エピソード8『変化していく環境、その行方』

変化していく環境、その行方その1

 4月26日、ARゲームの方では特に大きなニュースはなかった。

逆に静かすぎる事に対して大きな事件があるのでは――というプレイヤーの存在が若干目立った程度か。

しかし、25日の段階で配信されたリズムゲームにおける重大発表は衝撃の度合いが大きかった。

そのニュースに言及するプレイヤーは数多く、どの都道府県からも同じ話題が出るほど。

実際、ゲーセン内でも今回の決定に関しては不安しかなく、ユーザーが格闘ゲームや他のジャンルにへ一斉移動する可能性すら否定できなかった程である。

「別のジャンルのゲームプレイヤーが、一気に移動するとは考えにくい。それこそ、フジョシ勢力の様な民族大移動ではあるまいし――」

 他ジャンルへの大移動を否定したのは、何時ものARアーマー姿の天津風(あまつかぜ)いのりだった。

何故、彼女がARゲームではない別のゲームにまで言及するのか――?



 4月27日、劇的ニュースから数日が経過しようしている。

このニュースを改めてアフィリエイト目的でも取り扱おうとは素人でも思わない。

それを行えばマスコミに利用され、事実が歪められる可能性もあるからだ。

それ以外にも、特定エリアで同様の事件が確認されれば――速攻で逮捕される事も避けられない。

そして、事実が歪められるだけでなく――。

【結局、日本は超有名アイドルのプロデューサーが影で政治を操ると言うWEB小説でも題材にしないような国家へと変化しようと――】

 こうしたテンプレ文章でメッセージ投稿が繰り返され、サイト自体が炎上するからである。

そう言うバイトがあると言う話は存在しないのだが――ネット上にも絶対と言う物はない。

こうした事情もあって、このニュースをまとめサイト等が取り上げる事はなくなった。

しかし、大手ニュースサイト等は掲載しているのが現状である。何故、大手がスルーしそうな話題を今更になって触れるのか?

「ニュースサイトでは取り上げられているが、この扱い方は非常に小さい。一体、どういう事だ?」

 サイトを見たユーザーは、様々な意見はあるのだが――最初に記事としての扱い方が小さい事に疑問を持った。

これでは、CMバナークラスと言うべき扱いであり、意識してチェックしないと見落とすレベル。

ここまで小さな扱いにしたのは、意図的に小さくしたという物であり、この掲載方法には作為的なものさえも感じられる。

「作為的な部分はあるかもしれないが――これは、何かの陰謀を感じる」

 ガーディアンの一人は、大手ニュースサイトや様々な場所で取り上げられているニュースに陰謀論を感じていた。

こうした炎上マーケティングは今に始まった訳でなく、ここ最近でも落ち目の芸能人が構って欲しいだけで炎上させるケースさえも存在する。

こうした案件を放置する政府にも問題があるかもしれないのだが、それらを超有名アイドルの芸能事務所による陰謀と証拠がないのに決めつける勢力も問題があるのでは――と。



 環境が変化していたのは、この部分だけではなかった。

リズムゲームの環境変化は、強豪ランカー等が他の作品に流れた事も理由の一つである。

中でも、初見スコアで理論値に近いスコア等を出していた比叡(ひえい)アスカはネットでも有名になった、

複数作品でトップランカーに近い位置にもいた木曾(きそ)アスナ――この他にも有名所プレイヤーは多いだろう。

そうしたプレイヤーが離れた事で、逆に埋もれていたプレイヤーがピックアップされている――と言うのが有力である

一方で、強豪プレイヤーの中にはプレイスタイルで見本となるべき人物も何人か存在していた。

木曾もその内の一人であり、彼女のプレイスタイルはゲーセンへ行くプレイヤーにとっては見本と言っても過言ではない。

そうしたプレイヤーが離れた事で、モラルの問題も叫ばれ始めている。

「ここまで状況が変わってくるとは――」

 この状況を見ていた、有名プレイヤーはこう思ったのだと言う。

リズムゲームが超有名アイドルの宣伝をする為の手段ではないと言うのに――歴史は、繰り返されてしまうのか?

