 知らせを受けたハープ村の神官は、即刻隣村に駆けつけ、雲霞うんかのようなモンスターの大群をあっさりと全滅させた。

 しかし、それほどの力の持ち主のその神官も、それが自分をハープ村から引き離すための陽動だと気づいたのはモンスターを倒した後だった。

 そして、そのときにはもう全ては終わっていたのである。


「ここが、ハープ村ですか。成程、オルガンと似てますね」

 ベル家ルートの密偵の報告で、キオーはこここそが〈剣の王子〉の封印場所だとにらんでいた。もちろん、住んでいる村人はそんなこと夢にも思っていないのだろう。

 彼の配下のドッペルゲンガーも、そして彼自身も、教団の結界の張られたこの場所に入ることはできなかった。しかし、グリーデルの足輪があれば、それをつけているものには結界は無効になるのである。

 会ったことはないが、この村の神官は強力だろうと見当はついていたので、ちょっと出かけてもらった。戦って負けるとは思わないが、事の前に余計な気を使いたくはない。

 報告で村内の配置は知っている。迷わず、礼拝所に歩いていく。

 無人の礼拝所の中に置かれた、古い見事なハープ。昔の教団の偉い人物が置いていったものだという話だが、それこそが結界の発動体になっているのだ。外から入ってくるモンスターを防ぐためのもので、王子の封印には関係ないのだが、目障りだったので壊した。

 礼拝所には、地下室があるのだ。さすがにその地下室の扉にはかなり強力な封印がしてあったが、足輪をつけているキオーにはそれは無効で、容易に開くことができた。

 そして、一旦開きさえすれば、その封印は消滅するのだった。これまで聖職者であってもその扉を開ける必要のあった者はなく、開くとき即ち〈剣の王子〉抹殺を意味していたからである。

 封印が消滅した瞬間、巨大なモンスターの気配が周囲にあふれた。

 だがその気配とは裏腹に、地下室内の光景は地味だった。一人の少年が、部屋の真ん中の椅子に腰掛けて、居眠りでもするかのようにうなだれている。その右手には、長い剣をぶら下げている。

 キオーはまだ眠りから覚めぬ少年に近寄り、〈制御〉の魔法をかけた。そして、名を呼んだ。

「さあ、起きなさいジェダ・ロー。それともディルムントでしょうかね。私と一緒に、この馬鹿げた世界を滅ぼしましょう」

(……おのれ如きに、指図を受ける我ではないわ)

 キオーの頭の中に、直接そんな意志が響いた。

「なっ……〈制御〉が、効いていない……!?」

(愚か者め。我が従うは、我より上位のもののみ。身の程をわきまえるがいい)

 その意志を彼が認識できたのは、ほんの一瞬だった。

 次の瞬間には、魔剣〈ディルムント〉が彼を真っ二つにしていた。

 それを振るった少年の瞳は、血のように真っ赤だった。

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