「超有名アイドルをゴリ押しするだけで客足が伸びると思っているのならば、考え方を改めるべきだろう」

 この考えに至っていたのは、ビスマルクだった。芸能事務所のやり方はコンテンツの無駄遣いと断言しているようでもある。

彼女は数日の内に世紀末と言うべき状況に変わったリズムゲームの環境を見て――何かの前触れと感じていた。

その悔しさは、彼女がタブレット端末を持っている腕が震えている事からも読み取れるだろう。

「ソシャゲの廃課金勢やその他の案件から、コンテンツの正しい流通方法を学ばなかったのか?」

 ビスマルクは改めて思っていた。超有名アイドルの様なゴリ押しコンテンツ流通の時代は終わっている。

それこそ一部信者のみしか喜ばないのは明らかであり、時間の無駄である事を芸能事務所側は理解していない。



 午前11時、ARゲームの方では今回の一連の事件が大きく報道されている事はない。

一連の出来事を対岸の火事と言う事でスルーしている可能性もあるのだが――興味のないジャンルにはとことん興味がないと言うべきか。

逆に言えば、下手に他ジャンルのもめ事を持ち込まないのがARゲームにおけるお約束として拡散し、大きな炎上案件もなかったという裏返しかもしれない。

しかし、その法則も打ち砕かれようとしているのは――この段階ではだれも気付く人物はいなかった。

そこまで深読みできるような人物は、ARゲームの運営でも存在はしない。

アカシックレコードの記述を鵜呑みにしてはいけない――それがネット上でも当たり前のような認識をしていた。

そう言った理由もあり、アカシックレコードで懸念されていた項目がスルーされていた可能性もある。

無駄足になるような議論をしている暇があれば、積極的に動くべきと言うのもアカシックレコード上で言及されているのだが。

「一連の事件を報道しない理由は、ネット炎上防止か――それとも、余計な不安を与えないようにという配慮なのか?」

 天津風は、周囲の警戒をしながら一連の事件に関して考えていた。

余計な不安と言う意味では、風評被害等の二次炎上を防止する――に繋がるかもしれない。



 午前11時30分、ネット上ではさまざまな虚構情報が拡散しているような傾向がある。

草加市内では、そうした情報はフィルターで見えなくなるような物だが、それをコピペして拡散を繰り返すような記事には対応できていない。

こうした記事に対してのフィルター強化は急務であり、まとめサイトを鵜呑みにするような勢力を締め出すのにも有効と訴える人物はいる。

しかし、下手に情報の規制等を行えば、今度は表現の自由を訴える勢力が動き出す。

こうした勢力を敵に回すのは、好ましくないとARゲーム運営は考えているらしいが――本当にそれが運営の総意なのか?

「情報の選別が出来なければ――それが、試される時が来るのか? まるで、大災害が起きる予兆を思わせる――」

 一連のネット情報をタブレット端末で確認し、偽情報や虚構記事を通報すると言う作業をしていたのは、比叡だったのである。

何故、彼女がこのような事をしているのは不明だが――憂さ晴らしやストレス解消、単純な作業と言う訳ではない。

彼女は情報の餞別を行えないようなネット弱者に対し、まとめサイトやネット炎上を誘導するような悪意ある発言者のつぶやきを鵜呑みにしてはいけない――それを訴えようとしている。

これらはARゲーム運営も管轄外と言う事もあって手が出せず、彼らはARゲームのフーリガンやモラル欠如をしたプレイヤーの検挙等をメインに動いていた。

しかし、比叡はネット炎上を大災害と例えている。一体、彼女は何を踏まえてネット炎上を大災害と例えるようになったのか?



 その一方で、炎上阻止に動く組織も存在した。それがARゲーム運営と思われたが――。

「愚かな事を――ネット炎上は、一部のアフィリエイト勢力や超有名アイドルファンしか喜ばないと言うのに」

 メイド服にARメット、ブーメラン型のARガジェットを振り回していたのは、飛龍丸(ひりゅうまる)だった。

彼女は以前に天津風(あまつかぜ)いのりと戦闘した際にガジェットを大破、更にはアカウント凍結等のボロボロとも言える状態になる。

その後、大破したガジェットは別タイプのガジェットにアップデートしている。その形状は以前と同じだが、バックパックがシャープになって重量が1キロほど軽くなった。

凍結されたアカウントは、別のオンラインゲームで不正手段で得たレアアイテムをリアルマネーに換金しようとした高校生を逮捕し――その功績で凍結が早い段階で解除される。

「何としても――世界の真実を公表しないと」

 飛龍丸は焦るような表情を見せるが、それはARバイザーの影響で周囲には全く見えなかったという。



 4月26日、西新井大師駅近辺――ある人物が倒れている状況を見たギャラリーが周囲を取り囲んでいた。

一部のギャラリーは、その状況を写真に撮ってSNSへ拡散しようとも考える。

しかし、その頃には警察が姿を見せ、現場調査を行っていたのだが――倒れている男性は気を失っているだけであり、殺人事件ではないようだ。

気を失っていると言っても、周辺が血の海等になっている訳ではない。この様子は、どう考えてもおかしいのが普通である。

その際に使われたのは――明らかにARゲームであると判明した。警察はARゲームとは言わないが、周囲のギャラリーにとっては暗黙の了解でもあった。

【この者、ネット炎上アフィリエイター犯罪者】

 その男性に置かれていた謎のカード――と言うよりも、スマートフォンに表示されていた壁紙である。

一体、誰がこのような事を行ったのか? まるで、特撮番組に出てくるようなヒーローを気取ろうとでもいうのか?

周囲のギャラリーが警察の登場で解散する中、一人の人物が事件の中継を谷塚駅近辺のアンテナショップで見ていた。

「ARインナースーツを着ているようには見えなかったが、明らかにARゲームによる物か」

 今回の事件をARゲームによる事件と考えていたのは、ネット炎上を狙っている人物だけではない。

ARゲームの不正行為を取り締まる側も、ARゲームを守るべく動くガーディアンも――動かざるを得ないだろう。

その内の一人、飛龍丸(ひりゅうまる)はラーメンをスティック状にしたような駄菓子を口にしながら、中継映像を見ていた。

「どうして、ARゲームを戦争の道具にしようという連中は出てくるのか――」

 飛龍丸はさらりと爆弾発言になりそうな事を言うのだが、それを真面目に聞いているような人物はいない。

彼女のメイド服と言う外見もそうだが、周辺を歩いているギャラリーの中にはヒーローや魔法少女、更にはパワードスーツと言うコスプレイヤーが歩いていた。

中には露出度が高いようなコスチュームを着ているような女性もおり、ある意味でも無法地帯にも思えてくる。

しかし、これがARゲームを町おこしにしようと言う草加市にとっては『あるある』と言ってもいい光景だ。

「いずれ、北千住や秋葉原、その他の関東エリアのARゲームプレイヤーも、ここに来るだろう。そこからが――」

 駄菓子を食べ終わった飛龍丸は、ARメットを被り、何処かへと消えてしまった。

その消え方は、まるでテレポートしたかのようなエフェクトで消滅したと言う。

ログアウトみたいな消え方と言う目撃者もいるのだが、瞬間移動はARガジェットを使用したとしても不可能である。

それこそ、超能力や魔法の世界であり、ARゲームで再現できるレベルではない。



 4月27日午前11時50分頃、飛龍丸が戦っていたのは炎上系まとめサイトの管理人に雇われた傭兵崩れ――。

ARゲームのARTPSやFPS系のギルドメンバーである。こうした勢力は、イースポーツ化が早期に行われ、レアアイテムを得る為の軍資金を求める。

選択肢の一つとして存在したのが、迷惑メールに紛れて入ってくるまとめサイトの管理人を護衛する為の任務だ。

こうした任務にはリアルマネーで報酬が支払われ、中には10万円規模と言うのもあるのだが――こうした行為は、ARゲームとして見ると違法行為に該当する。

ジャンルによってはケースバイケースだが、リアルマネーが絡む違法性の高い八百長試合、超有名アイドルの宣伝行為、マスメディアへの情報売買――。

他にも事例があるかもしれないが、発覚すればネット上で炎上しかねないような事例である。

こうした人物達が使用するのは明らかな違法ルートで入手したレアアイテムであり、このような手段で入手したアイテムが違法である事は別のオンラインゲームでも実証済みだが――。

「愚かな――」

 飛龍丸が右手で指をパチンと鳴らすと同時に、背中のウイングが大型ブーメランに合体し、飛んできたブーメランをすかさず左手で掴む。

そして、それをそのまま放ち、周囲のチートプレイヤーに武器を使わせないと言わんばかりに即撃破する。

「お前達の断末魔を言わせる余裕も――与えない!」

 決まり文句は決まっている。どうせ、超有名アイドルに対しての賛美等を――と言うのがテンプレだろう。

そして、ネット上ではその他の勢力が物理で超有名アイドルファンを弾圧等と煽り、炎上マーケティングを展開する。

それがお決まりとして過去にも繰り返されて来た。それをネット住民はシステムの変わった戦争と言う。

しかし、こうしたテンプレはアカシックレコードにも記載されており、対抗策も同時に記載されている。

つまり――彼らが行っている事は無駄足なのだ。なのに、このような事を繰り返すのはどういう事なのか?

その答えは、ひとつしかない。それは、それを繰り返させる事で莫大な利益を得ている人物がいるからだ。

「虚構ニュースや炎上誘導のまとめ記事を作らせはしない――それらが、全ては計画的なマッチポンプだと分かっているから」

 飛龍丸は、今回の首謀者が誰なのかは分かっていないが、何となく犯人が分かりつつあった。

まとめサイトの管理人をまとめて操る事が可能で、更にはカリスマ性を持つような人物――ネット上では超有名アイドルが犯人とも言われている。

しかし、飛龍丸はネット上の予想とは違う様な人物が犯人と考えていた。

「それに、ネタバレがラスボスと言う話を――」

 別のネットニュースで触れられていたネタバレがラスボスと言う説、それを飛龍丸が信じる事はなかったと言う。

一時的には巨悪が発見できない際に『犯人が特定されないような方法』と言う意味で考えていた。



 午前12時、飛龍丸の襲撃に関するニュースがトップを飾ると思っていたが、ニュースでは別の事件を取り上げていた。

『次のニュースです。競馬の高額馬券的中に絡む事件で、警察は馬券を購入していた――』

 アンテナショップでビスマルクが見ていたニュースはARゲームとは一見して無関係に見える、高額馬券のニュースだ。

しかし、ARゲームとは直接無関係でも、内容が読み上げられると――状況は一変する。

『――警察の発表によると、5億円を超える馬券的中で得たお金を、有名アイドルグループのCDを購入する資金にしていたと――』

 これには驚きを隠せなかった。動揺する人物もいるのだが、これがアイドル投資家のやっている違法行為の一部である。

しかも、この事件が判明したのも氷山の一角にすぎず、コンテンツ消費が自作自演で行われている事、更には炎上マーケティングにも――。

「もはや、こうした事件でさえも異常と感じなくなってきている。これも一種の慣れてしまったという事なのか」

 ビスマルクは一連の事件に関して、異常と感じなくなった事に違和感を感じていた。

そして、こうしたインフレ状態を生み出したアイドル投資家は何としても規制しなくては――と。

彼らの様な勢力が国会に進出し、超有名アイドル以外のコンテンツを魔女狩りしていく状態になれば――WEB小説におけるチート無双や悪徳令嬢等の比ではなくなるだろう。



 数日前、ネット上には様々な虚構記事がアップされていたと言う。

【アイドル投資家、日本の超有名アイドルを海外進出させる為の資金を募集】

【リズムゲームに超有名アイドルの楽曲を導入しなかった場合に、超有名アイドル税が導入される?】

【超有名アイドルを日本の最重要コンテンツにする為、政府与党に裏金工作か?】

【超有名アイドル以外のコンテンツを全面禁止する法案が動く?】

【日本政府が超有名アイドルの歴史を必修科目に?】

 記事のタイトルを見ても、明らかに虚構記事と丸わかりであると同時に、アカシックレコード内のWEB小説の内容をコピペしただけの幼稚な物が多い。

一体、こうした行動の裏には何があるのだろうか――この段階で予測はできても、それを的中させる事が出来る人物はいなかった。

「このような虚構記事にはガーディアンも動かないか」

 虚構記事を見た比叡(ひえい)アスカは、ガーディアンが記事の削除にも動かない事は放置されているとも考えていた。

しかし、それでも悪質な記事は通報後に削除されているので、仕事をしていない訳ではない。

その一方で、一部の記事は特定勢力をおびき寄せる為、意図的に放置しているとも考えられた。

「なるほどね。ガーディアンは、こういう手段を取るのか」

 別所で同じまとめ記事を見ていたのは、飛龍丸(ひりゅうまる)だった。

彼女は超有名アイドル勢力に対して、勢力の駆逐を考えていたのだが――虚構記事が放置されている件は、ある意図を把握して通報はしていない。

その意図とは、ガーディアンが一部の勢力を炎上させ、更にネット炎上を拡散しようと考えるまとめサイト管理人やアフィリエイト狙いの個人ユーザーを一網打尽にする事――。



 4月27日午前12時30分、あるアンテナショップ周辺。そこは野外サバゲ――野外ARゲームの有名所である。

場所としては草加駅と松原団地駅の間で、駅からシャトルバスも出ているのだが、徒歩でも行けない距離ではない。

そこでも傭兵崩れや報酬に釣られたARゲーマーが、超有名アイドルのまとめサイトを運営しているアフィリエイターを護衛している。

何故にアンテナショップ周辺なのかと言うと、そこから数キロ離れた所に有名アイドルのアンテナショップがあり、そこでイベントを行う為らしい。

そこにアイドル投資家と一緒にアフィリエイターがゲストとして呼ばれているのだが――ポスターにも講演会としか書かれていない。

内容を描かないのはトラブル防止もあってのことだが、どう考えてもARゲーム批判や超有名アイドル神化等を堂々と言うに違いない――とネット上では噂されていた。

「誰だ、貴様――はっ!?」

 ある傭兵の一人が目の前に不審者を発見した為、即座に発砲しようとしたが――ARゲームフィールド外なので銃火器は作動しない。

そのはずなのだが、何とアサルトライフルから銃弾が放たれた。これに関しては彼も驚いたのだが、周囲の傭兵も同じように驚く。

一体、これはどういう事なのか? プレイヤーの一人がアイドル投資家に尋ねようとしても『企業秘密』と言う事で教えてはもらえなかった。

いっそのこと、ネタバレと言ってくれれば――と心の底では思っていたのだが、『企業秘密』と言われては従うしか手段がない。

他の傭兵もロケットランチャーやハンドガン、グレネードで目の前に姿を見せた不審者に攻撃するが――。

目の前の人物のARアーマーに傷一つ付いていなかった。ある意味でもチートと疑われておかしくはないだろう。

「馬鹿な――この一撃も効かないのか?」

「あり得ない! 奴はチート使いではないのか?」

「それこそ尚更だ。奴がチート使いだとすれば――」

 周囲の傭兵が慌てるのも無理はない。彼らの使用している武器は――違法ガジェットだからである。

本来の正規ルートで流通しているARガジェットであれば、フィールド内でもゲームとして成立していなければ発動はしないはずだ。

それが動く以上はチートと言われても仕方はない。しかし、それはARガジェットだけではなく――ARアーマーにも適用される。

「アーマーだけが起動しているとは考えにくい」

「どんなトリックで攻撃を無効化しているのか」

 しかし、次の瞬間には傭兵達は瞬時にして倒されてしまう。常識では考えにくい『ワンパンチ』で――。

この技が使用出来る人物と言えば、あの人物しかいないだろうか。

「ここがフィールド内だったのは不幸中の幸いか――」

 目の前にいた不審者、それは別の場所でARゲームを起動させ、ARアクションフィールドを展開し――先ほどまでの攻撃を無効化していたのである。

その人物とは――両腕のARガジェットを見ても分かる通り、アイオワだったのだが――ガジェットの形状がパワードミュージックで使用するソレとは違っていた。

「そのARガジェットは――アガートラーム――!」

 ワンパンチで吹き飛ばされた傭兵の一人は、アイオワが使用しているガジェットがアカシックレコードでも言及されているアガートラームと感じたのだが――。

その考えに至るのは少し遅かったとも言うべき流れである。気づいていれば、対策などいくらでも取れたからだ。

わずか1分の間に、周囲にいたはずの傭兵軍団は壊滅し――例によってガーディアンが逮捕する。ここまで来るとWEB小説のテンプレ展開であった。

【アガートラームだと!?】

【あの伝説とも言うべきチートキラーが? にわかには信じられん】

【一体、どうやってあの武器を?】

 ネット上でも、アイオワがアガートラームを持っている件に関して疑問を持っている物が多かった。

アガートラームはアカシックレコードでも言及されているが、その威力はチートガジェットよりも大きく劣る物である。

それが、あの威力を発揮するのは――どういう事なのか?



 一方で、今回の計画に関して疑問を持っている勢力は別の所にも存在した。

ガーディアンに抵抗する勢力もゼロではないが、ネット上で目撃例があるだけでも2ケタは存在する。

「まさか、想定外の連中が邪魔をするとは」

 一連のアイドル事務所に関して黒服のスタッフが愚痴る。

彼らはアイドル投資家が来店する予定だった店にも強制調査を行うはずだった。

この黒服はガーディアンとは別の組織に属する人物らしいが、その詳細はアカシックレコードにも記されていない。

ネット上のまとめサイトでは色々と書かれている一方で――アカシックレコードには書かれていないとは、どういう事なのか?

「豊洲の新市場予定地を買収し、アイドルのアンテナショップにしたという一件もある」

「こちらとしてはアイドル投資家を減らしてくれるのは都合がよいが」

「――こちらの手柄が奪われる。それだけは避けたいのだが」

 黒服のメンバーも、アイオワの件に関しては同業の仕業とは考えていないらしい。

むしろ、彼らのやっている事は自分達の仕事に関しての妨害とも――。

「芸能事務所のやっている事は流行語の使用権利を確保し、超有名アイドル王国を日本に作る事だろう」

「そこまで来ると、芸能事務所の暴走だな。ライバルに虚構の不祥事を拡散し、週刊誌の出版社と協力するとは――」

 彼らの話を聞く限り、芸能事務所側もマッチポンプを仕掛けているようにも聞こえる。

それに、ARゲームの権利を独占する為に、自分達のライバルを偽の不祥事で潰そうとも考えていた。

まるで――アカシックレコードに掲載されたWEB小説のフジョシ向け二次創作作品――オリジナルキャラのモブメイン等に代表される小説である。

そうした世界を阻止する為に動いている人物こそ、比叡やビスマルクの様な人物、ガーディアンとは別に動いている大和朱音(やまと・あかね)なのかもしれない。



 一連のデマニュースや虚構記事はネット炎上勢やアフィリエイター、悪目立ちしようというユーザーによる物だった。

実際、それらのニュースを偽物と知らずに真実だと考え、つぶやきサイトのサーバーをパンクさせてしまっているユーザーもいる。

それ以外にも、デマニュース等は週刊誌やテレビ局と言ったマスコミを釣ると言う目的もあり、これによってメディアを混乱させる意図もあったのかもしれない。

しかし、こうした動きに対してARゲーム運営は単に身動きが取れない状態でいた訳ではなく――様々な手段で偽情報の封じ込めを行っていた。

その方法とは正式なソースのないニュースを拡散しないという内容のメッセージを拡散すると言う物である。

 その一方で、強行手段で炎上勢力を物理消火している勢力に関しては関与を否定していた。

彼らはARゲームの運営を名乗っている訳ではないのだが、こうした動きが更なる火種になる事を運営は懸念していたのかもしれない。

「不味い事になったわね――」

 一連の事件が悪い方向に傾いた事は、ガーディアンの耳にも入っている。別勢力にも広まっているのは決定的か。

それを踏まえ、大和朱音(やまと・あかね)は別の懸念を抱いていた。それは、ARゲームの海外進出と言う噂とも関係しているのだが――。

「ありもしないようなネタをネタバレと言う事で拡散されるのも都合が悪い。さて、どうするべきか――」

 大和がタブレット端末で見ていた記事、それは西雲響(にしぐも・ひびき)と名乗る人物に関する物だった。

何故、彼女が西雲に眼を付けたのかは不明である。接点と言う物も存在しないはず――。



 4月27日午前12時40分、アイドルグループの運営しているアンテナショップ周辺ではネット炎上勢力が何者かによって鎮圧されていた。

これは、少し前に炎上サイト等のアフィリエイターがアイオワによって壊滅させられた場所から数百メートル程度しか離れていない。

この件もアイオワの手による物か――と一部のフジョシ勢や別勢力は思った。

「どういう事だ――?」

「子のやり口は、第3勢力の仕業だと言うのか」

 しかし、これらに関しては別の何者かである事以外は分からずじまいとなる。ガーディアンも、現場に到着した頃には――鎮圧後だったからだ。

正体が分からなかった理由としては、その姿を目撃出来なかったというのもあるのだが――。



 午前12時50分、草加市内の別のゲームセンター、場所的には草加駅から歩いて10分と言う位置だろうか。

そこで行われていたのは新作リズムゲームのロケテストだ。大行列まではいかないが、そこそこの人数がゲーセンの入り口で整列をしているのが分かる。

ARゲームが主流の予感がする草加市でARゲーム以外の体感ゲームやVRゲームが置かれていない――と考える事が間違いなのだ。

草加市以外ではエリアによってARゲームが置かれていない場合が多く、今でもVRゲームや体感ゲーム、ビデオゲームが置かれている。

ゲーセン=ARゲームという考え自体、ごく最近生まれたネット上での方程式だが――そう言ったレッテルを貼る事が間違いなのは明白だった。

【ARゲームばかりが話題になる情勢だが、こうして他のゲームも注目されている】

【そうだな。流行りものだけを追いかける勢力を否定するわけではないが、コンテンツは使い捨てではない】

【もっと別の活用方法をしようとは考えないのか――フジョシ勢力や夢小説勢は?】

 ロケテストがされている機種は、2画面方式のリズムゲームで、下画面で演奏を行い、上画面はPVが流れる形式。

数年前に主流となったタイプの機種であり、今でも人気の方は衰えていないのが分かる。この機種はシリーズ物ではなく、単発物なのだが――。

【ARとVRを同じと決めつけている勢力――それが間違いの始まりだろう】

【技術は全く違うと言うのに、何故に同じと決めつけたがるのか?】

【ロケテストをしている機種は複数あるようだが――】

 ロケテストの客層は男性が圧倒的に多いと思われていたが――女性も比較的多く、6:4の割合で男性が多いという結果に落ち着く。

実際、ゲーセンの客層も男性が多く、この場所では対戦格闘等が人気のあるジャンルだった。リズムゲームは客足も伸びず、撤去を検討していた位である。

それが、午前10時の段階で整理券を配った段階で100枚は捌けただろうか。150で定員となる為、予想外の人数が集まったと言える。

【誤った情報を伝達しようと言うまとめサイトが必要悪とは思えない。あれは――絶対悪だ】

【違うな。ARゲームの技術を軍事転用しようと言う勢力が絶対悪だ。それを止めようと動いているのは――】

【ビスマルクだと言うのか? 奴はネット上でさまざまな知識を拡散しているようだが、完全な悪と言う訳ではない】

【じゃあ、誰が――】

 つぶやきのタイムラインには、ロケテストの件以外にも様々な件に関して言及されていた。

しかし、彼らは真相に辿り着く事は――出来ない可能性が高いだろう。

結局は遊び半分でネットを炎上させようと言う考え、自分が目立ちたいだけで他人を貶めるのも躊躇しない――そんな人物が、今回の事件の真意を知るのは不可能だ。

それを確信している人物は一部で存在するが、その内の一人に該当するのがビスマルクである。



 午後1時、当日の整理券は終了となった。おそらく、午後6時前までには150人のプレイが終わると計算しているが――。

筺体数は5台、そこまで巨大な筺体ではなかった為に多くの台を設置出来たと言うべきか。

実際、筺体の大きさは身長170センチ位の大人と同じ程度であり、組立も容易だった為に設置で苦労する事もなかった。

それが複数台のロケテストを可能にしたとも言える。

最近は、ここまでの設置面の配慮を行わないと――と言う裏事情もありそうだが。

近年のリズムゲームはソーシャルゲームの方が半数以上を占めており、それもアイテム課金型が多く、そこでプレイするのを断念する傾向が多い。

ソシャゲにおけるアイテム課金型は廃課金やガチャ問題なども影響している事もあって――。

だからと言って、リズムゲームにもアイテム課金型要素を入れようとして失敗した機種もある為、その辺りの思考錯誤は今でも続いているのが現状だ。

 今回のロケテストが行われた機種に関して、SNS上では特に大きく取り上げられてはいない――メーカー側が情報規制をしている訳でもなく、だ。

ゲームのタイプとしてはタブレット端末で見られるようなタップ+スライド式の物であり、操作関係で目新しさは感じられない

画面的には上画面にMVが流れるのだが、下画面でも見る事は出来る。上画面はギャラリー専用と言える。

動作関係も複雑な動作は求められない物であり、格ゲーでの複雑なコンボや必殺技コマンド等を覚える必要性はないだろう。

しかし、リズムゲームは全機種が同じような動作を求められるかと言うと――機種によって異なる為、格ゲーの様にコンボや必殺技のコマンド等で応用が可能なわけでもない。

 


 ロケテストに極秘で足を運んでいた人物がいた。それは何とビスマルクだったのである。

さすがにゲームをプレイする事は出来なかったが、ロケテストの様子を見てリズムゲームの人気も健在だと感じていた。

「ARゲームが草加市ではメインになりつつある中で、未だに人気があるジャンルを見ると――」

 その一方で、ビスマルクは一連の超有名アイドルが起こしているゴリ押しとも言えるコラボに関して違和感を感じている。

それは以前に超有名アイドル商法としてネット上で炎上し、更にはこれを原因としてネット上を飛びだしての物理炎上を起こした事もあったのだ。

この事件は歴史上から見ても最大の悲劇とされ、海外アーティスト中には日本のライブを取りやめている人物もいる位だ。

取りやめているアーティストの中には、日本は超有名アイドルを絶対的な神として信仰対象としている――と皮肉交じりでつぶやきを拡散している人物がいるほど。

「やはり、超有名アイドルは完全駆逐するべきなのか――」

 ビスマルクは過激派勢力の言う超有名アイドルの完全駆逐――それを達成したとしても、コンテンツ流通は変わらないと考えていた。

一部の面白半分にネットを炎上させようと言う勢力、ネット炎上勢力、フジョシ勢等――こうした勢力を魔女狩りしたとしても、結局は同じ事だろう。

結局、光と闇が表裏一体であるのと同時に――ネットにも光と闇が存在する。ネットの闇とは、炎上勢力等の行動なのかもしれない。

「しかし、誰が必要悪なのか? アカシックレコードの存在こそが超有名アイドル商法と言う悪を倒す為の手段――」

 ビスマルクはふと思った。アカシックレコードの記述こそが必要悪であり、超有名アイドル商法を根絶する為に協力体制を組むべきと警告したのではないか――と。

しかし、それを認識させる為の人物となったのは誰なのか? アカシックレコードにアクセス出来る人物は一握りでしかない、とネット上では言われている。

それを踏まえると――絶対悪となった人物は複数いる可能性もあり、それに便乗しようと言う人物もいるかもしれない。

果たして、ビスマルクの考えは杞憂で終わるのだろうか。それは――。



 4月28日、午前の段階からネット上は慌ただしかった。

その理由として、さまざまなデマニュースが拡散されていたからである。

アカシックレコードのコピペクラスの様な低レベルな物もあるが――ネットをお手軽に炎上するのには、これで十分と言う判断なのだろう。

「遂に――動き出したか」

 タブレット端末ではなく、ARバイザーでニュースを確かめていたのは飛龍丸(ひりゅうまる)だった。

少し前からアイドル投資家を初めとした勢力の動きが慌ただしくなっていたのだが――彼女は、それをテコ入れと考えている。

そのテコ入れとは、飛龍丸が一番望まなかった結末に近づく展開――だったのである。

超有名アイドルが全世界を掌握し、デウス・エクス・マキナとなる地球滅亡に等しいバッドエンド――人類は、それを望んでいない。

それを止める為、アカシックレコードの解析をしていた人物もいたのだが、思わぬ展開には驚きを隠せなかった様子。

世界滅亡をカウントダウンする時計も、超有名アイドル商法をゴリ押しする芸能事務所の行動が人類滅亡を1分前まで早めるとは――さすがに思わないだろう。

海外は全く見向きもしないようなネット炎上が、日本では政治家が辞職をするような大規模事件として取り上げられているのだ。

この状況には、海外も衝撃を受けざるを得なかった。ゲーム機が世界征服をする為の大量破壊兵器になるのか――という意味でも。

まるで、玩具で世界征服を企んでいるホビーアニメの科学者を思わせるような展開だ。



 午前10時30分、テレビ局で緊急記者会見が組まれた。

唯一、通販を放送しているテレビ局と地方局以外は同じ記者会見を放送している。

場所は都内某所と言う訳ではなく――何処かのビルのようだ。

窓からは毛長川が見えるのだが、詳細な場所が何処なのかは分からずじまい。

テレビ局の記者や雑誌の記者なども集まっており、それだけ注目度は高いのだが――それでも100人規模ではなく、人数が別の取材などで割かれた格好だ。

その取材が何の取材なのかは分からない。ばれてしまってはスクープではない、と言う事なのだろう。

『我々は、現状のアイドル業界を変える為に――2.5次元とも言えるARゲームへ進出します』

 覆面と言うよりは鉄仮面をしているスーツ姿の人物、彼がプロデューサーなのだろうか?

体格に関しては本当に男性なのか疑わしい箇所もあるのだが――詳細は不明だ。

彼の声に関してもボイスの加工だけでなく、男性なのか女性なのかも分からない状態である。そんな人物を本当に超有名アイドルのプロデューサーと信じられるのか?

これもARゲームの技術なのか? 記者達は戸惑うのだが――。

「2.5次元と言うと、舞台等を想定しているような単語ですが――?」

 ある男性記者が質問をする。確かに2.5次元と言う意味でARゲームを選んだのには意味があるのか――という事かもしれない。

『確かに。ゲーム等の場合は2次元と言う単語を使用しますね。しかし、2次元に超有名アイドルが進出するのはネット上でも炎上を誘い、それが戦争の火種となり――デスゲームに発展する』

 覆面の人物のバイザー部分が光る。その目はデュアルアイであり、左目のみが光ったように思えた。

『ARゲームが人命を奪う様な――デスゲームを禁止しているのは――ご存知でしょう。だからこそ、ARゲームでなければ――海外の紛争を止める事は出来ない――』

 ボイスの加工が不完全なのか、途中でノイズがひどくなる。チャフの類も起動していない、電波妨害が起きた形跡もないのに。

「紛争ですか。まさか――」

 別の記者が質問をしようとした所で、スーツの人物は強制的に中継回線を切った。

どうやら、ここからはオフレコと言うらしい。そして、それとは別に黒いスーツの集団が姿を見せる。

「そこまでだ! 偽物のプロデューサーめ!」

 黒いスーツの集団は覆面の人物に対し、サブマシンガンを構える。それと同時に記者の方は逃げまどい、中継エリアはパニックとなった。

記者が外に出た所で、スーツの集団はサブマシンガンを撃とうとしたのだが――それが火を噴く事はなかった。

「馬鹿な――こちらは本物を持ってきているのだぞ? 何故、撃てない」

 本物と言う発言をしたスーツの人物は、自分が迂闊な発言をした事に気付いていなかった。

本物と言った段階で、本物の銃を所持していると一部の記者が勘違いし、遂には警察を呼んでしまったのである。



 午前10時40分、記者会見は予想外の形で再開された。警察の事情聴取が行われる事はなく黒服の集団を一斉検挙、警察はそのまま退場する。

『どのような形であれ、物理手段や犯罪行為でネット炎上を仕掛けようとする勢力を――』

 しかし、次の瞬間には爆発音で覆面の人物の声が遮断された。

これに関してはカメラの方も爆発音の方向を向いており、そこには煙も見える。ただし、火災が起きた訳ではない。

その後、会見は再中断。それが再開される事はなかったと言う。何故かと言うと、取材陣が爆発のあった現場へと向かってしまったからだ。

「始まったか――」

 誰もいない事を確かめて、鉄仮面型のARメットを脱いだ――と思われたが、それはホログラムだった。

鉄仮面デザインのメットがCG演出で消滅したのと同時に姿を見せたのは、SFヒーローを思わせるようなARメットである。

「ここまでのカードを切らせた以上は、超有名アイドルファン等が荒らしていったフィールドの後始末をしてもらう――」

 先ほどの会見に姿を見せていた黒服の正体――それは西雲響(にしぐも・ひびき)だったのだ。

何故、彼がここまでの事を実行する事になったのかは、超有名アイドルファンがARゲームにしてきた事を踏まえれば――。

ある意味でも、西雲が行っている事は絶対悪に該当するだろう。アカシックレコードの記述に従って――と言う可能性は否定できない。

しかし、西雲はテンプレで今回の作戦を考えた訳ではない。あくまでも自分の意思で決めた事。



 午前10時45分、谷塚駅と竹ノ塚駅の付近にある電車の線路付近、そこにはアイドル衣装を思わせるようなARアーマーを装備したプレイヤーの姿が団体で確認出来た。

その人数は40人以上の50人未満――この人数を相手に単独で挑んでいたのは、島風朱音(しまかぜ・あかね)と大和朱音(やまと・あかね)、長門(ながと)クリスの3人である。

本来は長門と島風がパワードミュージックでレースを展開していたのだが、そこへ妨害を仕掛けてきたのが超有名アイドルグループを思わせるようなARアーマーを装備した集団だった。

彼女達が使用する一発で超高層ビルさえも消滅させそうなガジェットからは、もはや逃げ回るしか方法がない。

しかし、向こうが建造物に攻撃を仕掛けるような気配がなかった。どうやら、向こうも反則行為は知っているようである。

「建造物の破壊行為――ARガジェットでは不可能だが、不正ガジェットでは可能な場合もある――と言う事か」

 無差別破壊行為もARゲームでは禁止されており、場所によっては莫大な罰金も発生する。

それをやってしまうと、彼女達は芸能活動が出来なくなるばかりではなく――自分達の芸能活動が黒歴史となりかねない。

長門の方も、今まで別のARゲームで反則行為をやっているプレイヤーを見た事はあるのだが――。



 逃げ回る2人の前に姿を見せたのが、別の目的があって現地入りをしていた大和だったのである。

しかも、大和はパワードミュージック仕様の強化型ガジェットを装備しており、これによってますます戦艦大和に近づいた気配さえ感じた。

その一方で、パワードミュージック仕様のARガジェットはサイリウムを思わせるようなラインとボリュームつまみ、鍵盤のデザインを持つバスターライフルである。

「向こうが地球破壊クラスのチート武装を持っている以上は、こちらの下限をする必要性もない」

 ARバイザーでその他の武器リスト、そこにはアガートラームやエクスカリバー、グングニルと言った有名所の武器もリストアップされている。

その中には明らかにARゲームでは没になった武装――巨大ロボットを思わせるユニットもあるのだが、さすがに大和が選択するような事はない。

「超有名アイドル――お前達が踏み入れた世界、それはチートプレイヤーが踏み込むべきではない世界でもある!」

 バスターライフルの引き金を引いたと同時に放たれたのは、虹色のビームである。

しかも、そのビームは拡散タイプであり――何かの曲のリズムに合わせるかのように次々とチートプレイヤーに命中していく。

気が付けば――襲撃してきた45人近くは大和が姿を見せて30秒も立たないうちに壊滅した。

「チートプレイヤーがたどるのは、負けフラグとかませ犬の称号――これが、ARゲームと言う名の新日常系――この世界の掟だ!」

 大和は強く断言する。金に物を言わせるような廃課金プレイヤーや超有名アイドルファンに代表されるアイドル投資家等――。

そうした勢力が無双する事で、ARゲームは瞬時にして運営終了に追い込まれる。それを、過去に様々な場面で大和は目撃していた。

「あれが――チートキラーと言われるアガートラームの力――?」 

 島風は目の前で起きた光景を未だに把握できずにいた。あのパワーは他のARゲームでは滅多に見る事は出来ないだろう。

ある意味でも運営側の怒り――あるいは運営側の星サイトでも言うべきか。

超有名アイドルの芸能事務所が敵にした物、それはネット炎上が発生する事で風評被害が発生する事を恐れる者たちの――声とも言えるだろうか。

「金の力で因果律を変えようなどと――」

 長門の方も状況は理解しつつも、まだ戸惑いが隠せない。

「ARゲームがイースポーツと言われる以上は、不正があってはいけないのだ!」

 大和は今まで以上に運営方針を強化しなくては――と思っていた中、今回の超有名アイドルの宣伝活動をキャッチしたのである。まさか、自分が仕掛けたトラップに芸能事務所が引っ掛かるとは。

「準備不足が露呈したな。超有名アイドルが金の力で実写映画を作って炎上するのと同じ事をARゲームで起こせば――クールジャパンどころではなくなるだろう」

 そして、大和は遠くで見ていた黒服の人物を発見し、瞬間移動とも言える速度で――。


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